(※写真はイメージです/PIXTA)

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「2025年問題」が現実のものとなり、後期高齢者が急増するなか、介護施設への入居はかつてないほど身近なものになっています。しかし、多くの家族にとって誤算となるのが、入居に伴う「生前整理」の過酷さです。急な病気や怪我をきっかけとした入居では、数十年分の生活が詰まった住まいをわずか数週間で片付けなければならないケースも珍しくありません。

50年分の生活を2週間でリセット…「親の入居」と同時に始まった片付けの地獄

「お母さん、ふざけないで! これのどこがゴミじゃないっていうの。全部捨てなきゃ、施設には入れないんだよ!」

鈴木美智子さん(54歳・仮名)。声を荒らげた相手は、母・ハナさん(82歳・仮名)です。千葉県内、築50年の一軒家で一人暮らしをしていたハナさんが、自宅の廊下で転倒。大腿骨を骨折し、緊急手術を受けました。術後の経過は良好だったものの、車椅子生活を余儀なくされ、入院中に認知機能の低下も見られるようになりました。医師からは「一人暮らしに戻るのは極めて危険」と断言され、美智子さんは急いで老人ホームを探すことになったと振り返ります。

「母の受給年金は月13万円。私が月々7万円ほど持ち出せば、なんとか民間の介護施設に入居できる目処が立ちました。でも、本当に大変だったのはそこからだったんです」

美智子さんが苦労したのは実家の片付け。施設側から提示された入居日は14日後。さらに、施設に持ち込めるのはテレビ1台と小さな衣装ケース2つ分、あとは最低限の身の回り品だけという厳しい制限がありました。

「施設に入居したら、きっと片道切符になる。生前整理を行う最後のチャンスだと思って一気に片付けようと思ったんです。しかし母が50年以上暮らしてきた4LDKの家には、膨大な量の荷物がありました」

昭和の頃からもらったままの贈答品、一度も着ていない着物、子どもたちが小学生の頃の作文……。母にとってはすべてが人生そのもので、ひとつでも捨てようとすると「私の人生を否定するのか!」と激しい拒絶にあったといいます。美智子さんは平日の仕事を終えた後、実家に通い、深夜まで仕分け作業を続けました。しかし、素人の手には負えず、清掃業者に見積もりを依頼したところ、提示された金額は80万円。この費用はすべて美智子さんが負担することになりました。

「お金以上に困ったのは、通帳や印鑑、保険証券の場所がまったくわからなかったことです。母に聞いても『あっちにある』『誰かに盗まれた』と要領を得ません。家中をひっくり返して探し回るだけで数日が過ぎていきました」

さらに、現代ならではの課題も美智子さんを追い詰めました。

「母が使っていたスマートフォンのパスワードがわからず、契約していた定額制の動画サービスや、複数のサブスクリプションの解約ができなかったんです。カスタマーセンターに電話しても本人確認ができず、窓口をたらい回しにされました。肉体的な疲労以上に、母との板挟みによる精神的な消耗が激しかったです」

結局、美智子さんは業者の力を借りて、大半の家財を「ゴミ」として処分せざるを得ませんでした。入居当日、空っぽになった家を見て涙を流す母の姿に、美智子さんは「もっと早く、元気なうちに一緒に整理を始めていれば……」と、後悔の念を抱いたといいます。

「自宅介護期間なし」が2倍に…急変する入居事情と生前整理の難易度

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護が発表した『介護施設選び経験者の実態調査2026』によると、介護施設に入居する前に「自宅で介護していた期間はない」と回答した人が23.5%に達しました。これは、前年調査と比較して2倍以上の数値です。

この背景には、一人暮らし高齢者の増加や、地域における訪問介護サービスの不足といった社会問題があります。急な怪我や入院をきっかけに、自宅へ戻ることなく施設へ入居せざるを得ない「準備なき入居」が急増しているのです。

同調査によると、入居のきっかけとして最も多かったのは「歩行・運動機能の低下(43.3%)」であり、次いで「認知機能の低下(35.1%)」。厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』でも、介護が必要になった原因の1位は認知症で、身体能力や判断力が低下してから慌てて施設探しや片付けを始める実態が浮き彫りになっています。

また、同調査で「生前整理で難しさを感じたもの」を尋ねたところ、以下のような結果となりました。

1位:日常の衣類や生活必需品(34.3%) 2位:銀行口座、保険、株式などの金融資産(33.7%) 3位:思い出の品(28.8%) 4位:趣味・コレクション(28.2%) 5位:デジタル資産やアカウント(21.8%)

特に1位の「衣類・生活必需品」については、物量の多さに加え、本人と家族の間で「必要性」の判断が分かれることが困難さを増大させています。また、2位の「金融資産」は本人の意思確認や書類手続きが煩雑であり、5位の「デジタル資産」はパスワード解除が困難なケースが多いのが特徴です。

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となった今、介護はより身近な問題になりました。親が元気なうちから、少しずつ生活をスリム化し、資産の所在を共有しておく「生前整理」は、より重要性を増しています。

[参考資料]

株式会社LIFULL/LIFULL 介護『介護施設入居のきっかけ最多は「歩行・運動機能の低下」「自宅介護期間なし」は昨年調査の2倍に/生前整理で難しかったものとは』