米フェンダーCEO、世界唯一無二の原宿旗艦店の成功から見る「アジア市場」への期待
米フェンダーCEOアンディ・ムーニー氏が、世界初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」のオープンから1年の振り返り、そして今後の展望をRolling Stone Japanに語ってくれた。
フェンダー社が世界初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」を東京・原宿にオープンしてから1年3カ月が経過した。オープン以来製品の販売のみならず、様々なストアイベントを行い、国内外のアーティストも数多く訪れており、これまで同エリアにはなかった音楽的に大きな存在感を発揮している。それでいてすっかり街並みに溶け込んでおり、これまで楽器店にあまり訪れることのなかった初心者や女性ユーザーへの訴求にも繋がっているようだ。
近年のフェンダー社の姿勢は、そんな新しいファン層獲得へ積極的な一方、有名アーティストのシグネイチャーモデルを続々と誕生させるなど、プロミュージシャンに向けてより真摯で職人的な向き合い方をしているように思える。今回、フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー氏をが来日しているということで訪ね「FENDER FLAGSHIP TOKYO」オープンから今に至る手応えから、今後の展望に至るまで話を訊いた。
―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」はオープンから1周年を迎えましたが、どんな手応えを感じていらっしゃいますか。
素晴らしい感触を得ています。当時から楽観的な見通しは持っていたんですけれども、現実はそれをはるかに超えるものでしたし、私たちの店舗を訪れる方たちから多くのことを学びました。この「FENDER FLAGSHIP TOKYO」がオープンしたときに、日本国内の特に東京都内の私どものディーラーの方たちが、「自分たちの売り上げが減るのではないか?」という大きな懸念を持っていましたが、実際蓋を開けてみるとこういったディーラーのフェンダー製品の売り上げは、これまでで最高となったんです。私もナイキでニューヨークやロンドンのフラッグシップ・ストアを手がけた経験がありますので、それと同じようなことが日本でも起こるだろうと最初から自信を持っていましたが、ディーラーの方々の懸念の理由もよくわかりました。そういったディーラーともお互い支え合って、私たちがやっているプロモーションやマーケティングの情報なども提供することで、逆にフラッグシップ・ストアの勢いをディーラーのみなさんにも活用していただきました。
―そういった意味でも、本当に想像以上の得られるものがあったということですね。
そうですね。一つ予想外だったことは、「F IS FOR FENDER」というアパレルの商品が予想を超える非常に素晴らしい業績だったことです。私どもの店舗に訪れてくださる消費者の方をざっくり一般化しますと、二つのグループに分けられると思います。一つは単にギターを弾く弾かないに関わらず、お店にやってきて、高品質のファッションを楽しむTシャツやキャップ、トートバッグを買うお客さまです。そういったライフスタイルの商品というのはディーラーでは扱っていませんので、そういう利点があります。二つ目の消費者タイプは、本当にギターを弾く方たちです。「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は世界にどこもないほど、ギターの見せ方というのが独特でこの店舗でしか買えないユニークなモデルもありますので、店を訪れて商品を見て試してから、実際には買うのは地元のディーラーで、というお客さまのタイプもいますね。
―実際、私も原宿に行くたびに必ず「FENDER FLAGSHIP TOKYO」に寄ってギターを見ています。
それはありがとうございます。ぜひお買い物もしてもらえると嬉しいです(笑)。
―もちろんです(笑)。国内外からもいろんなアーティストが訪れているそうですが、アーティストからの反響というのは耳にしてますか。
とても素晴らしいフィードバックをアーティストの方たちから得ています。世界的なプラスのアーティストたち、例えばブルーノ・マーズがインスタグラムにアップしてくれたり、フィードバックは素晴らしいものがあります。先週の土曜日には、ナイル・ロジャーズが来てくれたんです。インストアイベントを開催しましたが、ちょうど誕生日だったので、誕生日会も開いてあげたんですよ。そういうアーティストが集まるようなコミュニティ・スペースになっています。
―今、ブルーノ・マーズの名前が出ましたけれども、ブルーノ・マーズのストラトキャスターをはじめ、最近アーティストのシグネチャーモデルが多数発売されていますね。フェンダーにとって、シグネイチャーモデルはどんな戦略的な意図があって制作されているのでしょうか。
