記事のポイント 米大手映画館チェーンのシネマークは2024年上半期に9500万人を動員、収益は15億ドル(約2250億円)に達した。 有料会員制「ムービークラブ」は145万人を突破し、ロイヤルティプログラム全体で売上の55%以上を占めるまでに成長している。 リクライニング席やスクリーンX、アプリでの注文機能など、体験価値を高める投資を継続し、AIやインフルエンサー施策も活用して需要を喚起している。
ワンダ・ギアハート・フィアリング氏は、米国の大手映画館チェーンであるシネマーク(Cinemark)のチーフ・マーケティング&コンテント・オフィサーであり、小売業界のベテランとして映画業界を独自の視点から見ている人物である。同氏は、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)やリミテッド・ブランズ(Limited Brands)のCMOを務めた後、2018年にシネマークへ参画。新型コロナウイルスのパンデミックにより製作活動が停止し、映画館チェーンが大きな打撃を受けるなかで、数年間にわたり同社のマーケティングを舵取りした。現在、テキサスに本拠を置く同社と映画業界全体は回復傾向にある。同社は今年上半期の総収益を約15億ドル(約2250億円)と報告しており、前年同期比13%の増加である。米国で304館、ラテンアメリカで193館を展開し、14か国で約9500万人の来場者を記録した。これは前年同期比で5%増である。さらに、有料会員制プログラム「シネマーク・ムービー・クラブ(Cinemark Movie Club)」は、第2四半期に145万人に到達し、前年同期比12%増、2019年比で50%以上の増加となった。これらの会員は北米における同四半期の興行収入の30%を占めた。無料会員と有料会員を含むロイヤルティプログラム全体では、興行収入の55%以上を占めている。フィアリング氏は、Modern Retailとのインタビューで、映画館における消費者需要の現状や、同社のロイヤルティプログラムおよび会員制度から小売業が学べることについて語った。

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――今年の映画館での消費者需要は過去と比べてどうか?

消費者需要は戻ってきていると思う。コロナ以降、スタジオからのコンテンツ供給は2年間ほど停滞していた。さらに2023年には脚本家と俳優のストライキもあった。完全な供給に戻ったわけではなく、2026年に映画本数が元の水準に戻ると予測している。しかし素晴らしいのは、消費者が家を出て没入体験を求めていることだ。大型の週末や大作の公開時には、コロナ前を上回る記録を更新した。たとえば、4月の『マインクラフト(Minecraft)』映画は大ヒットで、ファミリー映画として史上最大の3日間オープニングを記録した。また、『リロ&スティッチ(Lilo and Stitch)』や『ミッション・インポッシブル(Mission Impossible)』によって、メモリアルデー週末の史上最高興行収入を達成している。ジャンルを問わず、多くの好材料が見えている。

――消費者の財布の紐は堅い時代だが、なぜ映画館に来ると思うか?

不況時でも人々は映画館に来る。映画館は家族で楽しめるもっとも手頃なアウト・オブ・ホーム体験だからだ。ニーマン・マーカス時代を思い出すが、不況下でも人々は口紅を買った。口紅は手軽に気分を上げられる方法だったからだ。映画館も同じで、手頃な価格で気分を上げて家から出られる手段である。コンサートや野球観戦よりも安価に素晴らしい夜を過ごせる。だから、こうした時期でも売上が落ち込むことはほとんどない。

――データからは何が見えているか?

人々は手頃だから映画館に来るが、同時にプレミアム体験にアップグレードしている。巨大スクリーンのXDや、動く座席のD-BOXなどの需要が伸びており、プレミアム化のトレンドがある。数ドルの追加料金を払ってでも体験を選んでいる。また、会員制ロイヤルティプログラムも成長している。州によって月額10.99ドル(約1650円)や11.99ドル(約1800円)の料金だが、解約率は過去最低で、成長率は過去最高だ。これらは経済が厳しい時期でも、消費者がいい夜の体験に価値を置いている証拠ではないか。

――会員プログラムの現状と投資について教えてほしい。

現在、無料の『ムービーファン(Movie Fan)』と有料の『ムービークラブ(Movie Club)』が売上の55%を占めている。私が来た当初は16%ほどだった。顧客の声を聞くことで大きく成長させることができた。毎年新しい施策を導入している。最近ではアプリで「7日間に7本映画を観た」といったバッジ機能を追加した。会員は今年だけでバッジ獲得状況を45万回確認している。『リロ&スティッチ』およびディズニーと提携し、ハワイ旅行が当たるキャンペーンを行ったところ12万件の応募があった。また、1年間のデートナイトキャンペーンでは14.1万件の応募を得た。こうした取り組みで会員をエンゲージメントさせ続けている。

――同様の成功をほかの小売業者にアドバイスするとしたら?

顧客を知り、世話をしてニーズを理解し、それに応えるプログラムを作ることだ。顧客を大切にすれば売上はついてくる。顧客が第一だ。

――需要を高めるための映画館への投資は?

劇場を改装してD-BOXを増設し、270度のパノラマラップスクリーンである「ScreenX」を導入した。デジタル映写とレーザー映写も導入済だ。加えて、もっともリクライニングのできる座席を揃えている。家を出るときは自宅の座席と同じくらい快適な座席がほしいと感じるからだ。現在、当社の座席の70%はリクライニングとヒーター付きの座席である。飲食も強化している。お客はトータルな体験を求めているため、温かい料理も提供。また、全店舗の60%でアルコールを提供している。過去5年間、我々はこうした体験型の取り組みを強化してきた。そして同時に、お客にとってスムーズな体験の提供にも力を入れてきたのだ。映画を見に行こうと考えた瞬間から家に帰るまで、あらゆる摩擦をなくしたいと考えている。そのため、モバイルアプリとWebサイトに多大な投資をしてきた。Webサイトとアプリでは、お客一人ひとりにパーソナライズされた映画をおすすめできるよう、さまざまな工夫を凝らしている。また、売店の注文に関するプッシュメッセージも配信。チケットを注文の際には、モバイルアプリから事前に売店を注文できるようにしている。さらに、フットボールの試合を観戦したいというお客にポップコーンを自宅までお届けできるデリバリーも開始した。我々は「自宅の内外で、どのようにお客に接することができるか」を考えているのだ。ここ数年で追加してきた商品はすべて、大きな違いを生み出している。

――今年の最大の課題は何か?

消費者はあらゆるデバイス・プラットフォームに分散しており、限られた予算でどうターゲティングするかが課題だ。そのため、インフルエンサーを活用した大規模なクリエイターキャンペーンを展開し、映画館体験の魅力を語ってもらっている。さらにAIを活用し、アルゴリズムやマーケティングの効率化を図っている。メディア支出をリアルタイムで調整し、人気が出始めたコンテンツに即座に予算をシフトできるようにしている。[原文:Cinemark CMO explains how theaters are luring in cash-strapped audiences]Mitchell Parton(翻訳・編集:島田涼平)