中村梅乃と片岡千次郎、附打ちの大谷琢人と留学生たち

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11月2日(土)から京都・南座で始まる『Journey into KABUKI~Appreciation and Experience~/歌舞伎への誘い~鑑賞と体験~』。「「鑑賞」だけで終わらない、「体験」する歌舞伎」をコンセプトに、演目の鑑賞に加え、歌舞伎にまつわる体験やワークショップが楽しめる公演だ。これに先駆け、10月23日(水)には小道具の体験会と中村梅乃、片岡千次郎との交流会が南座で行われ、京都市国際交流協会を通じて6名の留学生が参加した。

中村梅乃、片岡千次郎

公演で実施される体験では、館内ロビーで実際の舞台で使用される「舟」や「駕籠」などの乗り物や、効果音を奏でる小道具の体験型展示、舞台衣裳の試着などができ、歌舞伎に欠かせない「附打ち(つけうち)」のワークショップも予定。開場から開演までの1時間で各種体験を自由に楽しめる。鑑賞では、中村梅乃と片岡千次郎による「歌舞伎のみかた」と「猩々(しょうじょう)」を上演。酒好きの霊獣「猩々」と酒売りが繰り広げる幻想的な舞踊で、酒に酔った猩々が水上での戯れを見せる猩々舞がみどころ。華やかで格調高い、松羽目物の舞踊を堪能できる。また、海外の方も楽しめるようにと、英語の逐次通訳や英語の音声ガイドも用意。

交流会に参加した留学生は、リさん(中国)、へスターさん(オランダ)、コウさん(台湾)、ワリットさん(タイ)、リムさん(シンガポール)、ホンさん(台湾)。

体験を通して「ライブに行くような感覚で観に行けそう」とワリットさん

まずは附打ち体験を。附打ちの大谷琢人が「ツケとは歌舞伎の独特の効果音の一つで、ツケ木(つけぎ)と呼ばれる木の棒をツケ板(つけいた)と呼ばれる木の板に打ち付けることによって、役者さんの演技や動きにめりはりをつける、歌舞伎独特のものです」と説明し、実演。そしてへスターさんとリさんが見様見真似で挑戦することに。ツケに合わせて歩く役を担ったのはコウさんとワリットさん。

試行錯誤しながら挑戦するへスターさんとリさん

勇ましく力強い附けの打ち方など大谷のアドバイスも参考に、舞台さながらの音を響かせたへスターさんとリさん。「木を使って音をつけるのはかなり特殊で、すごく素敵だった」とへスターさん。リさんも「とてもユニークな効果音の付け方だと思いました」と笑顔を見せた。

続いて、千次郎が附けに合わせた動きを実演、留学生の目の前で見得を切り、迫力満点だ。「附けで俳優の動きにアクセントをつけてもらうことで、力強く、勢いよく走っている様を感じていただけたと思います。見得というポーズをする時にも音をつけてくださることで、お客様から拍手をいただきますし、役者としてもとても気持ちがいいものです。附打ちさんは阿吽の呼吸で一緒に舞台を作り上げてくださるとても大切な方でございます」と千次郎、附打ちは歌舞伎の中でも重要な役割を占めていると話した。

音を聴きながら「馬?」などと考えをめぐらすリムさん、ホンさん

貝殻を鳴らして何の音か当てるクイズも行われ、リムさんとホンさんが参加した。貝殻も歌舞伎でよく使われる小道具で、小刻みにこすり合わせることでカエルの鳴き声を再現する。

「歌舞伎は江戸時代に誕生した演劇です。その当時は電気がないわけですから、電子音楽もありません。そういう条件の中で、あらゆる場面の効果音を作らなければいけないということで、今で言うアナログな手法で様々な音を出す工夫を先人たちが考えてくれました。貝殻でカエルの鳴き声を表現するのも、大昔の歌舞伎俳優の方々の知恵です。歌舞伎はそういった伝統を今もたくさん受け継いでいて、楽器や小道具を使用し、生音の効果音を使うのが魅力の一つです。今回、そういったことも体験していただけますので、ぜひ皆さんも挑戦してもらえたら」と梅乃、小道具の重要性や成り立ちも解説した。

留学生から俳優への質問コーナーもあり、コウさんが次のような質問を。「伝統を守ることと、時代の変化に対応すること、例えば新しい芸術を取り入れることの塩梅はどうとっていますか?」。千次郎は「歌舞伎には400年という歴史の中で練り上げてきた芸があります。それらを先輩方から教えていただき、そのとおりに演じる。それが伝統、芸をつなげていくということ。その一方で、現代の若いお客様や皆さんのような海外の方にも歌舞伎の魅力をお伝えしたいという思いもあるので、分かりやすくパフォーマンスをする。泣いたり、笑ったり、怒ったりといろんな感情表現をわかりやすくお伝えできるよう、演技方法などを考えています」と回答。梅乃は「常にアンテナを張っていると」と話し、次のように続けた。「好奇心旺盛に、いろいろなことを吸収していくことも必要だし、昔から伝わってきたものをしっかり学んでいく。伝統と革新というその両方を我々は意識して修行しています」。

そんなふたりにリムさんからさらなる質問があった。「守らないといけない伝統と、してはいけない革新、その線引きはどこなのでしょうか?」。ふたりはリムさんの鋭い視点に舌を巻きつつも、梅乃がこう話した。「現代演劇やテレビドラマ、映画みたいにリアリズムに傾きすぎないことかもしれませんね。写実にやろうとすればするほど、いわゆる古風な味わいがなくなるので、あくまで伝統芸能であると。江戸時代から続く和の文化という、ある意味、大らかなところが残っていないと、ただのドラマになってしまうと思います」。

歌舞伎に触れたのは今回が初めてだったという6人の留学生。短い時間ではあったものの、それぞれに触発された様子だった。今回、歌舞伎への理解を深めようと思い参加したというリムさんは、「私は演劇の勉強をしているのですが、西洋の演劇文化に対する研究は進んでいるものの、東洋の演劇文化の研究が少ないので、そういった勉強をしたいと思っています。参加する前は歌舞伎のセットや舞台の技術的なところが気になっていたのですが、今回の体験を通じて、一つの役でも複数の演じ方があるなどの面白さが分かりました」と、さらなる発見に目を輝かせた。そしてコウさんは「歌舞伎は日本の伝統をまとめて表した文化だと思いました。貴重な留学期間に、歌舞伎の作品を観てみたいです」と、歌舞伎と日本文化、その両輪を楽しみたいと話した。

取材・文=Iwamoto.K 撮影=SPICE編集部