(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大 (全2枚)

英国では政権交代によって超富裕層への課税強化が目前に迫っています。増税によって国外へ脱出することが想定されますが、超富裕層がどこに行くかによって納税額が変わってきます。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。

超富裕層への増税攻勢が目前

欧州で超富裕層への課税を強化する動きが広がっています。

英国では労働党政権になり、2024年秋に超富裕層に対する増税を検討しています。またフランスも2024年10月、ミシェル・バルニエ首相が法人税率の引き上げと年収50万ユーロ(約8,000万円)以上の世帯に所得税を増税する案をTVのインタビューで話しています。

さらに日本も2023年度税制改正において、富裕層の金融所得に追加課税する「ミニマム税」の創設を行い、2025年4月以降に実施予定です。

これは、日本および英仏両国の国内事情ばかりでなく、国際的に富裕層に増税をする機運が高まっています。その背景には、コロナ対策で各国の財政が悪化したこと、富裕層の金融所得に対する税負担率が低いこと等が原因といわれています。

このような増税攻勢に対して、富裕層は税負担を軽減する行動に出ることが予想されます。上記の英国の場合、富裕層の出国があるのではないかと予測されていますが、英国からどこに出国するのかが、問題になりそうです。

英国領があるカリブ海のタックスヘイブンへ行ったらどうなる?

英国は、カリブ海に海外領土あるいは旧海外領土を多く保持しています。たとえば、所得税、法人税のないケイマン諸島(人口約5万人)は海外領土です。同じく所得税、法人税のないバハマ(人口約40万人)は英国から独立したタックスヘイブンです。

バハマの風景 (※写真はイメージです/PIXTA)

これらの国または地域に英国から出国した場合、いくつか問題が生じます。

個人が英国在住中に過ごした生活環境が、当然のことタックスヘイブンでは得ることができません。たとえば、買い物や友人との交流、社会活動などは、タックスヘイブンではできません。タックスヘイブンへの出国は、税金負担が軽くなるプラス面と、生活環境などのマイナス面を比較して判断することになります。

「永遠の旅」「分譲マンション付き豪華船」を選択した場合の納税額は?

数ヵ所の住居を所有して、これらの住居を数ヵ月ごとに移動して生活する人のことを「永遠の旅人(Perpetual Traveler)」といいます。欧州ではこの永遠の旅人が増えています。

国が隣接しているような欧州では、このような生活スタイルが可能になります。永遠の旅人が増えてきている理由として挙げられるのが、税法上の居住者判定の仕組みです。

居住者になると、全世界すべての所得がその住所地の国で課税されることになります。逆に、その国に住所あるいは居所のない非居住者になると、その国で生じた所得(国内源泉所得)のみが課税されます。要するに、居住者としての税額よりも、非居住者としての税額が少なくなるのです。

国税庁の見解では、「住所」とは「各人の生活の本拠」をいい、国内に「生活の本拠」があるかどうかについては、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断するとしています。

永遠の旅人の場合であっても、その人の生活の本拠がどこにあるのかで判断されます。

国税庁は具体例を公表していませんが、たとえば欧州に3ヵ国住居を所有していて、夏は北の国、冬は地中海側の国と使い分けていたとします。いずれの国でも短期の滞在ですので、非居住者となります。

しかし、3ヵ国のいずれかの国にある法人の株式を大量に保有し、個人の所得の大部分がこの株式に基因しているとすれば、「居住者」と判定される可能性はあります。

分譲マンション付き豪華船はどこの国で税金を納める?

観光船でありながら、船室の使用権を分譲するマンション付き豪華船が増えています。春に桜が見ごろになると、富士山の見える日本の港に寄港します。また、国際的なイベントがあると、その国の港に寄港するというものです。

船の場合は船籍がありますので、このような観光船はバハマあるいはアフリカのリベリアなどに登録しています。この船の権利を保有して、ここで生活する場合の住所地は、船籍の国になると主張する人が出てきても不思議ではありません。

米国市民の場合は、世界のどこで居住しようと米国の納税義務を免れることはできません。仮に日本人でこの船に乗っていた場合、日本の住居を処分しないのであれば、日本居住者となります。仮に、住居を処分したとしても、その所得の発生地で課税される可能性はあります。この話を某所でしたときに、「揺れない地面で暮らしたい」という反応がありました。

矢内一好

国際課税研究所首席研究員