記事のポイント アメリカンイーグルは、俳優シドニー・スウィーニーを起用し、スフィアやSNSなど多チャネルで過去最大の秋キャンペーンを実施した。 業績不振のなか、販売促進とブランド再活性化を狙った戦略で、「シドニー・ジーン」の収益は寄付へ。 ジェンダーレス訴求やAR試着機能など、Z世代の価値観に合わせた親近感・ユーモア重視の演出が特徴だ。

過去最大の秋キャンペーン

スフィアの外壁「エクソスフィア(Exosphere)」。スフィアでは現在、バックストリート・ボーイズの公演が行われている。

カジュアルブランドのアメリカンイーグル(American Eagle)は、米ラスベガスの巨大施設「スフィア(Sphere)」を2週間にわたってジャックすることで、苦境に立たされた年の巻き返しを図ろうとしている。同社は7月23日、これまでで最大規模となる秋キャンペーンを開始した。主役を務めるのは女優のシドニー・スウィーニー。このキャンペーンは、58万平方フィートにおよぶLEDで覆われたスフィアの外壁「エクソスフィア(Exosphere)」に映し出される。この施設は、文化的な影響力を求めるブランドにとって、急速に注目を集める広告スペースとなっている。今回のキャンペーンでは、新たな主力商品「シドニー・ジーン(Sydney Jean)」も発表され、純収益の全額が、メンタルヘルスをサポートするクライシス・テキスト・ライン(Crisis Text Line)に寄付される予定だ。アメリカンイーグルはスフィアでの広告活動にかかる費用を明らかにしていない。NBC系列の地元TV局ニュース・スリー・ラスベガス(News 3 Las Vegas)が2023年に報じたところによると、同様の1週間のキャンペーンには65万ドル(約9600万円)、1日だけの広告でも45万ドル(約6650万円)の費用がかかるという。この大型メディア投資は、2025年第1四半期の厳しい業績を受けての判断だ。同社は5月29日、春夏商品の売れ残りによって7500万ドル(約110億円)の評価損を計上し、調整後営業損失は6800万ドル(約100億円)にのぼったと報告した。既存店売上高は3%減少し、なかでもAerieが4%、アメリカンイーグル本体は2%の減少を記録した。四半期の総売上は10億9000万ドル(約1610億円)で、前年同期の11億4000万ドル(約1680億円)から減少している。アメリカンイーグル・アウトフィッターズ(以下AEO)の最高経営責任者(CEO)であるジェイ・ショッテンスタイン氏は決算説明会で、「第1四半期は、我々のビジネスにとって試練の時期であった」と述べ、「結果には失望しているが、今後の四半期でより強いパフォーマンスを出すための施策を講じている」と説明した。業界アナリストによれば、大幅な値引きとマクロ経済の不安定さにより利益率は圧迫されており、AEOは通期見通しの公表を撤回している。幹部陣は、重要な「新学期商戦」までに勢いを取り戻すことに注力していると述べた。今回のスフィアでのキャンペーンは、そうした戦略の一環とみられる。AEOの最高マーケティング責任者(CMO)クレイグ・ブロマーズ氏はGlossyに対し、「スフィアのコンテンツが稼働すると、それを実際に現地で見る人も、SNSで見る人も、360度の物理空間を意識して作られたクリエイティブの力を感じるはずだ。確実に話題を生むものになる」と語った。

