有名歌手が名曲を…増えるAIカバー 肖像権保護と必要なルールは?専門家「ラインをどこに引くかで、権利が守られ、新しいイノベーションが生まれるか。バランスが肝」
先日、YouTubeに投稿された声優たちの心の声が話題となった。フリーザ役などの中尾隆聖氏は「私たちの声は商売道具で人生そのものだ。無断で生成AIに使われている私たち声優の気持ちを聞いて欲しい。NOMORE無断生成AI」と述べた。(『NOMORE無断生成AI』声優有志の会)
【映像】フリーザ役、ばいきんまん役などの中尾隆聖氏が訴える様子
声優有志の会には、ジーニー役などの山寺宏一氏や、大蛇丸役などのくじら氏らも参加し、『NOMORE無断生成AI』を訴えている。
有志の会によると、生成AIを使って無断で声優の声を使用し制作された動画は、今年1月だけで500件に上る。実際にTikTokやYouTubeで、“AIカバー”と検索すると、声優やアーティストの声を使った生成AIの動画がたくさん存在する。その作り方は他の作品から使用したい声を抽出し、AIに読み込ませるだけだという。Xでは「利用される声優やアーティストに失礼だよ」「いろんな声で歌やセリフを聞けて楽しい」「法的に問題はないのかな?悪用されない?」との声が上がっている。AIで作られた偽物にどう向き合うべきなのか、『ABEMA Prime』で考えた。
■現時点での拘束力
AIカバーには、例えば「五条悟に青のすみか歌わせてみた」「コナン君に歌ってもらった」などがある。生成AIの使い方を個人や企業に紹介している、YouTuberのAkiyama Yuta氏によると、AIカバーは「作るのはめちゃくちゃ簡単だ。30分から1時間ぐらいで作ることができる」と話す。
法的に規制をすることはできるのか。弁護士の深澤諭史氏は「国会が法律を作ればできる」。ただし、「イノベーションが塞がれることになる。また、世界的に日本の声優さんやアニメは訴求力があるので、日本だけで規制しても外国でやられてしまう。法的に規制できるが、そういう法律を作るのはまずい。どこにラインを引くかが非常に難しい」と懸念している。
現時点での拘束力については「AI事業者ガイドラインがある。それ以外は既存の法律で対応している。例えば生成AIで、この人の声だという名前を使えば、パブリシティ権(有名人が持つお客さんを集める力)の侵害になる。なので、AIだから駄目ではなく、AIを使って既存の法律に違反することはあるというのが現状だ」と説明した。
姿・形には肖像権があるが、声について、深澤氏は「入っていない。今後声について肖像権が認められる可能性はゼロではないが、声優さんになるとかなり難しい。普段の声と演技Aの声、Bの声、Cの声など七色の声がある。人間で言えば、100の顔を持つみたいな感じで難しいと思う」との考えを述べた。
■「AI×声」の可能性
「AINOW」編集長のおざけん氏は「一歩進んで考えた時、声優さんの声をライセンス化して、AI生成できれば、現地の言語でアニメを見ることができる。また、例えば子どもがeラーニングみたいな講座を受ける時、好きな声優さんの声で受けることができるなど、ビジネスの広がりになるはずだ。日本のコンテンツ産業を海外に出していく戦略をとらないと、せっかくのIT大国なのにもったいない」との見方を示す。
一方で、ライセンス化が進めば「新人の声優さんのほうが危機なんじゃないかと思う」と話す。「これから声優になりたいという方がどの声で勝負しようとなった時に難しい。今ある程度人気があって、ライセンス化できる声優さんが声をあげているが、これから声優さんになりたい人はどこで仕事を見つければいいのか、どうやって人気を獲得していけばいいのかという問題になってしまうのではないか」。
カンニング竹山は、エンタメ側の視点から「バランスが取れてないなと思う。企業側は『こんな便利なことができるよ』、『こんなお金儲けができるよ』って開発していく。一方で、エンタメ側は権利で食べてるから、お金払いなさいってなる。そこをどう作っていくかやらないと、声優さんの問題はもっと広がる」との考えを述べた。
今後、どうやってルールを作っていくのか。深澤氏は「声優さん、クリエイターの方々、関連するAIサービスの方々、動画チャンネルをなさっている方々、そして法律学者、我々のような法律実務家が集まって、協議会、検討会みたいなもので議論して法率を作る。これまででてきた法律も概ねそうやってできている」と答えた。
著作権、権利については、ドラえもんを事例に出し「キャラクターに著作権はあるが、未来から来たロボットが少年を助けるというアイディアは、著作権が及ばない。ここまで保護をしてしまうと、新しい作品が出てこない。ラインをどこに引くかで、今の人の権利が守られ、新しいイノベーションが生まれるか。どっちが良い・悪いではなく、どこにバランスを持って行けばいいのかがまさに議論の肝だ」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)