船井電機の本社(撮影:尾形文繁)

10月24日、「世界のFUNAI」として親しまれた船井電機が東京地裁から破産決定を受けた。申請時の負債総額は469億円で、家電メーカーでは平成(1989年)以降、2000年11月に民事再生法の適用を申請した赤井電機(負債470億円)に次ぐ、4番目の大型倒産となった。

1950年代に産声を上げ、トランジスタラジオやラジカセ、VHSビデオなど、時代のニーズに合わせて扱い品を変えて成長した。2000年代はデジタルAV機器で頭角を現し、北米市場では価格と技術力で強みを発揮した。また、国内では2017年にヤマダ電機(商号は当時)に独占供給を始めるなど、国内家電メーカーが苦戦する市場で目を引く存在だった。

FUNAIに何が起きていたのか。調査会社の目線で検証したい。

船井電機の「信用調査報告書」に表れた異変

東京商工リサーチ(TSR)の調査・取材に基づく、信用調査報告書(TSR REPORT)には、世間にイメージされた船井電機と大きくかけ離れた実像が記載されている。

今夏に作成された報告書の「評点」欄は44点。評点は企業の信用力を表し、100点満点で評価される。家電業界は平均50点程度だが、船井電機はその認知度とかけ離れた低評価だった。

船井電機のホームページの「会社のあゆみ」は1961年から始まる。だが、報告書には「2023年2月21日設立(設立1年)」と記載されている。そして、「事業譲受」欄には「2023年3月に船井電機・ホールディングス(HD)より不動産に関する事業を除くすべての事業に関する権利義務を承継した」とある。

さらに読み進めると、かつての船井電機船井電機HDに商号を変更し、2023年2月に新設された企業が船井電機の事業を承継、船井電機HDは不動産賃貸が主な収入源になっていたことわかる。

また、「所見」欄の最後には、「創業家との事案も懸念事項」との記述がある。さらに報告書は「船井電機HDが保有する不動産に創業家が110億円の根抵当権設定仮登記」と記載している。そのうえで、運営母体の変更に前後して「取引金融機関の見直しが行われた可能性」と続けている。

こうした報告書の内容から伝わるように、関係先は今夏以降、船井電機に対する警戒レベルを大幅に引き上げていた。

レピュテーションと「Xデー」

こうしたなか、今年9月末〜10月初めにかけて、船井電機の資金繰りに関して、具体的なレピュテーション(噂、風評)が多数寄せられるようになる。TSRデータベースには、「少なくとも直近2カ月の支払いについて、取引先に延期要請をしている」「最近になって支払い猶予を要請する書面を関係先に送付している」などの情報がこの時期に登録されている。

信用調査報告書では、運営母体の変更、担保設定などを基に、船井電機の変調が読み取れたが、登録された「ネガティブ情報」はさらなる資金繰り悪化を告げている。

いわゆる「Xデー」を探る動きが水面下で急を告げていた。そんな折、10月23日夕方、「電話がつながりにくい」との一報を受け、TSRは東京本社を訪ねた。応対した船井電機の関係会社の従業員は、「今日は船井電機の社員の出勤は1人だけだった」と答えた。普段から1人で対応しているのか質問すると、「もっと出勤している」という。

船井電機に近しい情報筋は、「過去に支えていた先の多くも手を引いている。支援の見込みもない。グループ向けを含め、すでに債権の精査を完了しており、(船井電機の与信は)過去の案件だ」と耳打ちした。Xデーはそこまできていた。

運命の10月24日。TSRは、現地を取材する大阪、情報を集約する東京(筆者は東京担当)で、朝から臨戦態勢を敷いた。

船井電機クラスの規模になると、対応できる弁護士事務所は限られる。さらに今回は、権利関係が複雑に絡み合っている。登記上本社は大阪だが、こうしたケースでは東京地裁の扱いが多い。そこで、「倒産村」(倒産や事業再生を手掛ける実務家の総称)の弁護士の直近の担当案件などを洗い出した。あれこれ弁護士事務所の受任状況を探るなか、有力事務所が候補に浮上した。

その後まもなく、その事務所が担当するとの情報がTSRにもたらされた。事務所の主な弁護士のスケジュールを確認すると、明日(25日)は会合が控えていることが判明した。

従業員が一同に集められていた

さらに正午過ぎ、大阪本社に張り付いたTSRの情報部員が映した写真が送られてきた。拡大すると上層階の一角に多くの従業員が集まった姿が写されていた。企業倒産の現場を多く目の当たりすると、何が起きているかおおよそ想像できる。破産の当日に従業員は一同に集められ、代理人弁護士から破産の事実と雇用関係の解消などを告げられる。送られてきた写真は、ひと目で「Xデーは今日」と確信させた。


船井電機の本社に集まる従業員(写真:東京商工リサーチ、10月24日正午過ぎ撮影)

中小企業では何度も目撃した現場だ。だが、大阪から送られてきた写真は、人数の多さ、ワイシャツ姿の背中が普通と違うことを教えていた。

船井電機の破産申立書によると、船井電機の単体従業員は532人、連結子会社を含めると2160人に達する。地元のハローワークが再就職支援に乗り出すなど、関係先は対応に当たっている。また、申立書は事態の収束に時間を要することを感じさせる点が2つあった。

負債総額は469億円よりも巨額の可能性

1つ目は負債総額だ。破産申請時の負債総額は469億円だが、実態はもっと大きい可能性がある。TSRが入手した船井電機の9月末の試算表では、資産総額は643億円、負債総額は474億円だ。だが、船井電機船井電機HDに対し、253億円を貸し付けている。船井電機HDは船井電機からの賃料収入が主体で、最大の収入先が破産した以上、貸付金の回収は不可能だ。

さらに、試算表には関係会社株式として230億円が計上されている。申立書では関係会社について「債務者(TSR注:船井電機)の資金繰り悪化により単体で資金繰りを維持することが困難な会社が含まれており、その株式は相当程度無価値となることが想定される」と記載している。

このため、合計483億円(貸付金253億円+関係会社株式230億円)に対する手当てが必要だが、9月末の試算表の引当金合計は200億円に満たない。

適正な引当金や関係会社株式の評価損を加味すると、単純合算で負債総額は約800億円(2024年9月末の負債総額474億円+船井電機HDへの貸付金253億円+関係会社株式230億円-引当総額188億円+その他顕在化した債務)に膨れ上がる。


(出所)破産申立書に基づき、筆者作成

もう1つは、関係会社の行方だ。「株式は相当程度無価値となることが想定される」(申立書)と記載がある以上、存続の可能性を精査しなければならない。TSRが入手した関係会社一覧では、関係会社は国内外で30社を超え、電子機器の修理から貨物運送、語学教育まで業種はさまざまだ。

船井電機の関連会社の行方は?

このうちの1社に断熱材の製造販売を手がけるEIF西日本(岡山県)がある。今年9月に破産を申請しているが、外部への資金流出から大規模な粉飾に手を染め、8月に会社更生法の適用を申し立てられた環境経営総合研究所が55%、船井電機が99.5%の株式を保有する船井興産(大阪市、不動産賃貸業)が45%の株式を保有する企業だ。

家電の名門、船井電機の倒産までの真相は表層的な動きでは追いきれない。今後、深い闇を破産管財人が明かしていくことが期待される。

(原田 三寛 : 東京商工リサーチ情報本部情報部長)