川上麻衣子さん59歳。八ヶ岳への旅で感じた自然への憧れと「終の棲家」への思い
女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でありその後も定期的に訪れるスウェーデンのことなどを写真と文章でつづります。今回は、八ヶ岳での旅で感じた自然の魅力やスウェーデンの文化との共通点、終の棲家への思いを語ります。

八ヶ岳の森へ、小さな旅

新緑が気持ちのいい季節。ゴールデンウィークも天気に恵まれた今年は、ソワソワしながらも仕事に追われていました。そんな自分へのささやかなご褒美として、少し遅れて郊外まで小さな旅をしてきました。

行き先は山梨県の八ヶ岳。秋に予定している「八ヶ岳倶楽部」でのガラス展の視察とご挨拶を兼ねた1泊旅行です。八ヶ岳倶楽部は俳優の柳生博さんが長い時間をかけてつくり上げた、美しい森の中に佇む店舗とギャラリー。
残念ながら柳生博さんとの交流はなかったのですが、二男の柳生宗助さんとのご縁があり、私の作品展の話が実現しました。
どんな作品をつくろうかと構想を練りながら、車でのドライブが始まりました。
自然に触れる豊かさ、終の棲家への思い

東京から車で約2時間のドライブは、どうしたってユーミンの歌を口ずさんでしまいます。中央道の、右に見える競馬場、左にビール工場を抜ける頃には、都会の空気が一変。
行きの曇り空では富士山を拝むことはかないませんでしたが、旅気分は上々。都会を離れる心地よさを久しぶりに味わいながら、八ヶ岳に到着する頃には山々の雄大な姿が現れました。
柳生博さんが八ヶ岳で暮らしを始めた理由も、都会での忙しい生活で崩れた心身のバランスを取り戻すためだったと聞きました。「田舎暮らし」という選択は今では珍しくありませんが、柳生さんがいち早くそれを実践されたのだと思います。
白髪が目立つこの年齢になり、私もいよいよ終の棲家について現実的かつ具体的に考えることが増えてきました。豊かな自然、おいしい水のある場所に暮らすことができたら、どんなに穏やかで幸せだろうかと想像します。
八ヶ岳で再確認した、スウェーデン文化への憧れ

この旅では、東京から八ヶ岳へ移住した友人知人が意外と多いことに気づいたのも収穫でした。
その中には、まだおむつが取れたばかりの私を知る父のデザイナー仲間も。現在はスウェーデンのヴィンテージ家具を扱うSKOGENのオーナーであり、今回30年ぶりの再会を果たすことができました。
ともにスウェーデンに影響を受け、豊かな暮らしに魅せられた森の中の一軒家は、その入り口に立った瞬間に北欧の森に迷い込んだ様なとても懐かしい風に包まれました。

私がなぜこんなんにもスウェーデンの暮らしに憧れているのかを、体現させてくれる空間がそこにありました。
過剰に飾ることなく優しさがあふれる暮らし。そんな「豊かな暮らし」を考えるとき、私はいつもスウェーデン人の自然を愛する姿に行き着きます。

私たち日本人には馴染みのない言葉ですが北欧には「自然享受権」という法律があります。
これは憲法で保証されている権利として、土地の所有者に迷惑をかけないという前提において、だれでも自由に森に出入りすることが出来、ベリーやきのこ採りを存分に楽しみます。
「私たちは森を借りて住まわせてもらっているのよ。」という表現をするスウェーデン人からは自然との暮らしがなによりのぜいたくなのだと教わります。
日本ならではの風景に新たな目標を発見
今回の旅で強く私の印象に残った風景は、八ヶ岳の豊かな森だけではありません。甲斐駒ヶ岳の猛々しくも美し姿にも圧倒されました。この風景は山に囲まれた日本ならではの美しさではないでしょうか。
昔話の中に出てきそうな、あるいはいつか見た紙芝居の絵の中に紛れ込んでしまいそうな錯覚に陥ります。
柳生博さんは「確かな未来は懐かしい風景の中にある」という言葉を残されています。
「人生の最後に暮らす場所を見つける」という、大きな目標を得た短くも充実した旅でした。
※ 写真は許諾を得て撮影しています
