ヤングライオンの風格(ウルフアロンの公式Instagramより)

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「ヤングライオン」の象徴

 史上初の「日本人五輪金メダリストのプロレス転向」として注目されていたウルフアロン(29)が4日、東京ドームで行われた新日本プロレス「WRESTLE KINGDOM 20 in 東京ドーム 棚橋弘至引退」でデビュー戦に臨んだ。NEVER無差別級王者・EVIL(年齢非公表)とのタイトル戦という、デビューとしては破格の扱いとなったばかりか、そこで見事にタイトルを奪取したのである。

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 会場には超満員札止めの4万6913人の観衆が集まった。第1試合から観客が熱狂する中で迎えた第5試合、柔道男子日本代表の鈴木桂治監督(45)が勇壮な和太鼓の音色を場内にとどろかせると、入場の花道に柔道着姿のウルフが登場。見慣れた長髪ではなく、頭は丸刈りでヒゲも剃られていた。柔道着を脱ぎ捨てると、「ヤングライオン」と呼ばれる新日本プロレス若手レスラーの象徴でもある、黒のショートタイツ姿でリングに上がった。そして、以前から本人がテレビ出演の際に笑いのネタにしていた濃い胸毛も、しっかり除去されていた。

ヤングライオンの風格(ウルフアロンの公式Instagramより)

「まだ身分は『練習生』ながら、今回の集客を後押ししたのは、間違いなくウルフでした。かなりプレッシャーを背負っているはずですが、さすがに金メダリスト。その表情にまったく気負いは感じられませんでした」(ドームで観戦した元プロレス専門誌記者)

 極悪軍団「HOUSE OF TORTURE(HOT)」を率いるEVILは、10人近いメンバーを引き連れ、入場。ゴングが鳴る前にEVILは金的攻撃を繰り出すも、ウルフは冷静に対応し、エルボードロップの打ち合いを繰り広げた。その後、しっかり組み合うロックアップやロープワークなど、プロレスの基本的な動きを繰り出しながら、ウルフは昨年6月の新日本入門から練習を積み重ねた成果を存分に発揮する。ラリアット、ブレーンバスター、ロープに跳んでのエルボードロップと、立て続けに技を繰り出し、練習の成果を見せた。

「身体がデカイうえに身体能力が高いので、技がとにかくダイナミックでした。とはいえ、攻撃の練習は普段からしているので練習通りやればいいのですが、プロレスで何よりも肝心なのは、相手の技をどう“受ける”か。自分ばかりが攻めるだけでは試合は成立しません。とくに、EVILは反則攻撃が得意なので、それをどう受けるかで試合展開が大きく変わるのです」(同前)

決め技はあのレスラーの…

 案の定、ウルフは場外乱闘でEVILのエグいイス攻撃を食らい、HOTのメンバーたちにフルボッコにされてしまう。そしてリングに上がるとさらにEVILが猛攻。ウルフは隙を突いて、柔道の大技・一本背負いで投げると、乱入したHOTメンバーたちを柔道技でどんどん投げ捨てたが、白い粉を顔に投げ付けられ視界を遮られるピンチに。

 しかし、そんな状況下でも相手を抱えてマットにたたきつけるパワースラムを豪快に決める。さらに96年アトランタ五輪レスリング金メダリストで、元WWEのカート・アングル(57)の必殺技、アングル・スラムを繰り出したかと思えば、コーナーポストの最上段に上がると、この日のメインイベントで引退試合を迎える棚橋弘至の必殺技・ハイフライフローを豪快にさく裂させ、そのままベルトを奪取か……と思われた。

 ところが、レフェリーがHOTのメンバーにより場外に引きずり降ろされ、リングには他のメンバーが乱入し“無法地帯”に。散々、反則攻撃を食らったウルフは、長机の上に横たえられ、170キロの巨漢レスラー、ドン・ファレ(43)のトップロープからのボディープレスを食らうハメに。長机は見事に粉砕された。

「常人ならば即死レベルの攻撃でしたが、ウルフはよくぞ“受けきった”という感じです。EVILは『デビュー戦を引退試合にしてやる!』と宣戦布告していましたが、いくら五輪金メダリストとはいえ、凄まじい洗礼でした」(同前)

 もはや、虫の息のウルフ。ここでEVILは相手の後頭部から背中にかけてマットに叩きつける必殺技、EVILを繰り出す体勢に入る。最大のピンチを迎えたウルフだが、EVILの右腕を取って再び一本背負いで投げると、その腕を取ってヒジ関節を極める腕十字固めの体勢に入った。なんとかEVILはガードしたものの、最後はウルフが肩、クビ、腕を極める、逆三角締めに移行。EVILは失神し、レフェリーは試合を止めた。