非常に重要なことだと考えていて、それには2つの理由があります。一つはアーティストの具体的な要求に応えるということ。最近、ジャック・ホワイトのテレキャスターが発売されたり、シグネイチャーのアコスタソニックやアンプも発売されましたが、私たちが製品を開発していく上で、アーティストから新しいアイディアをどんどん学んでいるんです。ブルーノ・マーズのシグネーチャーモデルは、少し古びた感じの仕上げにしてほしいというリクエストだということだったんですが、やりすぎるのも良くないと思ったので、彼のリクエストに基づきながら、時間をかけてちょうどいい塩梅のものに作り上げていきました。
こういったことも将来的に製品に生かしていきたいと思っています。そうしたアーティストから学ぶいろいろなアイディアというのは、外見上のフィニッシュとかですね。そういうものの進化もありますし、機能的な進化という二つの面での進化をもたらしてくれると思います。アンプ然り、ジャック・ホワイトのギターモデル然りなんですけども、これほどのレベルのアーティストがフェンダーの製品を持ってプレイしてくれると、ブランドにとってそのこと自体が素晴らしい意味を持っています。
Fender Jack White TripleCaster(TM) Telecaster(R)(517,000円/税込) 2024年11月発売予定
―アコスタソニックのシリーズは2019年に発売されて以来、画期的なギターとして浸透していますよね。そのアコスタソニックとアーティストの初めてのコラボレーションとして、ビリー・アイリッシュの兄でプロデューサーとしても知られるフィニアスのシグネチャーモデルが発表されました。何故、一番最初のシグネチャーモデルがフィニアスだったのでしょうか?
アコスタソニックはとても進化した楽器です。アーティストというのは何かあまり変化を受け入れることに積極的ではない人たちでありますけれども、アコスタソニックというのは、特にレコーディングに関心を持っているアーティストからは、非常に好評を得ています。フィニアスは特にレコーディング・マスターですから、アコスタソニックに引き付けられたというのは自然な流れだったと思います。オンボードエフェクトであったりとか、いろいろなリクエストがありましたが、彼らがリクエストを出してきて私たちが作った楽器がステージで演奏されるというプロセスをフェンダーはこの70年間やってきましたので、アーティストからのフィードバックは非常に貴重です。US製のアメリカン・アコスタソニックは非常に画期的なんですけれども、高価ということでトップレベルのアーティストがレコーディングに使うことが多いですが、フィニアスは彼のファンにもそういうギターをプレイできるようにしてほしいということで、アメリカンモデルだけじゃなくてぜひメキシカンモデルもどんどん作ってくれと言ってきているんです。来年はもっと価格を下げたアコスタソニックを出して、トップアーティストだけでなく多くのプレイヤーたちの手に渡るように、広くマーケットのニーズに応えていきたいと考えています。
左)FINNEAS Acoustasonic(R) Player Telecaster(R)(市場想定売価:200,200円/税込) 2024年9月25日(水)販売開始予定
右)Limited Edition FINNEAS Acoustasonic(R) Telecaster(R)(市場想定売価:341,000円/税込)2024年10月販売開始予定
―日本では、2024年限定の日本製新モデル【Made in Japan Limited Kusumi Color Telecaster® Thinline】が9月20(金)より販売開始されました。とてもかわいらしいモデルですが、こういった商品の発売は近年フェンダーが取り組んできた新たなファン層獲得への取り組みの一環と考えていいですか?
これは私がナイキの経験から学んだことでもあるんですけれども、どの分野でもマーケットのリーダーでい続けるためには、消費者にユニークなものを提供し続けなければならない、他とは違う差別化をしていくということが必要だと考えています。NIKE iD(PCやスマホから自分だけのオリジナルシューズなどをカスタマイズ&オーダーできるシステム)があったように、フェンダーも「Mod Shop」で自分好みのオリジナルのギターを注文できて非常に好調ですし、、限定モデルや、少量生産をこれからも増やしていきたいと思っています。みなさん常に「もう1本欲しい」って思うでしょうし、「Mod Shop」ならオンライン上で自分の好きなボディーを作ることもできます。
Made in Japan Limited Kusumi Color Telecaster(R) Thinline
Kusumi Pink / Kusumi White / Kusumi Blue / Kusumi Green
―このギターに代表されるようにいわゆるベッドルーム・ミュージシャン として、部屋にインテリア的にギターを置いておくっていう需要もその原宿っていう店舗にはとても似合うんじゃないかと思いますけども、そういうイメージはありますか?
