もっと早く知りたかった…「不快なこと」を言われても"ごきげん"でいられる人が決めている唯一のこと
※本稿は、辻秀一『いつもごきげんでいられるひと、いつも不機嫌なままのひと』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■ごきげんでいると「判断」「選択」「行動」「健康」が高まる
あなたは最近「ごきげん」だった日を思い出せるでしょうか。
理由なんてなくても、なんだか気分がよくて、人にも優しくできて、決断も早く、なぜか物事がうまくいく、あの感じ。
じつは、ごきげんとは、ただ「気分がいい」という状態ではありません。
「判断」「選択」「行動」「健康」など、あらゆる人間としての機能を高めてくれる心の状態なのです。
ですから、ごきげんでいれば、チャンスも増えるし、結果も出やすくなるし、幸せを感じやすくなるのです。
そして人は、自分次第でいつでもきげんよく過ごすことができるはずなのです。
それなのに、多くの人は「ごきげん」という最大の宝物を、気づかぬうちに自ら手放してしまっています。私はこのことが不思議でなりません。
ほとんどの人はこんなふうです。
「きのう、あの人が私にこんなことを言った。ほんとうに不愉快でたまらない。あの人のことを思い出すたびにむかついて、夜も眠れなかった」

確かにそのとおりなのでしょう。
もちろん悪いのは、配慮のないことを言った「あの人」のほうです。
あなたは何も悪くない。傷ついたのも、悲しくなったのも自然な反応です。
でも不思議なことに、損をしてしまうのは、たいてい「あの人」ではなくあなたのほうなのです。
自分のきげんが悪くなって、人間としての機能が落ちて、体調も悪くなり、結果が出なくなって、幸せじゃなくなって……。
誰かにいやな思いをさせられたうえに、自分までつらくなってしまうなんて、なんだか悔しいですよね。
もし自分のきげんが悪くなって、それで相手が眠れなくなるのなら、不機嫌になった甲斐もあろうというもの。
でもこの世にそんな仕組みはありません。
結局、損をしてしまうのは世界中でただひとり、あなただけなのです。
だから、幸せな人生をつくるのに欠かせないこの「ごきげん」という心の状態を、簡単に手放すのはもうやめましょう。
他人や、ささいな出来事のせいで手放してしまうのはあほらしいと思いませんか?
そうは言っても、「いいことが起これば誰だってごきげんになれるけど、私にはいいことなんてひとつもない」とあなたは思うかもしれません。
しかし、ごきげんとは、「何かが起きた結果」ではありません。
むしろ、「何も起きなくてもつくりだせるもの」なのです。
多くの人は、「ほめてもらった」「昇給した」「プロポーズされた」、だからごきげんになれるのだと考えます。

しかし、ほんとうはなんにもいいことがなくても「ごきげん」というのは自分でつくれるものなんです。
「ごきげん道」でいちばん大事なことをお伝えしましょう。
それは、「自分のきげんは自分でとる」と決めていること。
雨が降っても、電車が遅れても、店員さんの態度が悪くても、そのせいで自分の1日を台無しにするのは、もったいない。
あなたが「そうあろう」と思えば、今この瞬間からでも育てられる。
それが、「ごきげん道」のいちばんの核心です。
「どれくらい?」とか「どうやって?」と質問する人がいますが、「自分のきげんは自分でとる」
とにかくまずはそう考えてみてください。
そうすれば、気づくはずです。
ただ「考える」だけで、不機嫌な状態が少しごきげんに傾いたことに。
この「少し気分がよくなった」感じに気づくことが大事なんです。
これを繰り返すうちに、脳は覚えはじめます。
「考えるだけで気分がよくなるのかあ」と。
すると、この思考が習慣化し、意識しなくても自然に「ごきげん」をつくりだすようになります。
これが「ごきげん道」の原理です。
とはいえ、みなさんが期待するように、超不機嫌な状態から、超ごきげんな状態にいきなりワープできるということではありません。
私たちの脳と心はとっても複雑に精密にできているからです。
少しずつ、少しずつ脳に覚え込ませ、「ごきげん」のほうへ傾けていくしかありません。
しかし、その少しずつこそが、「いつもごきげんでいられる人」へのいちばんの近道なのです。
■ごきげんは「不愉快」を無視することではない
ある会社で講演をしたとき、私に依頼をくださった担当者が最近の若手社員について、こんな話をしてくださいました。
仕事のミスを指摘してもへらへら笑っているだけで、反論もしてこない。言われたことを理解していないのか、理解していても無視しているのか……。
いつも静かで人当たりもいいけれど、何を考えているかわからない。
そんなお話でした。
私も、確かに最近そういう人が増えているなと感じています。もしかしたら、彼らはこう考えているのかもしれないなあと思います。
考えるとつらいから何も考えない。
何も感じたくない。傷つかなくてすむように。
こうした人は、怒ったり、不愉快な顔をしたりはしませんが、それは、不愉快を感じないようにしているだけです。
一見「ごきげん」に見えるかもしれませんが、これは「ニセごきげん」です。
ごきげん道の達人のごきげんは、ニセごきげんとはまったく違います。
そのことについて詳しくお話しいたしましょう。
私のワークショップでご紹介している武道家の話があります。
それは、栄花直輝さんという剣道の世界チャンピオンのお話です。
栄花さんは、ずっと「どうしても試合に勝ちたい」と願っていました。周囲からも優勝候補だとつねに期待されていました。
けれど、栄花さんは、日本代表を決める試合では、何度も敗退を重ねていたのです。
大事な試合で、なぜ自分は負けてしまうのか。
栄花さんは自分自身を深く見つめ、あることに気づきました。
それは、目先の結果ばかり気にして、外の出来事や相手に自分のきげんを奪われていたのだ、ということです。

