記事のポイント
TikTokは米国での所有構造変更により、事業継続の見通しが立ちつつある。
所有権移行がXの混乱と重なる場合、広告主の投資判断が揺らぐ可能性がある。
高い広告成果と成長するEC基盤により、TikTokは一定の信頼を保っている。


2025年の大半を規制上の宙ぶらりん状態で過ごしたTikTokは、2026年を前に、米国における所有構造について一定の見通しが立ちつつある。

ただし、新たな所有体制がマーケターを十分に安心させ、引き続き広告費を呼び込めるかどうかは、依然として不透明だ。

米ニュースメディアのアクシオス(Axios)によると、この取引は12月下旬に発表され、1月22日に完了する予定だという。

これにより、TikTokの中国親会社であるバイトダンス(ByteDance)が、同社の米国事業を国内オーナーに売却するという、長年にわたる問題に一応の決着がつく。

米国事業の45%はオラクル(Oracle)、シルバー・レイク(Silver Lake)、そしてアブダビ拠点のMGXが共同で保有し、20%はバイトダンスが引き続き保有する。残る約3分の1は、既存のバイトダンス投資家の関連会社が保有する見通しだとされている。

もしTikTokの所有権移行が、イーロン・マスク氏によるXの混乱を極めた買収と同じような展開をたどるのであれば、年明け早々からマーケターは大きな「むち打ち」を受けることになるのではないかという懸念もある。

独立系メディアエージェンシーであるグッド・アップル(Good Apple)で、ペイドソーシャルおよびペイドサーチを統括するキラ・ヘンソン氏は、Xの買収とTikTokの新たな所有構造案を比較し、次のように語った。

「広告主の立場からすると、自分ではどうにもできない混乱が展開されていくのを、ただ見ている感覚だった。結局、我々にできるのは、広告費や予算をどこに投じるかを決めることだけだった」

Xの広告事業は、買収後に持ち直しつつある。調査会社のeマーケター(eMarketer)によると、2026年の世界広告収入は24億6000万ドル(約3690億円)に達する見込みで、2025年の22億6000万ドル(約3390億円)から増加するという。

一方、TikTokの広告事業は、それをはるかに上回る規模だ。

ソーシャルネットワーク広告に使われる7ドル(約1050円)に1ドル(約150円)近くがTikTokに流れ込む見通しで、米国だけでも170億ドル超(約2兆5500億円)の広告収入を生み出すと予測されている。

TikTokの激動の1年の内側



2025年初頭、TikTokに対する立法上の圧力は一段と強まった。米国での事業継続には、所有構造の変更か、さもなくば禁止という選択を迫られ、テック企業、投資会社、プライベートエクイティなど、さまざまなプレイヤーが参入を表明した。

12月には、TikTokが米国事業を合弁会社に切り離す契約を結んだと報じられ、その新会社は「TikTok USDS Joint Venture LLC」と呼ばれる見込みだと、アクシオスは伝えている。

オラクルやシルバー・レイクなどの米国企業が、TikTokの中核アルゴリズムをライセンスした「TikTok U.S.」を運営する、国内所有版アプリの主要投資家となる予定だ。

この新たな枠組みは、アプリの要ともいえるアルゴリズムが政治的な争点になるのではないかという懸念から、すでに一部のクリエイターを不安にさせている。一方で、年明け以降の広告投資を抑制しようと計画するマーケターも出はじめている。

新たな禁止期限は2026年1月22日に設定されているが、まだ正式決定には至っておらず、不安定な状況が続いている。

問題は、TikTokがXと同じ運命をたどるかどうかである。

Xでは、ソーシャルメディアと政治の境界が曖昧になり、ユーザーと広告主の双方が混乱に巻き込まれた。

経営幹部の交代と混乱



禁止問題と新たな所有構造案を背景に、複数の主要幹部が相次いで退社した。

2025年春頃、TikTokはレイオフや組織再編を実施し、北米におけるグローバル・ビジネス・ソリューション担当ゼネラルマネージャーだったサミール・シン氏、同地域のエージェンシービジネス担当ゼネラルマネージャーだったジャック・バンバーガー氏、そして広告営業とマーケティングをグローバルで統括していたブレイク・チャンドリー氏らを失った。

チャンドリー氏は3月に職を退き、組織再編の一環としてアドバイザー職に就いている。

こうした幹部の入れ替わりは、Xの状況を想起させる。マスク氏による440億ドル(約6兆6000億円)の買収を前に、当時のTwitterのカルチャーおよびコミュニティ部門のグローバルディレクターだったゴッド・イズ・リベラ氏のように、自ら去った幹部もいた。

一方で、マスク氏はCEOのパラグ・アグラワル氏、CFOのネッド・シーガル氏、法務顧問のショーン・エドゲット氏、法政策・信頼・安全部門責任者のビジャヤ・ガデ氏らを解任した。