スタンウェイのピアノで一番売れているのは、やはり家で自分で弾くっていう需要が多いみたいで、そのような場合にはスタンウェイでも家具になってしまうのかもしれないですし、家に置いておいて楽しむっていうような使われ方をするのかもしれませんけど、まあ、ギターは家具ではありませんで(笑)。それは私たちの意図しているところではなくて、ポップカルチャーとその楽器の接点を作りたいと思っているんです。ただ、何年か前にハローキティのバージョンを出したんですけれども、また似たようなモデルをいずれ発表するかもしれませんよ。
フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー氏
ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。
―今後こういったアーティストとコラボレーションしたいとか、イメージされていることはありますか?
私たちは、アジア太平洋地域という場所をストリーミングであれ、ライブミュージックに行く人たちの数であれ、音楽の世界で最も高成長する音楽の地域だというふうに見ています。こういったアジア太平洋地域のほとんどのマーケットでは、音楽のファンたちは地元の音楽を聴いているんです。今後日本のアーティストあるいは中国、韓国のアーティストによるシグネチャーモデルがどんどん出てくるでしょうね。音楽界でよりローカルな要素というのが重要視されていくと思いますし、単にアメリカから日本や中国に輸出するというのではなくて、現地の音楽シーンの一部になっていくと思います。世界のどこの地域に重点的に投資していくかということを考えたときに、人材の面でも資金面でもアジア太平洋を最も重視しています。
―ちなみに、ブルガリとコラボしたギターと時計がカスタムショップを発表されましたが、どんな印象を持っていますか。
いくつかのラグジュアリーブランドとのコラボをしていまして、ルイ・ヴィトンやスタンウェイともやってますし、カメラのライカともコラボしてるんですね。アンディー・サマーズがライカのカメラをすごく使っていて写真もよく撮っているので、ストラトキャスターとライカをコラボさせて写真をボディにプリントしたいということで、リクエストに応えたこともあります。ブルガリとのコラボは、音楽を通して若いコンシューマーにアピールしたいということでということでアプローチをいただきました。どのブランドもアプローチしてくる理由は違うんですけれども、ブランドミックスから生まれる何か新しいものを求めて行っています。
Fender(R) Custom Shop Limited Edition Bvlgari Stratocaster(R) 748,000円(税込)
BVLGARI Aluminium GMT x Fender(R) Limited Edition 660,000円(税込)
―そういったコラボに関しては、こちらもすごく刺激的なプランを楽しみにしています。
ただですね、最近はどこでもコラボしたがっているので、慎重にしないといけないと思っています。やりすぎてもいけないので、良い時期とタイミングでバランスをとることが必要だと思います。
―楽器以外の製品についてもお聞きします。Fender 初となるデジタルサウンドプロセッサー「Tone Master Pro」や「Mustang Micro Plus」など様々な新製品が出ていますが、こうした楽器以外の製品開発において、どのような戦略を持っていますか。
10年前は、ギター、エフェクター、アンプを繋いで演奏するのが普通でしたが、今はギターとコンピューターとオーディオ・インターフェースのモデリングというふうに、常にコンピュータがどこかに存在しているんです。バーチャルなギターであれ実際のギターであれ、もうコンピュータが一つのセットの中に位置づけられているわけです。私たちはその分野でもリーダーになりたいと思ったのですが、少し参入が遅かったんですよね。しかしこの分野に参入することにしたきっかけがあるんです。それは、私がディズニーにいた頃に、スティーブ・ジョブスさんがよく私に「参入が遅れても構わない。それでより良い製品を出せるならば」と言っていたことなんです。そこで、ユーザー・インターフェースをより良いものにしようという努力をしました。つまりマニュアルがなくても直感で操作できるような、シンプルなデザインで常にソフトウェアをアップロードできるようなインターフェースを作ったんです。iPhoneは、ほとんどユーザーがオンラインマニュアルとかを使わなくても操作できてしまうぐらい、ユーザーフレンドリーですよね。同じように、マニュアルを読み込まなくてもボックスから出してすぐに直感で使えるようにすべきだというのがこれらのデジタル製品に対する私の考え方です。