ユーモアと親しみやすさを重視したキャンペーン

今回のクリエイティブは、様式化されたミニマリズムを基調としており、キャンペーンのタグラインは「Sydney Sweeney Has Great Jeans(シドニー・スウィーニーにはすばらしいジーンズがある)」というものだ。映像では「genes(遺伝子)」と「jeans(ジーンズ)」をかけた言葉遊びが用いられ、スウィーニーが1965年製のライトブルーのフォード・マスタング・コンバーチブルで車を旋回させながらドリフトを披露するシーンや、自分の「遺伝子(genes)」について語りながらジーンズのボタンを留めるシーンなどが登場する。同ブランドがAリストのセレブリティとここまで大規模に提携するのは初めてであり、スフィアの曲面フォーマットに合わせた専用のクリエイティブを制作したのも今回が初となる。このキャンペーンはスフィアだけにとどまらず、タイムズスクエアの3Dビルボード、複数都市でのバスラップ広告、スナップチャット(Snapchat)を活用したAR試着、そしてインスタグラム(Instagram)のブロードキャストチャンネルなど、多角的に実施されている。インスタグラムのブロードキャストチャンネルは、同ブランドにとって初の試みで、スウィーニーが消費者に向けて直接語りかけるスタイルのコンテンツが公開される予定だ。
「まるで彼女が『あなた』に話しかけているように感じられるはずだ。そのコンテンツは、ブロードキャストチャンネルという最終的な使用文脈を意識して非常に丁寧に撮影された」とブロマーズ氏は語る。なお、アメリカンイーグルのインスタグラムのフォロワー数は370万人を超える。また、今回のデニムルックは、スウィーニーのスタイリストであるモリー・ディクソン氏と共同で制作されたものだ。「スウィーニーは、我々のブランドバリューを体現している。彼女は親しみやすい『隣のお姉さん』的存在である一方で、どんなプレミアやカルチャーイベントにも登場し、必ず圧倒的な存在感を放っている」とブロマーズ氏は語る。アメリカンイーグルにとって、この『親しみやすさ』こそが狙いだ。グラマラスで高級感あふれる従来型のセレブキャンペーンとは異なり、同社のようなブランドは、今やより身近で、フレンドリーな個性を持つインフルエンサーに賭けている。AEOのマーケティング担当副社長アシュリー・シャピロ氏は、「スウィーニーは、自分自身をあまりシリアスに捉えすぎず、どこかイタズラっぽさや『ウィンク』のような魅力がある」と述べている。こうしたトーンは、ポリッシュされた表現よりもオーセンティックさやユーモアを好むZ世代の共感を呼びやすくなっている。今回のキャンペーンでは、スウィーニーがメンズデニムも着用しており、レディット(Reddit)やスポーツメディアなど男性層に向けた広告も展開される予定だ。「彼女は女性にとって憧れの存在だが、男性にとってもそうだ。これは我々にとって非常に珍しいことだ」とブロマーズ氏は語る。

スフィアを活用するブランドの最前線に参入

このキャンペーンはまた、スフィアを新たな次世代ビルボードとして活用するグローバルブランドの仲間入りをアメリカンイーグルが果たしたことにもなる。6月には、シャネル(Chanel)がフレグランス「No.5 ロー(L’Eau)」のキャンペーンを実施し、スフィアに登場した初のラグジュアリービューティーブランドとなった。その後もXbox、Google Cloud、工具メーカーのディウォルト(DeWalt)などが続いている。もっとも、このキャンペーンが売上回復につながるかどうかは不透明だ。幹部陣は5月の決算説明会で、春のマーチャンダイジング戦略が失敗だったと認めている。「シーズンにおける大きなファッションのアイデアが、顧客の共感を得られなかった」と、AEおよびAerieのプレジデント兼クリエイティブディレクターであるジェニファー・フォイル氏は述べた。特にショートパンツの売れ行きが芳しくなかったという。ゆえに、この秋シーズンはブランドにとって非常に重要な局面だ。最高財務責任者(CFO)のマイケル・マティアス氏は、新学期シーズンのタイミングに焦点を当てていると語り、第2四半期の売上は前年比で5%減少すると見込んでいる。その一方で、同社は2億ドル(約295億円)の自社株買いプログラムを加速させており、中国からの調達依存度を年内に10%未満へ抑える計画も進行中だ。「不透明な小売環境において、突き抜けるにはノイズを生むことが必要だ」とブロマーズ氏は語る。「シドニーはそれをやってのける。このキャンペーンもまた、まさにそれだ」。[原文:American Eagle is investing in Sydney Sweeney and the Sphere for its largest-ever fall campaign]Zofia Zwieglinska(翻訳・編集:戸田美子)