HANA、ちゃんみな、岩崎宏美の並びが発見させてくれた『紅白』の価値 放送100年、異なる時代が共存する音楽番組のあり方
今回の『第76回NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』)を見てふと思い浮かんだのは、「時代の多様性」という言葉だった。
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近年の『紅白』は、多様性をテーマにしている。
たとえば、2023年の第74回のテーマが「ボーダレス -超えてつながる大みそか-」、2021年の第72回のテーマが「Colorful~カラフル~」。いずれも、既存の枠組みや概念を超えて多様な価値観を認めようというメッセージが込められている。
わかりやすいのは番組の進行や司会で、もう紅組と白組という分け方をあまりしていない。紅組と白組の対抗形式を強調する演出もめっきり減っている。
一方、今回の『紅白』で特に目立ったのは、昭和、平成、令和と様々な時代の曲が登場したことだろう。
2025年は、戦後80年と放送100年という大きな節目が重なった年だった。
戦後80年については、長崎出身の福山雅治が平和を願う「クスノキ-500年の風に吹かれて-」を歌い、ともに広島出身で司会を務めた有吉弘行と綾瀬はるかが思いを語る場面があった。氷川きよしが「愛燦燦」を歌った際には、美空ひばりの軌跡をたどるVTRの中で敗戦後の映像が流れた。
今回比重としてより高かったのは、放送100年のほうだろう。「愛燦燦」も、放送100年にちなんだ企画のひとつ。堺正章がグループサウンズ時代やソロ歌手としてのヒット曲を歌った「ザッツ・エンターテインメント・メドレー」も同様である。
こうした昭和の楽曲は、オープニングを飾ったスペシャルメドレーでの「夢であいましょう」などから始まり、後半最初の連続テレビ小説『あんぱん』スペシャルステージの「東京ブギウギ」「手のひらを太陽に」、さらに髙橋真梨子「桃色吐息」、石川さゆり「天城越え」、松任谷由実「翳りゆく部屋」など随所で歌われた。NHKホールへのサプライズ登場後に矢沢永吉が歌った「止まらないHa~Ha」「トラベリン・バス」もそうだろう。
平成の楽曲も負けてはいない。ORANGE RANGEの「イケナイ太陽」、坂本冬美「夜桜お七」、MISIA「Everything」など。結成20周年で現役メンバーと卒業メンバーが合同パフォーマンスを披露したAKB48、来年デビュー40周年を控える久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」披露なども存在感を放っていた。
令和については言うまでもない。CANDY TUNE、FRUITS ZIPPER、M!LK、HANA、アイナ・ジ・エンド、ちゃんみならの初出場組の楽曲をはじめ多数。昨年国内外で大ヒットを記録し、首都高速道路を舞台にスケール感たっぷりの演出で初披露された米津玄師「IRIS OUT」などは、前半のトリを飾ったVaundy「Tokimeki」やステージ演出も印象的だったサカナクション「怪獣」「新宝島」と並び、今回の白眉のひとつだろう。
時代という意味で、Mrs. GREEN APPLEが初の大トリを務めたことも大きな出来事だった。日本レコード大賞を3年連続で受賞し、いまや令和を代表するアーティストになった彼らの大トリは、『紅白』の時代を一歩進めた感がある。
他方で、長年出場し、番組に貢献してきた郷ひろみが70歳を機に『紅白』卒業を表明したこと、また『紅白』の最先端技術の演出を体現してきたPerfumeがメジャーデビュー20周年を機にコールドスリープ(活動休止)を決めたことは、それぞれ『紅白』の昭和と平成におけるひとつの区切りを感じさせた。
もちろん、これで昭和や平成が置き去りにされるわけではない。いつか郷ひろみとPerfumeの再出場もあり得るだろうし、なにより今回番組の最後を飾ったのは、デビュー45周年を迎えた松田聖子の昭和のヒット曲「青い珊瑚礁 ~Blue Lagoon~」だった。
誰もが知るヒット曲を揃えることが難しくなるなかで、戦後まもなくからの歴史を持つ『紅白』が今後取り組むべきは、音楽を通じて昭和、平成、令和をいかに共存させるかということだろう。3つの時代を切り離してしまうのではなく、いかにつなげるか。奇しくも今回の『紅白』のテーマは「つなぐ、つながる、大みそか。」だった。
具体的には、曲順なども重要になってくる。たとえば、その意味で今回味わい深かったのは、HANA、ちゃんみな、そして岩崎宏美の並びだった。
HANAが社会現象になったオーディション番組『No No Girls』を経てちゃんみなのプロデュースでデビューしたのは知られている通り。そのデビュー曲「ROSE」から始まり、ちゃんみなが歌う『No No Girls』のテーマソング「NG」、そしてオーディションの最終審査でも歌われた「SAD SONG」の両者のコラボへと続く流れは、メッセージ性の強い歌詞も相まって令和という時代を深く印象づけた。
そのすぐ後に登場した岩崎宏美も、昭和の画期的オーディション番組『スター誕生!』の出身である。抜群の歌唱力でアイドルの黎明期をけん引したひとりだった。
今回歌った「聖母たちのララバイ」は昭和を代表するヒット曲。だが改めて聞いてみると、ともに女性の生きかたを表現した「NG」と「聖母たちのララバイ」のあいだには、令和と昭和の違いもあるが、根底では近いものも感じた。それは、「SAD SONG」でHANAのメンバー一人ひとりを見つめるちゃんみなの慈愛あふれるまなざしに、やはり“聖母”を見たからかもしれない。
そこには、時代の差を超えて音楽にふれることができる『紅白』ならではの発見があった。個々の歌手の質の高いパフォーマンスだけでなく、よりこうした配列の妙が見られるようになれば、音楽番組としての『紅白』の価値もいっそう高まるのではないか。
「時代の多様性」をどう表現し、異なる時代が共存する音楽の広場をつくるのか。進行で不自然な間が空いたことなど少し気になる点はあったものの、今後目指すべき方向性が見えた『紅白』だったように思う。
(文=太田省一)