Tone Master(R) Pro (市場想定売価:220,000円/税込)
Mustang(TM) Micro Plus 23,100 円(税込)
―今後、フェンダーは世界中の音楽ファンとどのようにコミュニケーションをとっていこうとお考えでしょうか。
私は2015年にCEOに就任して今年で9年目なんですけれども、その2015年当時の会社の規模は4億ドルで、その中で1600万ドルをマーケティングに費やしていたんです。2015年当時からあらゆるアーティスト、コンシューマーをターゲットにしてきて、今やもう数10億ドル規模の会社になり、マーケティングには1億ドルを費やしていますが、主にSNSを通じての活動に力を入れています。そういった取り組みを通して、楽器とデジタルサービスからなる「フェンダーエコシステム」というファンたちのコミュニティを作ってきて、現在2000万人のファンがいます。そういうデジタルで繋がっているファンたちに対して、製品に関してや、アーティストとのコラボレーションや、フラッグシップ・ストアがオープンしましたというようなお知らせなども幅広くSNSを通じて行っています。そうしたSNSを駆使したやり方がこれからもファンのコミュニティを広げていってくれるでしょうし、ファンの声に耳を傾けるツールになると思います。ただ、ひと言申し上げると、そのようなソーシャルメディアが発達したといっても、やはりブランドと消費者が対面で接することほど素晴らしく優れたものはないと思います。そういった意味で、「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は非常に意味があると思います。
―「FENDER FLAGSHIP」は今後、東京以外にオープンするお考えはないですか?「なんでアメリカにないんだ!?」と思っている海外のアーティストもいると思うのですが。
「なぜ東京なのか」という答えですが、表参道は非常にユニークな立地で、まず歩いている人たちの密度が非常に高いということ。そういったタイプのストリートというのは世界に4つしかないと思います。ロンドンのオックスフォード・ストリートにはナイキの店舗がありますし、上海のナンジンロードや、韓国のソウルにあるストリート、そして東京の表参道・原宿というのは、人口密度が非常に高いので、自分たちの経験を生かしていくという意味では投資のしがいがあると思います。先ほども申し上げたように、アジア太平洋地域が非常に成長の潜在力が高いので、そういった地域の小売りの店舗等、また原宿の「FENDER FLAGSHIP TOKYO」とは異なるコンセプトのストアというのも考えていきたいと思います。
フェンダー社が世界初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」を東京・原宿にオープンしてから1年3カ月が経過した。オープン以来製品の販売のみならず、様々なストアイベントを行い、国内外のアーティストも数多く訪れており、これまで同エリアにはなかった音楽的に大きな存在感を発揮している。それでいてすっかり街並みに溶け込んでおり、これまで楽器店にあまり訪れることのなかった初心者や女性ユーザーへの訴求にも繋がっているようだ。
―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」はオープンから1周年を迎えましたが、どんな手応えを感じていらっしゃいますか。
素晴らしい感触を得ています。当時から楽観的な見通しは持っていたんですけれども、現実はそれをはるかに超えるものでしたし、私たちの店舗を訪れる方たちから多くのことを学びました。この「FENDER FLAGSHIP TOKYO」がオープンしたときに、日本国内の特に東京都内の私どものディーラーの方たちが、「自分たちの売り上げが減るのではないか?」という大きな懸念を持っていましたが、実際蓋を開けてみるとこういったディーラーのフェンダー製品の売り上げは、これまでで最高となったんです。私もナイキでニューヨークやロンドンのフラッグシップ・ストアを手がけた経験がありますので、それと同じようなことが日本でも起こるだろうと最初から自信を持っていましたが、ディーラーの方々の懸念の理由もよくわかりました。そういったディーラーともお互い支え合って、私たちがやっているプロモーションやマーケティングの情報なども提供することで、逆にフラッグシップ・ストアの勢いをディーラーのみなさんにも活用していただきました。
