記事のポイント ジャーナリストの視点で開発されたLabrador CMSは、直感的な操作と自由なデザインを提供し、コンテンツ制作に集中できる環境を整える。 口コミを通じて世界中に広がり、AWSを活用したインフラでスケーラブルな環境を実現し、小規模メディアでも大手と同様の処理能力を享受できる。 メディアの収益化を支援する機能を備え、ペイウォールや広告最適化などのツールを提供。日本市場にも本格参入を予定している。
すべてのジャーナリストにとって、犬のラブラドールのように親しみやすく、信頼できる存在でありたい──そんな想いが込められたノルウェー発のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)「Labrador CMS」は、プロのニュース出版社やニュースルーム向けに設計された最新のクラウドベースコンテンツ管理システムであり、世界各地でそのシェアを拡大させている。興味深いのは、開発メンバー全員が「ジャーナリスト」のバックグラウンドを持っている点だ。「従来のCMSでは、自由に表現したくてもシステムの不具合や制約によって思うようにできないことが多い。ジャーナリストにとってもっとも重要なのはコンテンツに集中すること。そのために、もっと直感的でスムーズに使えるCMSが必要だった」と、Labrador CMSのCEOを務めるヤン・トーレセン氏は語る。そして今、Labrador CMSが見据えるのは日本市場だ。ジャーナリストにとって「親しみやすく、信頼できる」CMSとは何か。その特徴と開発の背景について、トーレセン氏に聞いた。

ジャーナリストだからこそわかるニーズ

Labrador CMSを開発した背景について、トーレセン氏は自身がジャーナリストとして抱えていた、「従来のCMSは動作が遅い」「不要な機能が多い」「操作が複雑」といった課題をあげた。「ジャーナリストは、記事を作成することよりも、ツールと格闘することに時間を取られていると感じた」と話す。さらに、紙媒体では自由にデザインできたものの、デジタル環境ではシステムの制約により、記事の見た目やデザインを思い通りに作ることが難しくなったこともあげる。こうした課題を解決するために開発されたのが、Labrador CMSだ。記事の執筆、デザイン、公開に必要なすべての機能を備え、テキストや画像をCMS上で直接編集できる。さらに、編集画面がそのまま公開画面に反映されるため、より直感的でスピーディーな作業が可能だ。

Labrador CMSの管理画面では、(1)画像のトリミング(2)AIが記事テキストから最適なタイトルを生成(3)記事全体をワンクリックで翻訳可能(4)画像をドラッグするだけでスライドショーを作成(5)記事テキストのデータをAIが自動抽出し、グラフとして視覚化できる。これらの機能を駆使することで、ジャーナリストは取材や執筆に集中でき、より直感的かつ効率的にコンテンツを制作できる。

「編集者自身がコンセプトを決め、読者に伝えたいことを自由に表現できる。そのプロセスを自分たちでコントロールできる仕組みを作りたかった。つまり、Labrador CMSは、記事をよりダイナミックで自由なものにするために開発されたシステムだ」と語る。同社には、ジャーナリストでありながら開発の知見を持つメンバーが集まっている。そのため、当事者ならではの意見が機能改善や開発に活かされている。多くの顧客から「これまで使っていたシステムとLabrador CMSは異なり、ジャーナリストが非常に使いやすいと感じるシステムだ」との声が寄せられているという。

ヤン・トーレセン/Labrador CMS CEO。プロのニュースルームや雑誌向けに設計された最先端のクラウドベースのコンテンツ管理システムを率いている。開発者、編集者、ジャーナリストとしての豊富な経験を持つ彼は、デジタル出版プロセスの効率化において重要な役割を果たしてきた。彼の指導の下、Labrador CMSは15カ国以上に拡大し、314以上のWebサイトをサポートしている。

口コミで世界に広がる

Labrador CMSは、「Word of Mouse(口コミ)」の力で急速に広がっていった。まずは周辺国に浸透し、次第にアジアやアフリカ諸国、さらには米国からの問い合わせも急増した。世界各国でLabrador CMSへのニーズが高まっている背景には、メディア業界が直面する厳しい環境の変化があるとトーレセン氏は説明する。Googleの検索トラフィックやソーシャルメディアからの流入が減少し、広告収益が落ち込むなか、多くの企業がコンテンツの有料化を進めている。新たな収益モデルの確立が進む一方で、AIの活用ニーズも高まっている。こうしたさまざまな課題が絡み合うなか、社内で独自のCMSを開発・維持するのは容易ではない。トーレセン氏は「社内で数百人の開発者を抱えている大手企業も存在する。自社システムを開発するよりも、Labrador CMSを導入することで、コスト削減に寄与する」と述べつつ、「もっとも大きな利点は、本来の使命である質の高いジャーナリズムに集中できるようになることだ」と強調する。

