米政治イベントを控えNY金2,700ドル台中盤で滞留
先週(10月21日週)の動き:地政学リスクへのヘッジ買いによりNY金逆行高で最高値更新、円安映し国内金価格も最高値更新
先週(10月21日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足ベースで3週続伸した。10月25日の終値は2,754.60ドルで前週末比24.60ドル、0.90%高で終了した。前週10月17日から23日まで5営業日連続で取引時間中の史上最高値を更新し、終値ベースでも22日まで4営業日連続で最高値を更新した。終値では2,759.80ドル、取引時間中では2,772.60ドルがここまでの最高値となる。
向かい風の中、最高値を更新し続けるNY金
先週(10月21日週)のNY金の上昇は、米長期金利と主要通貨に対する米ドル高の中でのことだった。一般的に米長期金利の指標となる10年債利回りとNY金は逆の値動きとなる。また、主要通貨に対する米ドルの相対的な価値を表すドル指数(DXY)とも逆の値動きをすることで知られる。
いわゆる逆相関(inverse)だが、前週から続く10年債利回りの上昇は、23日に一時4.262%と7月26日以来約3ヶ月ぶりの水準まで上昇。DXYも主要通貨との金利差拡大を映し上昇し、やはり23日に104.570と7月30日以来の高水準を付けた。そして米長期金利もDXYも切り上げた水準をほぼ維持して週末の取引を終了した。
このところ発表される米経済指標の多くが堅調さを示しており、米経済のソフトランディング(雇用の目立った悪化なきインフレの沈静化)期待が高まり、ともに上昇している。同時にFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げサイクルが、想定より緩やかなものになるとの見方が固まりつつある。いわばNY金は向かい風の中で最高値の更新を続けているわけだ。
米大統領選の波乱に備えたゴールド取得の動き
買い手掛かりとなっているのは、地政学リスクに対する警戒だ。まず来週に迫る米大統領選挙を巡る不確実性がある。報じられているように民主党候補ハリス副大統領と共和党候補トランプ前大統領の支持率は拮抗しており、結果が出ても双方ともにすぐに負けを認めないとの見方は以前から指摘されている。
地政学リスクのコンサルティング会社米ユーラシアグループ(イアン・ブレマー代表)は、年初から「2024年の世界の最大リスクは米政治分断」と指摘していた。仮に米国の政治が混乱した場合、政治の空白化が財政や外交を通して国際政治経済への影響は避けられないとする。金融市場への影響も大きなものになるとみられる。
いよいよその指摘が現実化するのか否か、判明する時間帯が近づく中で、波乱に強い資産として金(ゴールド)を取得する動きが続き、NY金の連続的な高値更新となった。
市場は中東情勢への警戒感を高めている
さらに軍事的地政学リスクも引き続き投資家の関心を金市場に向けさせている。イスラエルが10月1日に発生したイランによるイスラエル本土へのミサイル攻撃に対する報復を検討しているとされることが、金市場では継続的に逃避需要を高めさせていた。先週10月25日には、ブルームバーグが事情通の話として「米国はサウジアラビアに対し、中東情勢がエスカレートした場合に同国を守る用意があることを示唆した」と報じた。
そして、26日にイスラエルはイラン国内の軍事施設を攻撃したことを発表した。イスラエルは事前に米国サイドに通告していたとの報道があることから、一定の自制の利いた攻撃との指摘もあるが、今後のイランの動きに市場は警戒感を高めている。偶発的かつ小規模の衝突が大戦につながる可能性があることは、歴史が教えるところでもある。
こうした中で先週のNY金のレンジは、2,722.10~2,772.60ドルとなったが、これは高値更新を含むとして2,720~2,780ドルとした想定レンジそのものと言っていいだろう。
想定レンジの上限を大きく上回ったJPX金
一方で、予想に沿ったレンジとなったNY金に対し、国内大阪取引所の国内金価格(JPX金)は、想定レンジの上限を大きく上回る価格となった。これはドル高の背景となった米長期金利の上昇と好調な景気見通しが、再び日米金利差拡大見通しを強め、ドル円相場が、大きくドル高円安に動いたことによる。前述のようにNY金が最高値を更新する中での円安は、ダブルでJPX金の押し上げ要因となった。
先々週(10月15日週)に149.53円で終わっていたドル円相場が、10月23日に一時153.19円と7月末以来の円安・ドル高水準を付けた。前述したようにNY金が最高値を更新した現地23日は日本時間では24日の深夜であり、JPX金は23日の夜間取引にて一時1万3572円まで付け、これが史上最高値となった。JPX金の25日終値は1万3345円となったが、前週末比259円、1.98%高の3週続伸となった。
終値ベースで見ると23日までの8営業日連続で最高値更新となった。レンジは1万3086円~1万3572円となったが、想定レンジを米ドル/円相場が「147~149円ほどとした上で」1万3050~1万3250円としていた。想定外の円安進行がかい離につながった。なお、10%の消費税込みで表記される店頭小売価格も最高値を更新し、23日の1万4748円が最高値でその後も1万4700円台を維持して週末を迎えた。
今週(10月28日週)の見通し:31日PCEデフレーター、植田日銀総裁発言、11月1日の10月米雇用統計に注目
NY金2,720~2,780ドル、JPX金1万3250~1万3650円を想定 雇用統計に注目
今週(10月28日週)は米国関連で重要指標が並ぶイベント週となる。さらに翌週11月5日の米大統領選と6~7日の日程で開かれるFOMC(米連邦公開市場委員会)が続く。
まず、米国指標では11月1日の10月雇用統計が注目される。2つの大型ハリケーンによる甚大な被害の影響から悪化が想定されるが、一過性との判断がされそうだ。一方、非農業部門雇用者が前月比11万人増と、9月の25万4,000人増から大きく減速と見られている。失業率や平均時給などを含め総合的判断となる。
10月31日には、FRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数(PCEデフレーター)が発表される。9月分は前年比で2.1%と前月の2.2%から若干低下、物価上昇圧力がいくらか和らいだことが示されると予想されている。FRB執行部は、インフレの鈍化が確認されれば、緩やかな利下げを継続する方針と見られることから、想定外の加速が無ければ金市場の売り要因にはならないだろう。
足元で10月27日の衆議院選挙の結果を受け、28日午前の時点で米ドル/円相場はドル高・円安方向に動いている。NY金が2,700ドル台の水準にある現状では、1円の変動が国内金価格には85円程度の値動きをもたらす。30~31日と日銀の政策決定会合が予定されており、政策変更はないと見られるものの、植田総裁の発言にも注目となる。
こうした中で今週(10月28日週)のNY金の想定レンジは、2,720~2,780ドルと、先週示した同じレンジを読んでいる。一方、JPX金については、来週の米大統領選でトランプ候補勝利となった際のドル高に対する思惑が、すでに先週来先行して織り込まれていると見る。したがってややレンジを広げ高値更新を含む1万3250~1万3650円を見込んでいる。
亀井 幸一郎 金融貴金属アナリスト/(有)マーケット ストラテジィ インスティチュート 代表取締役