そこで彼は考えます。「日本代表になり、世界一になるには、どうすればいいのか」。
その答えは、目標にふさわしい自分、「ほんとうに強い剣士」になることでした。
剣道は、ただ勝ち負けを競う競技ではありません。
剣の道と書くように、もともとは「道」、つまり人の生き方を示したものです。「打って反省、打たれて感謝」というように、技だけではなく、心を大事にするのが剣道の道なのです。
でも彼は結果にとらわれるあまり、勝つことやまわりの評価を気にしていつの間にか剣道の本質を忘れていました。その後、彼は初心に立ち返り、毎朝誰よりも早く道場に来て、ひとり黙々と雑巾がけを始めました。
結果的に彼は日本代表となり、そして世界チャンピオンになりました。
なぜ彼は世界一になれたのでしょう。
早起きしたからでしょうか? 雑巾がけをしたからでしょうか?
そうではありません。
早起きして、雑巾がけをしながら、自分の心を見つめたからです。
「あいつに勝ちたい」とか「なんであいつは試合に出て、自分は控えなのか」とか「相手はどんな作戦で来るか」とか、そのような外側の出来事や他人に自分の心を持っていかれない自分づくり。
ゆらがず、とらわれず、いつも自分が最高のパフォーマンスが出せるように、きげんのいい心の状態を自分でつくる努力をしました。「ただ一撃にかける」という自分づくりを習慣にしたのです。
日本代表を決める大事な日。
前年自分を倒した相手と再び向き合い、栄花さんはごきげんな心で試合に臨みました。そして会心の一撃で勝利したのです。
外にゆらがず、とらわれず、心をごきげんに整えたからこそ、自然に体が動き、結果がついてきました。それは決して表面的な「ニセごきげん」ではなく、ほんとうに心から生まれたごきげんでした。
■「ここぞ」の場面で結果を出す人が欠かさない習慣
私が栄花さんのことを知ったのは、NHKの「にんげんドキュメント ただ一撃にかける」という番組がきっかけでした。
あまりに感動したので、手紙を書いて栄花さんを東京に招き、対談させていただきました。
そのとき彼がおっしゃったことで、ものすごく印象に残っている言葉があります。
私はこんな質問を彼に投げかけました。
「柔道だと相手と組んだとき、バスケなら試合が始まって少し経ったとき、相手が自分より強いか弱いかがわかる瞬間が来ます。剣道でもそれはわかるのですか。わかるとすれば、それはいつですか。構えた瞬間ですか。それとも打ち合ってからですか」
すると栄花さんはこう答えました。
「座っているだけでわかります」
なぜなら座るという行動にも、その人の心の状態が反映されるからだそうです。
確かにそのとおりだと私は思いました。

「面倒くさいなあ〜」と思っていたり、「この後、どうなるんだろう」と不安な状態でいたりすると、その心の状態が「座る」という行動にも表れてしまう。
すなわち、パフォーマンスの質が低くなるということです。
対峙すればますますそれがわかる。
だから、その人自身の心の状態や人間的な強さが、座っただけでわかってしまうというのです。
心を自分でつくれる力こそ、どんな場面でも通用する強さになるのです。
栄花さんもふだんから繰り返し自分を磨いていたからこそ、ここぞという一撃を必要なときに出せる自分になったのだと思います。
不機嫌な人間はそれができない。
自分の心を見つめる人間だけが、それを可能にするのです。
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辻 秀一(つじ・しゅういち)
スポーツドクター
慶應義塾大学病院内科、同スポーツ医学研究センターを経て独立。応用スポーツ心理学とフロー理論を基にしたメンタル・トレーニングによるごきげんマネジメントが専門。セミナー・講演活動は年間200回以上。年に数回の「人間力ワークショップ」は経営者、アスリート、音楽家、主婦など全国から参加者が集まる。サポート実績に、EY Japan(株)、積水ハウス(株)、三井不動産(株)、ハウスコム(株)、コマツカスタマーサポート(株)など多数の企業にウェルビーイングやごきげん学を提供している。2024年パリオリンピックでは出場選手12名のメンタルトレーニングを担当し、うち3人が金メダルを獲得。現在は2026年冬季ミラノ・コルティナオリンピックや2028年ロサンゼルスオリンピックを目指すオリンピアンたち、サッカー・大相撲・女子ゴルフなどのプロアスリートをサポートしている。日本バドミントン協会とはメンタルサポート契約を締結し、日本サッカー協会のプロライセンス講座、大学体育会、中高部活、その他にヴァイオリンやピアノなど音楽家や教育界も多数サポート。著書に40万部突破のベストセラーの『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)、『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)、『チームワークの大原則「あなたが主役」で組織が変わる』(WAVE出版)、『個性を輝かせる子育て、つぶす子育て』(フォレスト出版)など多数。日本代表アスリートたちが子どもたちにごきげん授業をする一般社団法人Dialogue Sports研究所(Dispo)を展開。またライフスキルについて対話し「ごきげん道」を一緒に歩むコミュニティ“BA”を主宰。
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(スポーツドクター 辻 秀一)