―そういった意味でも、本当に想像以上の得られるものがあったということですね。
そうですね。一つ予想外だったことは、「F IS FOR FENDER」というアパレルの商品が予想を超える非常に素晴らしい業績だったことです。私どもの店舗に訪れてくださる消費者の方をざっくり一般化しますと、二つのグループに分けられると思います。一つは単にギターを弾く弾かないに関わらず、お店にやってきて、高品質のファッションを楽しむTシャツやキャップ、トートバッグを買うお客さまです。そういったライフスタイルの商品というのはディーラーでは扱っていませんので、そういう利点があります。二つ目の消費者タイプは、本当にギターを弾く方たちです。「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は世界にどこもないほど、ギターの見せ方というのが独特でこの店舗でしか買えないユニークなモデルもありますので、店を訪れて商品を見て試してから、実際には買うのは地元のディーラーで、というお客さまのタイプもいますね。
―実際、私も原宿に行くたびに必ず「FENDER FLAGSHIP TOKYO」に寄ってギターを見ています。
それはありがとうございます。ぜひお買い物もしてもらえると嬉しいです(笑)。
―もちろんです(笑)。国内外からもいろんなアーティストが訪れているそうですが、アーティストからの反響というのは耳にしてますか。
とても素晴らしいフィードバックをアーティストの方たちから得ています。世界的なプラスのアーティストたち、例えばブルーノ・マーズがインスタグラムにアップしてくれたり、フィードバックは素晴らしいものがあります。先週の土曜日には、ナイル・ロジャーズが来てくれたんです。インストアイベントを開催しましたが、ちょうど誕生日だったので、誕生日会も開いてあげたんですよ。そういうアーティストが集まるようなコミュニティ・スペースになっています。
―今、ブルーノ・マーズの名前が出ましたけれども、ブルーノ・マーズのストラトキャスターをはじめ、最近アーティストのシグネチャーモデルが多数発売されていますね。フェンダーにとって、シグネイチャーモデルはどんな戦略的な意図があって制作されているのでしょうか。
非常に重要なことだと考えていて、それには2つの理由があります。一つはアーティストの具体的な要求に応えるということ。最近、ジャック・ホワイトのテレキャスターが発売されたり、シグネイチャーのアコスタソニックやアンプも発売されましたが、私たちが製品を開発していく上で、アーティストから新しいアイディアをどんどん学んでいるんです。ブルーノ・マーズのシグネーチャーモデルは、少し古びた感じの仕上げにしてほしいというリクエストだということだったんですが、やりすぎるのも良くないと思ったので、彼のリクエストに基づきながら、時間をかけてちょうどいい塩梅のものに作り上げていきました。
こういったことも将来的に製品に生かしていきたいと思っています。そうしたアーティストから学ぶいろいろなアイディアというのは、外見上のフィニッシュとかですね。そういうものの進化もありますし、機能的な進化という二つの面での進化をもたらしてくれると思います。アンプ然り、ジャック・ホワイトのギターモデル然りなんですけども、これほどのレベルのアーティストがフェンダーの製品を持ってプレイしてくれると、ブランドにとってそのこと自体が素晴らしい意味を持っています。
Fender Jack White TripleCaster(TM) Telecaster(R)(517,000円/税込) 2024年11月発売予定
―アコスタソニックのシリーズは2019年に発売されて以来、画期的なギターとして浸透していますよね。そのアコスタソニックとアーティストの初めてのコラボレーションとして、ビリー・アイリッシュの兄でプロデューサーとしても知られるフィニアスのシグネチャーモデルが発表されました。何故、一番最初のシグネチャーモデルがフィニアスだったのでしょうか?
