和田秀樹「会社を休むことに引け目を感じるのはアップデートされていない古い考え方」体調不良で仕事のパフォーマンスが低下する割合は…
最近体調を崩しやすい、疲れやすい、ムリがきかない……このように、体力不足のせいで仕事のパフォーマンスが落ち、悩んでいる人は多いのではないでしょうか。精神科医の和田秀樹先生は、「体力や健康に不安を抱えているのは、40〜50代の管理職世代に限らず、20〜30代の若手世代にも顕著に見られる傾向です」と語ります。そこで今回は、和田先生の著書『体力がない人の仕事の戦略』から抜粋し、体力のない人が仕事と向き合うコツをご紹介します。
【書影】体力不足のせいで仕事のパフォーマンスが落ちている人のための本!和田秀樹『体力がない人の仕事の戦略』
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休むことに「罪悪感」を持つのは古い考え方
体力がないビジネスパーソンにとって、「働くこと」と同じレベルで頭を悩ませているのが「休むこと」です。
「あの人は大事な仕事の前になると必ず休む」とか、「この間に続いて、また休みなんだ」という周囲の声を気にして、休むことに気後れしたり、罪悪感を持っている人も少なくありませんが、時代は大きく変わっていますから、「体調が悪ければ休む」と割り切って考えることが大切です。
これは自分勝手な行動ではなく、働き方をアップデートすることでもあるのです。
10年ほど前までは、「ムリをしてでも会社に行く」とか、極端な会社では、「這ってでも出社する」ことが常識とされてきました。
少しくらいの体調不良は、会社を休む正当な理由にはなりませんでしたが、現在では、その常識が大きく変わっています。
きっかけとなったのは、働き方改革とコロナ禍による行動制限です。
2019年4月に働き方改革関連法が施行されたことで、労働時間の短縮や有給休暇の取得促進が企業に求められるようになり、休みやすい環境作りが進んでいます。
その動きに拍車をかけたのが、皮肉にも、2019年末から始まったコロナ禍です。
コロナ禍によって、感染症対策に対する関心が高まり、「体調が悪いのに、ムリして出社すると逆に迷惑になる」という考え方が浸透しました。
日本企業では実現不可能とされてきたリモートワークが、ちょうどその時期に普及したことで、柔軟な働き方が加速したことも、会社を休みやすくなった一因といえます。
現在、日本の各企業には、「体調が悪ければムリせずに休む」という考え方が広まっており、会社を休むことに対して、「以前ほどは抵抗感がなくなった」と感じている人が増えています。
実際、厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、日本人の有給休暇の平均取得率は、2022年時点で「62.1%」と過去最高となり、2023年時点には「65.3%」に達するなど、ここ数年は上昇傾向にあります。
逆に休まない方が周囲の人を不安にさせる
多くの人が「休みやすくなった」と実感しているのですから、体力のないビジネスパーソンが、周囲の目を気にして休むことを躊躇する理由はありません。
会社を休むことに引け目を感じるのは、アップデートされていない古い考え方と認識する必要があるのです。
疲れが溜まって体調が悪ければ、「今朝起きたら、微熱と吐き気がするんです」と上司に伝えるだけで、すぐに「わかった。お大事に」という展開になります。
上司には、職場の安全と部下の健康を守る責務がありますから、「妙なウイルスを持ち込まれたら大変だ」と考えて、会社を休むことを咎め立てする前に、お互いの無事を最優先した対応をするはずです。
感染症が疑われるような場合、上司には周囲の社員への感染リスクを考慮する義務があり、疑わしい社員に出勤を強要してしまうと、会社が「安全配慮義務違反」に問われる可能性があるからです。
昔と違って、体調不良は立派な欠勤の理由となり、逆に休まない方が周囲の人を不安にさせることになります。
現代では、会社を休むことに罪悪感を感じる必要はなく、「申し訳ない」と考える必然性もなくなっています。
