自民党が選挙で大負けしたのに石破茂首相が「辞められない」ホントの理由とは

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「国政の停滞は許されない」

石破首相は28日午後に記者会見し、「首相を辞めない」ことを明らかにした。理由は「国政は一時たりとも停滞が許されない」からだそうだ。

しかし持っていた256議席の四分の一に当たる65議席を失い、自民党単独過半数も、与党過半数も失った首相は首班指名も受けられない、予算も通せない。それなのに堂々と続投するというのは実に不思議な話だ。自民党関係者によると、実は昨日から「辞めない」と言っていたという。なんなのか。

だが「国政の停滞が…」というとってつけたような理由以外に実は「辞めない」いや「辞められない」理由がちゃんとある。

石破氏が辞めたら自民党は11月7日に行われる予定の首班指名選挙の前までに新総裁を決めなければならない。フルスペックの総裁選をやる時間はないので両院議員総会で議員のみの投票で行われる。

本来なら前回の総裁選で石破氏に惜敗した高市早苗・前経済再生相が本命のはずなのだが、現政権執行部の菅義偉副総裁や森山裕幹事長、さらに石破首相誕生の影のキングメーカーである岸田文雄前首相らはあまり気が進まないだろう。

ただ高市氏を前回応援した人たちの多くが選挙で落選している。もし執行部がいま名前の上がっている林芳正官房長官や加藤勝信財務相を立てて高市氏に勝つようなことがあったら、党内の分断はさらに進むし、「分裂」に発展しかねない。

分裂だけは絶対「ダメ!」

だから石破氏は今降ろさないほうがいいと、主流派もそして非主流派もわかっている。絶対に「分裂」だけはしてはいけないのだ。

私は昨日出したコラムで「与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も」と書いたのだが、石破茂首相は辞めず、さらに野党は連立政権への参加に否定的で、もちろん政権交代も起きないようである。

実は政権交代が無理なのは昨日(27日)、議席予測で自民党が議席を減らしながらも第1党は維持できそうだった時点でわかっていた。立憲民主党は議席を大幅に増やしたが、日本維新の会と国民民主党に加えて共産党とれいわ新選組まで入れないと過半数には行かないからだ。(実際には4党合わせても過半数には足りなかった)。

野田佳彦・立憲代表は自民の一部が割れて野党連合に参加することを期待する口ぶりだったがそれは無理だ。党分裂は自民も立憲も以前経験して酷い目にあっている。「分裂だけは損するからしちゃダメ」というのは与野党の共通認識なのだ。

だから自民は主流派も非州流派も絶対に「分裂」だけは避けなければいけないことをわかっている。高市氏や安倍派周辺から「石破おろし」の声が上がらないのはそういうわけなのだ。つまり石破氏は今はとりあえず辞められない。

さて野田氏は自民党との大連立にも関心がないようだった。そして維新も立憲も今のところ連立入りには消極的だ。国会会期末に内閣不信任案を共同提出した以上当然と言えば当然なのだが、主要野党が最初から連立入りを拒否するというのはいかがなものか。

欧州では選挙で比例代表制を使っている国が多く、少数政党が乱立するためしょっちゅう連立の組み替えが行われる。ドイツでは2018年に当時のメルケル首相の与党が過半数を割った後、なんと5ヶ月も連立協議をした上で大連立政権が発足したこともある。

多様な民意が反映されるのが民主主義?

これは大変面倒くさいプロセスだが、そうやって多数与党を形成し政権を運営することが多くの民意を政治に反映させ、かつ政治を安定させることになる。

そういうことをせずに「是々非々で協力します」というのは国政政党としては無責任ではないかと私は思う。ただ政党だけでなく、メディアも、そして有権者も日本ではそういうことにまだ慣れていないのかもしれない。

というわけで政権交代も連立再編もなし、石破氏も辞めず、自公は少数与党として首班指名選挙に臨む。1回目の投票で誰も過半数を取れず、石破、野田氏の決選投票となるが、決戦でも維新は「馬場」、国民は「玉木」と書いて無効票となり、母数が減って石破氏が過半数を取るという流れらしい。

年明けの通常国会の予算審議では野党が賛成する条件として自分たちの要求を飲むよう与党に迫る。そして与野党の話し合いがまとまらなければ、最後は石破退陣が予算賛成の条件となり、石破氏は予算成立を花道として退陣するということになるかもしれない。

日本はしばらくの間は首相が1年毎に交代するという「政治的混乱期」に入ってしまった可能性がある。それって「多様な民意が反映される民主的な国家」になったということなのだろうか。