アコスタソニックはとても進化した楽器です。アーティストというのは何かあまり変化を受け入れることに積極的ではない人たちでありますけれども、アコスタソニックというのは、特にレコーディングに関心を持っているアーティストからは、非常に好評を得ています。フィニアスは特にレコーディング・マスターですから、アコスタソニックに引き付けられたというのは自然な流れだったと思います。オンボードエフェクトであったりとか、いろいろなリクエストがありましたが、彼らがリクエストを出してきて私たちが作った楽器がステージで演奏されるというプロセスをフェンダーはこの70年間やってきましたので、アーティストからのフィードバックは非常に貴重です。US製のアメリカン・アコスタソニックは非常に画期的なんですけれども、高価ということでトップレベルのアーティストがレコーディングに使うことが多いですが、フィニアスは彼のファンにもそういうギターをプレイできるようにしてほしいということで、アメリカンモデルだけじゃなくてぜひメキシカンモデルもどんどん作ってくれと言ってきているんです。来年はもっと価格を下げたアコスタソニックを出して、トップアーティストだけでなく多くのプレイヤーたちの手に渡るように、広くマーケットのニーズに応えていきたいと考えています。
左)FINNEAS Acoustasonic(R) Player Telecaster(R)(市場想定売価:200,200円/税込) 2024年9月25日(水)販売開始予定
右)Limited Edition FINNEAS Acoustasonic(R) Telecaster(R)(市場想定売価:341,000円/税込)2024年10月販売開始予定
―日本では、2024年限定の日本製新モデル【Made in Japan Limited Kusumi Color Telecaster® Thinline】が9月20(金)より販売開始されました。とてもかわいらしいモデルですが、こういった商品の発売は近年フェンダーが取り組んできた新たなファン層獲得への取り組みの一環と考えていいですか?
これは私がナイキの経験から学んだことでもあるんですけれども、どの分野でもマーケットのリーダーでい続けるためには、消費者にユニークなものを提供し続けなければならない、他とは違う差別化をしていくということが必要だと考えています。NIKE iD(PCやスマホから自分だけのオリジナルシューズなどをカスタマイズ&オーダーできるシステム)があったように、フェンダーも「Mod Shop」で自分好みのオリジナルのギターを注文できて非常に好調ですし、、限定モデルや、少量生産をこれからも増やしていきたいと思っています。みなさん常に「もう1本欲しい」って思うでしょうし、「Mod Shop」ならオンライン上で自分の好きなボディーを作ることもできます。
Made in Japan Limited Kusumi Color Telecaster(R) Thinline
Kusumi Pink / Kusumi White / Kusumi Blue / Kusumi Green
―このギターに代表されるようにいわゆるベッドルーム・ミュージシャン として、部屋にインテリア的にギターを置いておくっていう需要もその原宿っていう店舗にはとても似合うんじゃないかと思いますけども、そういうイメージはありますか?
スタンウェイのピアノで一番売れているのは、やはり家で自分で弾くっていう需要が多いみたいで、そのような場合にはスタンウェイでも家具になってしまうのかもしれないですし、家に置いておいて楽しむっていうような使われ方をするのかもしれませんけど、まあ、ギターは家具ではありませんで(笑)。それは私たちの意図しているところではなくて、ポップカルチャーとその楽器の接点を作りたいと思っているんです。ただ、何年か前にハローキティのバージョンを出したんですけれども、また似たようなモデルをいずれ発表するかもしれませんよ。
フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー氏
ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。
―今後こういったアーティストとコラボレーションしたいとか、イメージされていることはありますか?
私たちは、アジア太平洋地域という場所をストリーミングであれ、ライブミュージックに行く人たちの数であれ、音楽の世界で最も高成長する音楽の地域だというふうに見ています。こういったアジア太平洋地域のほとんどのマーケットでは、音楽のファンたちは地元の音楽を聴いているんです。今後日本のアーティストあるいは中国、韓国のアーティストによるシグネチャーモデルがどんどん出てくるでしょうね。音楽界でよりローカルな要素というのが重要視されていくと思いますし、単にアメリカから日本や中国に輸出するというのではなくて、現地の音楽シーンの一部になっていくと思います。世界のどこの地域に重点的に投資していくかということを考えたときに、人材の面でも資金面でもアジア太平洋を最も重視しています。
―ちなみに、ブルガリとコラボしたギターと時計がカスタムショップを発表されましたが、どんな印象を持っていますか。