Xのような敵対的買収ではないものの、経験豊富な業界人材がプラットフォームから失われていく点について、マーケターは両者に共通点を見出している。

マーケティングコンサルティング会社であるマリネーション(Mallination)の創業者、ノア・マリン氏は、率直にこう語った。

「広告主が何を求めているのかを理解しているレベルの人材を失うのは、その穴を埋めるのが非常に難しい」。

政治的な反発



さらに、政治色の問題もある。

マスク氏によるX買収を巡る騒動の一因は、同氏のドナルド・トランプ氏との政治的関係にあった。加えて、ヘイトスピーチ規制の緩和、モデレーションの後退、記者のアカウント停止、トランプ氏など凍結されていたアカウントの復活といった動きが、批判を招いた。

TikTokもまた、2020年のトランプ政権下で標的となった。大統領は国家安全保障を理由に大統領令を出し、中国企業が所有する同アプリに米国事業の売却を迫った。

その後、トランプ氏の姿勢は、TikTokを全面的に禁止する立場から、米国所有によって「救う」方向へと変化している。この変化の背景には、2024年の選挙で、選挙キャンペーンがTikTok主導のインフルエンサー戦略を活用したこともある。

新しいTikTokの実態は、仮に実現するとしても、まだ多くが不透明だ。ただし、新たな所有構造で繰り返し名前が挙がる人物がいる。

データベース業界の大富豪で、トランプ氏のお気に入りともいわれるラリー・エリソン氏だと、米紙ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は報じている。

政治とソーシャルメディアの関係がさらに曖昧になるなかで、マーケターが懸念しているのは検閲そのものよりも、アルゴリズムやユーザー行動の変化である。

「このシナリオで動いているのは広告主ではない。そこが難しいところだ。イーロン・マスク氏やトランプ氏、そのほかの関係者は、政治やビジネスのことしか考えていない」とヘンソン氏は語る。

Xでは実際に何が起きたのか



マスク氏がXを買収したあと、広告主との関係は急速に冷え込んだ。混乱した経営、政治的論争、アルゴリズムの変更が重なり、広告主は次々と離脱した。

最大の争点となったのはブランドセーフティである。

広告費削減の脅しや訴訟に発展し、業界の自主的基準を定めていたグローバル・アライアンス・フォー・レスポンシブル・メディア(Global Alliance of Responsible Media、GARM)の解体にまで至った。

フルサービスエージェンシーであるクリスピン(Crispin)の最高変革責任者、フレディ・ダバギ氏は、次のように指摘する。

「政治的な側面が見出しになり、ブランドセーフティに注目が集まった。しかし現実には、Xは昔から(Twitterの頃から)偽アカウントやボットに悩まされてきた」。

マスク氏の買収以前から、Xはパフォーマンスやブランドセーフティの面で課題を抱えており、広告予算の優先順位は高くなかった。文化的な存在感はあったものの、マリン氏の言葉を借りれば「重大な出来事が起きたときの、冷水機での会話(世論や会話が集中する場)」のような位置付けにとどまっていた。

マーケターによれば、米国大統領や米国の投資コンソーシアムが、マスク氏のようにTikTokの日常運営に深く関与しない限り、同じ結末を迎える可能性は低いという。

短尺動画プラットフォームであるTikTokは、広告主の満足度と投資を重視し続けてきたと、Digidayが取材したマーケターたちは口をそろえる。つまり、マスク氏の買収直後のXよりも、TikTokは広告主を重視しているように見えるのだ。

2023年の米紙ニューヨーク・タイムズ主催DealBookサミットで、マスク氏が広告主に対して強い言葉を投げかけたことは記憶に新しい。

政治よりもパフォーマンス



TikTokはまだ「大きすぎて潰せない」存在ではないが、利用者数と広告費は着実に増え続けている。

Digidayが以前報じたように、eマーケターは、TikTokの米国広告収入が2026年には22.3%増の171億7000万ドル(約2兆5800億円)、2027年にはさらに24.8%増の214億3000万ドル(約3兆2100億円)に拡大すると予測している。

TikTok Shopも重要な成長要因だ。

2026年のブラックフライデーからサイバーマンデーの期間中、米国での売上は5億ドル(約750億円)を突破したと、米メディアのビジネス・インサイダー(Business Insider)は報じている。

TikTokの最大の差別化要因、そして救いとなり得るのは、広告パフォーマンスの強さ、eコマースでの足場、そして拡大を続けるユーザーベースである。オーディエンスを維持できる限り、マーケティング予算や戦略のなかでTikTokに居場所はあり続ける。

匿名で語ったあるエージェンシー幹部は、「人がいる場所に、広告主はついていく」と述べた。

最終的な見通し



TikTokが、Xを悩ませたような不安定さから完全に無縁でいられるとは限らない。しかし、これまでに示してきた広告パフォーマンスと市場での地位は、少なくとも現時点では、広告主からより長い猶予を与えられている。

新しいTikTokの最終的な姿は徐々に明らかになりつつあり、マーケターは注意深くその行方を見守っている。

「ユーザー体験が安定している限り、メディアバイヤーがデータを再調整するために一時的に立ち止まることはあっても、広告費は大きくは動かないと見ている」とヘンソン氏は語る。

「しかし、こうしたアップデートがユーザーの利用体験に悪影響を及ぼせば、広告費の移動は、次にユーザーの関心が向かう先への移行を示すシグナルになるだろう」。

[原文:After watching X’s ownership issues play out, marketers brace for TikTok whiplash in 2026]

Kimeko McCoy(翻訳、編集:藏西隆介)