仕事で成果を出し続けていくためには、自分にムリをしたり、我慢をするのではなく、腹を決めて会社をスパッと休んで、体調を整えてから仕事と向き合うことも大事な選択肢となるのです。
自分にムリをしても、期待したほどの成果は得られない
私が精神科医の立場から、「体調が悪いならば、我慢をせずに、スパッと会社を休む」ことを推奨するもう一つの理由は、「ムリして出社しても、結局は仕事が進まず、生産性が上がることはない」という点にあります。
疲労感を我慢して出社したが、まったく仕事がはかどらない……という経験は誰にでもあると思います。

(写真提供:Photo AC)
タイムカードを打刻するためだけにムリして出社するくらいなら、きっちりと休んで体調を整えた方が、はるかに仕事の効率が上がるのです。
WHO(世界保健機関)が提唱する健康問題によるパフォーマンス損失を表す指標に、「プレゼンティーズム」(presenteeism)というものがあります。
プレゼンティーズムとは、日本語では「疾病就業」とか、「疾病出勤」と訳され、会社員が体調不良を抱えて出勤して、本来のパフォーマンスを発揮できない状態を指します。
風邪を引いたり、片頭痛や腰痛、花粉症の症状などがあっても、ほとんどの人は「会社を休むほどではない」と考えますが、体調不良を抱えたままの状態で仕事をすると、思考力が低下したり、注意が散漫になって、本来のパフォーマンスが発揮できなくなります。
横浜市立大や産業医大の研究チームによる調査によると、プレゼンティーズムによる経済的損失は、日本全体で年間「約7.6兆円」に達しているといいます。
この損失額は、現在の日本のGDP(国内総生産)の1%強に相当しますから、ビジネスパーソンが心身の不調によって、平常通りのパフォーマンスができなかった場合、いかに大きな損失を生み出しているか……が理解できると思います。
自分では、会社のため、チームのために良かれと思って必死の思いで出社しても、きちんと仕事ができなければ、その我慢やムリが結果につながることはなく、経済的には逆効果になってしまうのです。
合理的に考えるならば、「自分にムリをしても、期待したほどの成果は得られない」と割り切る必要があります。
体調不良で仕事の生産性はどのくらい落ちるか?
これに関連して、もう一つ、興味深い調査結果をお伝えします。
サントリー食品インターナショナルが実施した『若者の心と体の健康に関する実態調査』(2024年)では、病気やケガがなく、コンディションが良好な状態を100%とした場合、「体調不良によって、どのくらい仕事のパフォーマンスが低下するか?」を調べています。
それによると、男性の平均で「71.2%」、女性の平均が「72.4%」といいますから、体調不良によって、男女共に「30%」程度は仕事のパフォーマンスが低下する……と考えていることが明らかになっています。
仕事のパフォーマンスが「30%」も落ちるということは、その分だけ生産性が低下することを意味しますから、本人に自覚がなくても、会社の業績に対して多大なダメージを与えていることになります。
ムリをして仕事に取り組んでも、生産性が低下して、成果が上がらず、会社の業績に貢献できないのであれば、「ムリをしただけ損」という皮肉な結果になるのです。
体の調子が悪ければ、我慢やムリをせずに、スパッと会社を休み、体調を整えて仕事に臨む方が、はるかに効率が上がって、会社に貢献することができます。
自分には体力がないと自覚があるならば、周囲の視線や自分の勝手な思い込みに振り回されず、「どうすれば合理的に仕事ができるのか?」を冷静に見極め、割り切って行動することが大切です。
それが、限られた自分のエネルギーを浪費せず、最大限に「燃費」を高める働き方となるのです。
体力のないビジネスパーソンにとっては、自分のエネルギーの適性配分と共に、可能な限り仕事の効率化を図ることが、切実な問題であり、喫緊の課題でもあります。
※本稿は、『体力がない人の仕事の戦略』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