グローバルなメディアコミュニティと知識共有

Labrador CMSへの切り替えのハードルは低く、記事の移行も顧客側で対応する必要はなく、スムーズに行える。記事のインポート数にも制限はなく、たとえ10万記事や100万記事あったとしても、すべて移行可能だ。たとえば、フィンランドの中規模メディアでは、わずか数週間で移行作業を完了させたという実績がある。「新しいツールに切り替えると、それが新たな問題を生むことにもなる。しかし、そのクライアントから『ついに、ジャーナリズムを再び楽しめるようになった』との声があった。ページ読み込み速度の向上やPVの増加など、統計的な成果も素晴らしいが、それ以上に大切にしているのは、クライアントから『本当に使いやすい』『時間を節約できる』と言ってもらうことだ」と話す。さらに、Labrador CMSの革新性は単なるCMSにとどまらない。数多くのニュースメディアを顧客に持つLabrador CMSは、ニュース業界におけるコミュニティとしての役割も果たしている。業界内での成功事例やノウハウを共有し、成長につながる仕組みとしても機能している。「我々には『技術面では協力し、コンテンツで競争する』というスローガンがある。ほかの出版社とのオープンなコミュニケーションを通じて知識を得ることができる、それがLabrador CMSのもうひとつの重要なポイントだ」と言う。

共通インフラの強みとメディアの収益最大化

現在、Labrador CMSでは1カ月に30億PVを処理しており、すべてのコンテンツをAWSを通じてエンドユーザーに配信している。オンラインのトラフィックは日々変動するため、共有プラットフォームを活用することで、トラフィックの急増にも対応できるのが特徴だとトーレセン氏は説明する。「たとえば、大手ニュースサイトで突発的にトラフィックが急増した場合でも、我々のシステムはその需要を吸収できる設計になっている。これは、すべての顧客が同じインフラを利用しているため、規模の小さい出版社でも、大手メディアと同じ水準の処理能力を確保できるというメリットがある」と話す。この仕組みによって、あるメディアが導入した新機能や改善点が、ほかのメディアにも即座に展開される。たとえば、ある国のメディアが特定の読者層向けの新たな機能を求め、それを実際に開発した場合、ほかの国・地域のメディアであっても同じ機能を活用できるようになる。この仕組みにより、技術開発のコストを抑えつつ、メディア業界全体の成長を促進することができる。また、キャッシング機能をAWSを通じて大規模に運用することで、高速なページ配信とコスト削減を同時に実現しているという。多くのメディア企業にとって、ホスティングとキャッシングはもっとも大きなコストのひとつだが、Labrador CMSはその両方を備えつつ、より安価に利用できる。異なるニュースサイトが同じインフラを活用することで、規模の大きな契約をホスティングプロバイダーと結ぶことができ、よりよい条件でサービスを提供できるのだ。「我々は、ひとつの大きなグループとしてAWSと交渉しているため、世界トップレベルの高トラフィック向けのインフラを提供できる。その結果、個々の顧客の負担を最小限に抑えながら、パフォーマンスを最大化することができる」と述べる。さらに、Labrador CMSは、コンテンツ管理だけでなく、メディアの収益化を強力にサポートする仕組みを備えている。たとえばB2Bメディアや地域メディア向けには、特定の読者層に適した求人情報をスムーズに掲載できるサービスを整えている。トーレセン氏によると、クライアントやブランドの要望に応じ、各記事を手動でドラッグしてフロントページに配置することも可能だという。自動配置と手動設定を柔軟に組み合わせることで、より最適化された広告配信ができる。また、収益化手法としてペイウォールにも対応しており、代表的なプラットフォーム「Piano(ピアノ)」と直接連携している。「我々はクラウドベースのSaaSで、システム同士が直接接続されているため、独自システムを構築して外部サービスに接続する場合とは異なる。そのため、インフラが安定しており、信頼性も高い」と話す。また、セキュリティ面においても高度な対策が施されている。ハッカー対策、データ保護、セキュリティバックアップなど、多層的な安全対策が組み込まれているため、すべての顧客が安定したインフラとサポートを利用できる。このように、Labrador CMSは単なるCMSを超え、メディア同士が技術面・ソフト面で連携しながら成長できるプラットフォームとなっている。今後、日本市場にも参入していくとトーレセン氏は語る。日本語でのサポートや、翻訳されたドキュメントなどを提供し、日本のAWSを立ち上げる。「超高速でスケーラブルな環境を提供できる。日本の顧客にもLabrador CMSの機能を通して、ジャーナリスト、そして編集者としての仕事を心から楽しんでもらいたい」と強調した。お問い合わせはメディアジーンまでlabrador@mediagene.co.jp取材/遠藤祐子執筆/杉本結美 編集/坂本凪沙撮影/三浦晃一