いくつかのラグジュアリーブランドとのコラボをしていまして、ルイ・ヴィトンやスタンウェイともやってますし、カメラのライカともコラボしてるんですね。アンディー・サマーズがライカのカメラをすごく使っていて写真もよく撮っているので、ストラトキャスターとライカをコラボさせて写真をボディにプリントしたいということで、リクエストに応えたこともあります。ブルガリとのコラボは、音楽を通して若いコンシューマーにアピールしたいということでということでアプローチをいただきました。どのブランドもアプローチしてくる理由は違うんですけれども、ブランドミックスから生まれる何か新しいものを求めて行っています。
Fender(R) Custom Shop Limited Edition Bvlgari Stratocaster(R) 748,000円(税込)
BVLGARI Aluminium GMT x Fender(R) Limited Edition 660,000円(税込)
―そういったコラボに関しては、こちらもすごく刺激的なプランを楽しみにしています。
ただですね、最近はどこでもコラボしたがっているので、慎重にしないといけないと思っています。やりすぎてもいけないので、良い時期とタイミングでバランスをとることが必要だと思います。
―楽器以外の製品についてもお聞きします。Fender 初となるデジタルサウンドプロセッサー「Tone Master Pro」や「Mustang Micro Plus」など様々な新製品が出ていますが、こうした楽器以外の製品開発において、どのような戦略を持っていますか。
10年前は、ギター、エフェクター、アンプを繋いで演奏するのが普通でしたが、今はギターとコンピューターとオーディオ・インターフェースのモデリングというふうに、常にコンピュータがどこかに存在しているんです。バーチャルなギターであれ実際のギターであれ、もうコンピュータが一つのセットの中に位置づけられているわけです。私たちはその分野でもリーダーになりたいと思ったのですが、少し参入が遅かったんですよね。しかしこの分野に参入することにしたきっかけがあるんです。それは、私がディズニーにいた頃に、スティーブ・ジョブスさんがよく私に「参入が遅れても構わない。それでより良い製品を出せるならば」と言っていたことなんです。そこで、ユーザー・インターフェースをより良いものにしようという努力をしました。つまりマニュアルがなくても直感で操作できるような、シンプルなデザインで常にソフトウェアをアップロードできるようなインターフェースを作ったんです。iPhoneは、ほとんどユーザーがオンラインマニュアルとかを使わなくても操作できてしまうぐらい、ユーザーフレンドリーですよね。同じように、マニュアルを読み込まなくてもボックスから出してすぐに直感で使えるようにすべきだというのがこれらのデジタル製品に対する私の考え方です。
Tone Master(R) Pro (市場想定売価:220,000円/税込)
Mustang(TM) Micro Plus 23,100 円(税込)
―今後、フェンダーは世界中の音楽ファンとどのようにコミュニケーションをとっていこうとお考えでしょうか。
私は2015年にCEOに就任して今年で9年目なんですけれども、その2015年当時の会社の規模は4億ドルで、その中で1600万ドルをマーケティングに費やしていたんです。2015年当時からあらゆるアーティスト、コンシューマーをターゲットにしてきて、今やもう数10億ドル規模の会社になり、マーケティングには1億ドルを費やしていますが、主にSNSを通じての活動に力を入れています。そういった取り組みを通して、楽器とデジタルサービスからなる「フェンダーエコシステム」というファンたちのコミュニティを作ってきて、現在2000万人のファンがいます。そういうデジタルで繋がっているファンたちに対して、製品に関してや、アーティストとのコラボレーションや、フラッグシップ・ストアがオープンしましたというようなお知らせなども幅広くSNSを通じて行っています。そうしたSNSを駆使したやり方がこれからもファンのコミュニティを広げていってくれるでしょうし、ファンの声に耳を傾けるツールになると思います。ただ、ひと言申し上げると、そのようなソーシャルメディアが発達したといっても、やはりブランドと消費者が対面で接することほど素晴らしく優れたものはないと思います。そういった意味で、「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は非常に意味があると思います。
―「FENDER FLAGSHIP」は今後、東京以外にオープンするお考えはないですか?「なんでアメリカにないんだ!?」と思っている海外のアーティストもいると思うのですが。
「なぜ東京なのか」という答えですが、表参道は非常にユニークな立地で、まず歩いている人たちの密度が非常に高いということ。そういったタイプのストリートというのは世界に4つしかないと思います。ロンドンのオックスフォード・ストリートにはナイキの店舗がありますし、上海のナンジンロードや、韓国のソウルにあるストリート、そして東京の表参道・原宿というのは、人口密度が非常に高いので、自分たちの経験を生かしていくという意味では投資のしがいがあると思います。先ほども申し上げたように、アジア太平洋地域が非常に成長の潜在力が高いので、そういった地域の小売りの店舗等、また原宿の「FENDER FLAGSHIP TOKYO」とは異なるコンセプトのストアというのも考えていきたいと思います。