 この試合は「新日本プロレス1.4東京ドーム!棚橋引退&ウルフデビューSP」と題し、同日午後10時15分から、新日本の大会では22年ぶりの全国ネット放送となり、平均世帯視聴率は5.2%(ビデオリサーチ、関東地区、以下同)を記録した。

「日曜のこの時間帯、テレ朝は連続ドラマを放送していますが視聴率は3~4%ほどにとどまっています。4日の午後10時半以降の他局の番組と比べると、フジテレビのドラマSPも日本テレビのバラエティーも上回り、TBSのドラマSP『新年早々 不適切にもほどがある!〜真面目な話、しちゃダメですか?〜』の8.8%に次ぐ、同時間帯2位と大健闘でした。現在、新日本の試合を放送する番組は土曜深夜に30分のみですが、ウルフ頼みで放送枠の“昇格”もありそうです」(放送担当記者)

 試合も、テレビ中継も「合格点」でのスタートとなったようだ。

「攻撃も受けも試合の流れも、デビュー戦のレスラーとしては満点に近いでしょう。柔道家からレスラーへと転身を遂げ、柔道時代に経験したことのない大規模な会場と大観衆の前で見事にデビュー戦を飾りましたが、フィニッシュを決めたのはかつての新日本の看板レスラーであった故・橋本真也さんの必殺技だったのもなかなか。ファンの期待度を爆上げしてしまった分、むしろ大変なのはこれからでしょう」(同前)

ウルフの今後は?

 試合後の会見でウルフは、「今日の勝利はビギナーズラックみたいな部分が大きいと感じています。EVILからすると、僕の技がわからない。ここからが本当の闘いと思っています」と謙虚なコメント。一方、引退試合を終えた棚橋は、「ビックリ。もっと伸びしろがあるんじゃないですか。僕らのプロレスの常識で測れるものをはるかに超えていた」と、ウルフを絶賛した。

 一方、試合翌日の5日、92年バルセロナ五輪・柔道銀メダリストで、プロレスラーとしても活躍した小川直也氏(57)がウルフのデビュー戦についてWEBニュースで私見を述べた。

 小川氏は《ウルフは今できることを精一杯やっていた。良かったんじゃない》などと試合内容をたたえたが、柔道着姿でプロレスデビュー戦を迎え、その後、徹底的に身体を絞り上げ、上半身裸で黒のショートタイツ姿に変貌した自身と重ね合わせたのか、《やっぱり体形だよ。(入団から)半年あったんだから、もうちょっとちゃんと絞ってほしかった》などと苦言を呈した。

「たしかに、小川さんは相手の技を受けずに、自分から殴って蹴って関節技を仕掛けるファイトスタイルだったので、あれぐらい身体を絞った方が説得力があったのでしょう。でも、ウルフさんはプロレスの基礎をしっかり1から学び、入門したころよりも身体は絞れていますが、どのぐらいまで絞れば受け身で相手の攻撃のダメージを軽減できるか、スタミナがどの程度持つのかなど、今は手探りの状態です。小川さんの言いたいことは分かりますが、同じプロレスのリングでも、小川さんとウルフさんでは全くやっていることが違うのです」(メジャー団体にも参戦した元レスラー)

 デビュー戦でのタイトル戴冠から一夜明けた5日、ウルフは都内の大会での8人タッグマッチに出場。自身初のタッグマッチとなったが、相手はEVILとHOTのメンバー。最後はそのメンバーの成田蓮(28)に襲撃され、新たな因縁が勃発した。

「棚橋が引退した今、ウルフは早くも新日本の看板を背負う存在です。今後は都心の大会を中心に、ビッグマッチではカードを組まれることになるでしょう。柔道時代は五輪イヤー以外で大きな大会は限られていた。そこに向けて調整すれば良かったのですが、プロレスはそうはいきません。おまけに、柔道時代に比べて身体は計り知れないダメージを受けているはず。本人も会社も、体調をしっかり見極め、適度に休養を与えながら使わないとつぶれてしまうでしょう」(スポーツ紙記者)

 ベストコンディションの維持はウルフ自身に負うところが大きく、今後のレスラー人生を歩むうえでの大きな課題だが、プロレスラーとしての成長をどうやって見せていくか、も大事な点である。

「新日本の創業者の故・アントニオ猪木さんの現役時代は、猪木さんが『一寸先はハプニング』をモットーに掲げていたように、何が起きるか分からないハラハラ感があり、常にレスラーと試合のストーリー展開が気になりました。新日本は現在、本隊のほかに大きな軍団が4つあり、抗争を続けています。ウルフは本隊入りが確実なので、今後はどの軍団の誰と絡ませるのかが大きなカギになります。最終的に目指すのは、4日のドーム大会で辻陽太(32)が奪還した、新日本の至宝とも言えるベルト・IWGP世界ヘビー級王座ですが、ウルフがどんな道のりでそこにたどり付くのかが見ものです」(先の元専門誌記者)

デイリー新潮編集部