【ムクドリ】なぜ駅前に?「ただ追い出しても、別の場所に移動するだけ」専門家が唱える納得の解決策
窓を閉めていても「そばで掃除機をかけているほどの音量で……」
夕方になると空が真っ黒になるほど飛んで来るムクドリの大群。埼玉県春日部駅の周辺では、ひと晩中さえずる、その声は窓を閉めていても、そばで掃除機をかけているほどの音量で寝不足になってしまうと、近隣住民は悲鳴を上げている。
春日部駅前だけではない。津田沼駅前、柏の葉キャンパス駅前など千葉県にも、夕方になるとムクドリの大群がねぐらを求めて押し寄せている。
それにしても、なぜ駅前なのか。
「ムクドリの天敵はオオタカやハヤブサ。都市部にはこうした鳥類が少ないし、ハヤブサは急降下で狙ってきますが、ビルがあるとぶつかってしまう危険性があるので、襲ってこない。
ビルがあると風を防ぐことができるので、冬でもそれほど気温が下がらないし、台風が来たときでも風が防げる。駅前にはビルが多いので、駅前の樹木をねぐらにしているのだと思います」
こう言うのは、都市鳥研究会副代表の越川重治さん。実際、ビルが解体されるとねぐらもなくなるということが、越川さんの調査でわかっているという。
もう一つの理由が、駅前には「ケヤキ」並木が多いこと。ムクドリはねぐらにケヤキを選ぶことが多いのだとか。
「ケヤキは細かく枝分かれしていて、枝が揺れやすい。外敵が来たときは振動が伝わりやすいので、ねぐらに選んでいるようです」
ムクドリが駅前のケヤキをねぐらにし始めたのは、’80年代。
「それまでは郊外の防風林や河畔林をねぐらにしていましたが、開発が進んで防風林や河畔林がなくなってしまった。そのため、ケヤキがたくさんある駅前に移動してきたと考えられます」
追い出しても、別の場所に移動するだけ……
大きな群れになると3万羽、4万羽が集まることもある。鳴き声だけでなく、フンや羽毛が落ちてくるため、洗濯物も外に干せない。羽毛が舞い込むと、飲食店は死活問題になることもある。こうした苦情が役所に寄せられ、さまざまな対策がとられている。その一つが、ねぐらとなっているケヤキの枝を剪定すること。
「ひどいところになると“剪定”というより、枝打ちのようにして、ケヤキを丸坊主にしてしまうところもありました」
これで解決かというと、そうもいかない。ねぐらを追われたムクドリは、移動するだけ。津田沼駅前から追い出されたムクドリが、隣の北習志野駅前に移ってしまったこともあった。
「自分のところからいなくなったら、追い出し成功と思うかもしれませんが、ほかの自治体が困ることになるだけです」
剪定のほかに、ロケット花火を打ち上げたり、爆竹を鳴らす、ムクドリの悲鳴のような声を録音したものを流すディストレスコールや、超音波、振動、光の点滅など、さまざまな追い出し作戦がとられているが、
「追い出されたムクドリは別の駅前や自治体に移動するだけ。これでは解決になっていない」
別の場所に移ればまだいいが、そのうち電線や看板などをねぐらにするようになることも。
「そうなったら、自治体の管轄から離れてしまう。電力会社やビルの管理会社に対策を頼まなくてはなりません。
ムクドリも電線などのように丸見えのところは不安なんです。けれど、ここでも大丈夫と学習すれば、そこに集まってしまいます」
ケヤキをねぐらにしていたムクドリは、ケヤキが落葉すれば郊外の竹林に移っていくが、電線をねぐらにすると1年中いるようになってしまうとか。
どうすればいいのか。
「全部を追い出そうとしなければいいんです。
商店街など住人に迷惑がかかるところの木だけ剪定して、ロータリーや公園などそれほど人に被害を与えない木はそのままにしておく。そうすればムクドリは迷惑のかからないところをねぐらにし、ほかの自治体に移ったりせず、ムクドリねぐらの拡散を減らすことができます」
剪定するときは丸くカットして、そこに鳥ネットをかぶせるようにする。ねぐらとなる木が減るようなときは、近隣自治体と相談しながら対策を進めることが大事だと越川さんは言う。
「ムクドリは3月下旬から巣作りを始め、4月中旬から産卵が始まります。ねぐらのムクドリの数が増えるのは10月ごろから。数の増える秋ではなく春のうちに剪定などの対策を行う必要があります」
なぜ気にならない!? 表参道のケヤキ並木もムクドリのねぐらになっているけど……
しかし、ムクドリが問題になっているのは千葉県や埼玉県だけなのだろうか。
「いちばん多いのは関東圏。関西圏や愛知県にも、ねぐらが問題になっているところがあります。東京にもねぐらが問題になっている地域はけっこうあります。
気がついていないかもしれませんが、表参道のケヤキ並木もねぐらになっています」
気にしなかったせいか、歩道にフンが落ちているなんて気づかなかった。
「表参道のケヤキは立派なので、フンが葉で受け止められて、あまり歩道に落ちていないかもしれません。木が大きいと個体間の間があくので、駅前ほど問題になっていないのでしょう」
ひと晩中鳴き声が聞こえるのは、木の中で絶えず移動したり、1羽が鳴き出すと全体に広がるためではないかと越川さんは言う。
だったら、剪定するより、大きくケヤキを育てたほうがいいのではないかという気もしてくる。
「歳時記では、ムクドリは秋に分類されているように、昔の人はムクドリの群れを見て、秋がやってきたことを感じていました。そんな心のゆとりが今はなくなってしまったのかもしれません」
ムクドリと共存するためには都市づくりから考えないといけないと越川さん。
「ムクドリはネキリムシやイモムシなどの農害虫を食べてくれるし、木の実を食べてフンなどで種を落とす種子散布の役割も果たしている。
人間優先で考えるのではなく、共存する方法を考えなくてはなりません。
広い道路にゆとりをもってケヤキを植えれば、ムクドリが集まってきても、それほど問題にはならないでしょう。それに、なによりも、鳥もいない世界は怖いと思いませんか……」
越川重治 2016年まで千葉県立高校教諭。ムクドリやカラス、ツバメなど都市鳥の研究に携わってきた。都市鳥研究会副代表。ムクドリの調査・研究は40年以上になる。2017年度から自然観察大学講師としても活躍している。
取材・文:中川いづみ