金ロー放送『ゴジラ-1.0』何がすごかったのか…!
ゴジラ70周年記念作品『ゴジラ-1.0』が11月1日「金曜ロードショー」(日本テレビ系・毎週金曜夜9時〜)で放映される。1954年公開の第1作『ゴジラ』からシリーズ通算30作となる本作は、興行収入約76億円、動員503万人と大ヒットを記録。日本アカデミー賞では作品、脚本ほか8部門で最優秀賞を受賞。第96回アカデミー賞でも視覚効果賞でオスカーを獲得したほか、国内外で多くの賞に輝くなど高い評価を獲得した。地上波初、本編ノーカットでの放映を前に、本作の見どころを振り返ってみたい。(文:神武団四郎)(ネタバレあり。以下、一部映画の内容に触れています)
山崎貴監督が手掛けた『ゴジラ-1.0』の魅力はゴジラのキャラクターに負うところが大きいが、“山崎ゴジラ”の特徴は怖さ。第1作からこれまで多くのゴジラが恐怖の対象として描かれてきたが、本作はその怖さを徹底している。もっとも特徴的なのは、怪獣出現を知った人々が逃げまどう怪獣映画の定番モブシーン。本作の銀座襲撃シーンでは、遠方のゴジラと手前の避難者という定番の構図を一歩進め、巨大なゴジラが人間たちを踏み潰しながらのし歩く。
いっぽう、主人公の敷島(神木隆之介)が大戸島で遭遇する呉爾羅(核実験の影響を受ける前の個体)や海上で遭遇するシーンでは、相手をしっかり見据えて襲う姿が描かれた。銀座を戦争の怖さとすれば、こちらは凶暴な生き物の怖さ。ふたつの合わせ技で、遭遇したら逃げられない、生き残れない存在を印象づけた。どのシーンも緻密なVFXで描かれており、オスカー受賞の映像を味わうのも本作のお楽しみだ。
ゴジラのデザインや振り付けにも山崎監督のこだわりが見て取れる。山崎ゴジラは生き物としてのリアリティを担保しながら、スーツアクターが演じ続けたゴジラの“人っぽいフォルム”をエッセンスとしてプラス。その振り付けも上半身を動かさないゆっくりとした歩行シーンと、野獣のように暴れる静と動の組み合わせ。山崎監督は動物と神のような存在の中間点をめざしたと語っており、ハリウッドで進行中の「モンスター・ヴァース」の動物的なゴジラとは違った味付けだ。ケロイド状の皮膚感や背ビレなど歴代ゴジラシリーズが受け継いできた特徴的なデザインも踏襲されている。デザイン、動き共にハリウッド版と似ているようで大きく違っているので、見比べてみるのも楽しいだろう。
『ALWAYS 三丁目の夕日』では建設中の東京タワーなど昭和の景観、『永遠の0』の空母赤城や『アルキメデスの大戦』の戦艦大和の沈没シーンなど、これまで見たことのない見せ場を次々に生み出してきた山崎監督。70年にわたって陸、海、空、地球以外の惑星などさまざまなロケーションで死闘を演じてきたゴジラだが、本作ではゴジラが大海原で軍艦との一騎打ちをするかつてない見せ場が描かれた。もともと山崎監督は本作の監督に就任する以前、『アルキメデスの大戦』の準備中に大和とゴジラが一緒にいたら面白いと思い立ち『ゴジラ-1.0』でそれを実践。ゴジラに襲われた重巡洋艦・高雄が、艦橋を破壊されながらゴジラを砲撃するシーンを生み出した。のしかかるゴジラに向け砲塔を旋回させ、超至近距離から巨体に砲弾を叩き込む、燃えるスペクタクルに仕上げている。
第1作をベストにあげる山崎監督は、いくつもオマージュを捧げたシーンを入れている。銀座襲撃シーンで、東京湾から上陸し銀座方面に移動、日劇へと向かう動線は第1作を踏襲。周囲を破壊しながら移動する足もとを強調した画角、口で列車をつかみあげる仕草も同じだ。なお列車をくわえるカットのゴジラの動きは、第1作で着ぐるみと共に使われたギニョール(手を入れて操る上半身のみのパペット)を意識してアニメートするというこだわりだ。ゴジラの目の前で実況していたアナウンサーやカメラマンが命を落としたり、ゴジラが初めて姿を現すのが伊豆諸島の架空の島・大戸島だったり、対ゴジラ兵器のデザインがオキシジェン・デストロイヤーを思わせるなどあげていけばきりがない。そもそもシリーズの多くがゴジラに挑む主人公のミッションを中心に展開する中、家族にまつわる私生活に重きを置いているのも第1作に通じている。第1作以外にも、クライマックスの流れが『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)を思わせたり、戦闘機・震電で飛び立った敷島が農村風景の中を移動するゴジラを発見するシーンの画作りは昭和シリーズ定番の光景にリンク。シリーズへのリスペクトにあふれた作品なのだ。
物語の舞台は戦後間もない復興期。国家の機能不全や民間・個の活力が日本を救う展開、災害で負った心の傷との闘いなど、現代にも通じるテーマを持った『ゴジラ-1.0』。この機会にあらためて本作の魅力を探ってみるのもよいだろう。