「十一人の賊軍」の(左から)仲野太賀、本山力、尾上右近、山田孝之、佐久本宝、千原せいじ(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会

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 芸能記者が座談会形式で本音を語る「言いたいHo!題」。今回は「空前の時代劇ブーム到来なるか?」をテーマに映画担当記者が語り合う。俳優の真田広之(64)がプロデューサーと主演を務め、エミー賞で18冠を獲得した配信ドラマ「SHOGUN 将軍」、1館から全国300館以上に拡大された自主映画「侍タイムスリッパー」、来月1日公開の映画「十一人の賊軍」などの見どころや時代劇の可能性を探る。

◆海外需要ヒット要因

 A「今年は、個性豊かな時代劇が配信・公開されているね。中でも、ディズニープラス配信の『SHOGUN』はエミー賞効果もあり大きな注目を集めた。全10話あったけど一気に見ちゃったよ」

 B「伝統的な時代劇の所作も妥協なく作り上げていたし、脚本がうまい。外国人目線、将軍たちを支える女性目線で話が展開するところは、そういうアプローチがあるのかと感心した」

 C「世界的ヒットの背景にはコロナ禍の影響もあったようだ。多くの人が配信サービスを利用するようになり、英語以外の作品を見る機会が増えた。字幕への抵抗も減ったことは、セリフの大半が日本語の『SHOGUN』にも追い風になったのでは」

 D「時代劇を求める海外のニーズもあると思う。最近取材した映画関係者によれば、何年も前から海外映画祭のディレクターなどから『日本には侍や忍者のように固有の文化があるのに、なぜ時代劇をもっと作らないのか?』と言われていたそうです」

 E「忍者と言えば、賀来賢人が主演とプロデューサーを務めたネットフリックス配信の『忍びの家』も世界でヒットした。日本人が思っている以上に、海外では時代劇を求める需要があるのかもしれない」

 B「ただ、『SHOGUN』はあれだけ大々的に日本を駆け巡った話題作だったのに、周囲から『自分も見たけど面白かった』みたいな声が思ったほど聞こえてこない…。日本人の時代劇への関心の底上げにはいま一つ、つながっていない印象を受ける」

 C「配信サービスだと入会の手間などが壁になっているのかもしれない。でも、せっかくの快挙だし国内外で時代劇ブームが巻き起こってくれればうれしい」

 A「『SHOGUN』とは予算規模などが対照的な、『侍タイムスリッパー』が快進撃を見せているね」

 D「8月に池袋シネマ・ロサ1館で封切り以来、口コミなどの影響で全国300館規模に拡大。メディアでは『カメラを止めるな!』の再来と言われている」

 C「自主映画と聞き、見る前は『安っぽい演出なのか?』と心配したが、オープニングから想像以上にしっかり作られていて驚いた」

◆幕末藩士が斬られ役

 E「幕末の会津藩士が現代にタイムスリップして時代劇の斬られ役を目指す。設定からして面白いよね」

 B「“時代劇愛”にあふれる作品だった。昨今の時代劇の厳しい現状を指摘しながら、悲観的にならず面白みを入れて作っている。脚本力も光っていた」

 C「エンドロールに、助監督役の沙倉ゆうのが女優として以外の役割で何度も名前が出てきた。このあたりは自主映画のにおいが感じられる。音響がところどころで“いかにも”というところはご愛嬌(あいきょう)か」

 E「殺陣のシーンは予想以上に迫力もあった。東映京都撮影所の協力が大きかったのではないか」

 A「まもなく公開の『十一人の賊軍』にも注目だね」

 B「山田孝之演じる主人公がユニーク。罪人で、仲間を裏切ろうとしたり、自分だけ生き残ろうとしたり、まさにアンチヒーロー」

 D「『水戸黄門』や『大岡越前』のような勧善懲悪ものも好きだけど、そういう時代劇のセオリーから逸脱しているところが面白い」

 C「音楽(劇伴)が物語のテイストと一線を画す感じがしたけど、そこもあえてのこだわりなのかな」

◆殺陣も爆破も力強い

 A「白石和彌監督が海外を意識して、殺陣も爆破シーンも力強い描写にこだわっている。劇場で見るからこそ伝わる魅力がある」

 E「監督の『個性』でもあるのだけど、目を覆いたくなるようなせい惨なシーンも少なくない」

 B「テレビでは絶対に映せないシーンも多い。だからこそ、劇場に行く価値があるとも言える」

 D「公開中の『八犬伝』は“時代劇×VFX”の組み合わせが特徴だね」

 A「VFXは米アカデミー視覚効果賞を獲得した『ゴジラ―1・0』でも注目を浴びた編集技術だ」

 C「役所広司演じる作家・滝沢馬琴が主人公。八犬士たちのシーンは、VFXを駆使したアクションが圧巻だった。“チャンバラ”の魅力を増すのに、最新技術は有効的だと思う」

 A「今年は他にも、松本幸四郎主演の『鬼平犯科帳 血闘』や草ナギ剛の『碁盤斬り』もあった。時代劇ブームの到来となるか…?」

 E「若い世代は特に、時代劇だから見るというよりは、脚本の面白さの方が重要視される傾向はあると思う」

 C「時代劇を作るスタッフの技術だけでなく、役者の技術の伝承も大きな問題になるだろうね」

 B「その意味でも、真田広之や役所広司ら一流の俳優が時代劇への敬意や危機感を抱きながら製作する作品は、興収や動員などの数字では計れない価値がある」

 C「年明けすぐの1月17日には大泉洋主演『室町無頼』も公開される。応仁の乱の前夜を描く本格戦国アクションらしい。時代劇の復活、その兆しは見え始めていると思います」

 ◇座談会出席者 有野博幸、内野小百美、奥津友希乃、高柳哲人、土屋孝裕(50音順)

 ◆「十一人の賊軍」 江戸から明治に移り変わる1868年、旧幕府軍と薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍で争われた戊辰戦争が舞台。新政府軍と対立する奥羽越列藩同盟に加わっていた新発田藩(現在の新潟県新発田市)に捕らえられていた11人の反逆者が同藩の命運を握る任に就き、壮絶な戦いに身を投じる。

 ◆「侍タイムスリッパー」 10人ほどのスタッフによる自主映画。幕末の会津藩士・新左衛門(山口馬木也)が落雷により、現代の京都の撮影所にタイムスリップする。新左衛門が斬られ役として第二の人生を歩もうとする姿や、映画スター・風見恭一郎(冨家ノリマサ)との出会いを描く。

 ◆「SHOGUN 将軍」 関ケ原の戦い前夜が舞台の歴史スペクタクルドラマ。窮地に立つ徳川家康がモデルの武将・吉井虎永(真田)が、生き残りを懸けて策略を巡らせる。伊豆に漂着し、虎永の家臣になる英国人航海士・按針(コスモ・ジャーヴィス)や、通詞(つうじ)の戸田鞠子(アンナ・サワイ)らが絡む複雑な人間ドラマが繰り広げられる。