一時の金欲しさでわなに落ち、一生を破滅させてしまいかねない。インターネット上で高額報酬をうたうアルバイト募集に応じた若者が、凶悪犯罪に加担させられる危険性を社会で共有し、根絶しなければならない。

 首都圏を中心に、複数人で住宅に押し入る強盗事件が相次いでいる。横浜市では75歳の男性が殺害された。

 警視庁など4都県警合同捜査本部は8月以降に発生した1都3県の計14事件を重点的に捜査し、これまでに実行役ら30人以上を逮捕した。

 大半が20代だ。多くが交流サイト(SNS)のバイト募集で集められ、指示役の命令に従って実行したとされる。犯罪者を募る「闇バイト」と気付かず応募していた容疑者もいたという。

 実行役が複数の事件に関与している例もあり、首謀者が同一の可能性もある。

 横浜の事件について強盗殺人容疑で逮捕された男は、途中で犯罪と知り怖くなったが、応募時に送信した身分証明書の写しで個人情報を把握されており「家族への危害を恐れて断れなかった」と警察に説明しているという。

 事務手続きを装って身分証明書の写しを送らせ、仕事を断られると「家族を殺す」「おまえのことを警察に通報する」「ネットでさらす」などと脅す。後戻りできないように仕向けて犯罪に引きずり込むのが常とう手段だ。

 こうした事件は2020年ごろから目立つようになった。22年から23年にかけて「ルフィ」などと名乗る人物が指示した一連の広域強盗事件は記憶に新しい。

 日本の治安を脅かす重大な事態だ。新たな被害者、加害者を生まないために、捜査当局は総力を挙げ首謀者を摘発しなければならない。

 警察当局はネット上で情報監視を強化しているが、最近は常識的な報酬を掲げ普通の求人を装うなど、募集の手口は巧妙化している。誰でも巻き込まれる恐れがある。

 犯罪の痕跡が残らない秘匿性の高い通信アプリでの連絡や家族情報まで求められたら、闇バイトの可能性が極めて高いと疑う必要がある。もし犯罪に巻き込まれそうになっても、警察は本人や家族の保護を約束しており、迷わず相談してほしい。

 ただこうしたメッセージがどこまで当事者に届くかは不明だ。警察庁はSNSに啓発動画を投稿している。ニュース離れが深刻な若い世代への周知に知恵を絞りたい。

 山口県では同種の未遂事件があり、逮捕された関東在住の3人の中には中学生もいた。低年齢化も心配だ。

 首都圏の現場周辺では、事件前にリフォームや家屋の修繕などの業者を名乗る不審人物が民家を訪問していた。犯罪グループによる下見の疑いがある。福岡県内でも今月、不審な業者の住宅訪問が複数確認されている。九州でも厳重な警戒が必要だ。