女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さん(59歳)が、猫のこと、暮らしのこと、出生地であるスウェーデンのことなどを写真と文章でつづります。今回は、「食事」について。薬膳マイスターの資格ももつ川上さんが、2月に迎える60歳の誕生日を前に、若い頃は無頓着だった「食」に対する気持ちの変化や、最近のこだわり、リアルな食事を紹介します。

【写真】川上麻衣子さんの発酵を意識した「リアルな朝食」

若い頃は無頓着だった「食」への意識

いつ頃からでしょうか。食事をすることが、若い頃よりも楽しいと感じている自分に驚いています。

正直なところ20代の私は、ほとんど食に興味がなかったと言っても過言ではないほど、食べることに無頓着でした。

寝起きにコーヒーとタバコがあれば、それで満足という、今思うと不健康極まりない生活を若さで謳歌していた節があります。

タバコとの縁がきれて20年は経ちましたが、あの当時の生活を振り返ると、若かった自分の奢(おご)りが見えるようです。本当に、当時とは世の中の風紀も随分と変わったなと、改めて思います。

「あと何回食事できるか」。ある作家の言葉で気づいた食のありがたみ

当時、20歳そこそこだった私は頃、作家の村松友視(むらまつ・ともみ)さんとお食事をともにする機会がありました。

その際に村松さんが「年を取ってくると、毎回の食事がありがたく思えてくるんだよね。あと何回食事できるのかなと考えたら、あまりムダな食事はしたくないなと感じたりね」とおっしゃられていた仕草にとても大人を感じ、その瞬間が今でも印象に残っています。

そして当時は「そんなものなのかしら」としか捉えられなかった言葉も。年々実感に変わりつつあります。

60歳の誕生日を目の前にした今、毎日三度の食事を繰り返し取ることができるのは、健康である証であり、豊かであることへの感謝でしかありません。

大人としての嗜(たしな)みとして、きちんと「食」と向き合いたい

それなのに、空腹を満たすためだけの食事であっては申し訳なく、またダイエットばかりに気を取られるのもなにか、大人としての嗜みに欠けているように感じます。

ここはひとつ、60歳代からの人生をすてきに謳歌(おうか)していくために、しっかりと「食」と向き合う時期に来たのかもしれません。

しかしひと言で「食」と言っても、朝食・昼食・夕食・そして晩酌もあります。洋食・和食・中華もあれば、ひとりで味わう食事。友達と語り合う食事。家族と過ごす食卓…。さまざまな場面が目に浮かびます。

何気なく思い起こす食事の記憶は何故でしょうか。不思議と優しく微笑ましい気持ちを呼び起こしてくれます。この年齢になるまでに過ごしてきた食事の場面が愛しく思える感覚こそが年を経てきた証拠なのかもしれません。

日々繰り返されてきた「食する」という行為がいかに文字どおり、ありがいことなのかを教えてくれます。

食事で取り入れている「ルーティン」で、食べる時間が充実

最近になって食事の際私が取り入れているのは、常に「最初のひと口目は意識して30回は噛(か)む」というルーティンです。

これが思いのほか、空腹のあせる気持ちを落ち着かせ、素材そのものの味をしっかりと感じるきっかけとなり、その後の食事の作法に大きく影響してくる気がしています。

そうそして、この作法が、若い頃とは違った意味で難しくなってきたのも、私にとって今大きな課題となっています。

指先や口元の筋力が落ちることによって生じるだらしなさは、本人自分が意識している以上に年齢を感じさせてしまいます。その影響がいちばん顕著に現れるのが食事の場面だと思うのです。

幼い頃は姿勢を正しなさいとしつけられ、意識をしてきた食事の作法が、大人となればいつの間にかしかる人もいなくなります。そのせいなのか、意外と高齢者のマナーの悪さが目につくようになりました。

他人のフリ見てわが振り直せ。の言葉どおりに、最近私が意識して心がけているルーティンです。

発酵と手間を楽しむ、日々の食卓

何事にも余裕を持って取り組むことが、大人の嗜みと思えば、生活にひと手間、ふた手間かけることも嗜みの1つとなるのでしょう。

食材が発酵する時間を楽しむ暮らしもしかり。最近の私のお気に入りは発酵玄米、発酵ショウガに続き三五八漬けです。

福島県に伝わる麹漬けですが、とても優しい味で、よく噛んで素材の味をゆっくりと楽しむ生活には欠かせないアイテムとなっています。

まな板に向かい素材を丁寧に見つめていると、思いがけずかわいらしい模様を見つけたり、最近では冷蔵庫の卵を手に取るたびに、なんて神秘的で美しいフォルムなのかしらと感動したりしています。

毎日体内で、見事な楕円の殻をつくり産み落とす奇跡。

日々感謝して丁寧にいただく暮らしができれば、きっと豊かな老後を過ごせるのではないかと、今のうちから意識して過ごしていこうと思っています。