溶血性貧血

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監修医師:
大坂 貴史(医師)

京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

溶血性貧血の概要

私たちの血液には赤血球という成分があり、細胞が活動するために必要となる酸素を運んでいますが、この赤血球が相対的に少なくなることを貧血とよびます。赤血球の破壊が盛んになることで赤血球の寿命が短くなることを溶血といい、溶血に伴う貧血を溶血性貧血とよびます (参考文献 1) 。溶血性貧血は多くの疾患の総称であり、特定の疾患を表す言葉ではありません。
症状は一般的な貧血で現れる息切れや疲労感の他にも、溶血性貧血に特徴的な黄疸や、尿の色が濃くなるといったものもあります (参考文献 1, 2)。
検査では血液検査で貧血があることを確認したうえで、溶血性貧血に特徴的なマーカーの数値のチェックや、血液を顕微鏡で直接観察したりすることで溶血性貧血のなかのどのタイプなのか詳細に確かめていきます (参考文献 1, 2)。
治療方法は溶血性貧血のタイプによって異なるので、気になる症状があれば近くの内科を受診してください。

溶血性貧血の原因

溶血性貧血は様々な疾患の総称であり、その中には自分の免疫により赤血球の破壊が進む「自己免疫性溶血性貧血」、遺伝要因により赤血球の形・ヘモグロビン・膜・酵素に異常が出る遺伝性の溶血性貧血などがあり、原因は多岐にわたります (参考文献 1) 。
外部要因で溶血性貧血になることもあり、特定の薬剤や輸血によるものが知られています (参考文献 1) 。
日本では少ないですが、マラリアという蚊に刺されることによって感染する寄生虫は人の赤血球に感染し、溶血性貧血の原因になることが知られています (参考文献 1)。

溶血性貧血の前兆や初期症状について

まず貧血の一般的な症状には、運動時の疲労感が増す、息切れがする、頭痛、イライラといったものがあります (参考文献 2)。
溶血性貧血では、破壊される赤血球が増えることにより、赤血球に入っているヘモグロビンの分解産物であるビリルビンが増えます。このビリルビンは通常であれば肝臓で代謝されて身体の外へ排出されますが、溶血性貧血によりビリルビンの量が増えると高ビリルビン血症による症状が出てきます。具体的には身体の色が黄色くなる「黄疸」、尿の色が濃くなる、胆石ができるといったものです (参考文献 1)。
黄疸では身体の色が黄色くなるほかにも痒みが症状として出ることがあります。
貧血の症状が出たり、特に溶血性貧血を疑うような黄疸や尿の色の変化などがあれば、お近くの内科を受診してください。

溶血性貧血の検査・診断

まずは貧血があることを確認するために血液検査で赤血球の数やヘモグロビンの数値などを確認します (参考文献 2) 。これらの結果から赤血球一つ一つの大きさも大まかに把握することができ、詳細な診断の基礎となります。
溶血性貧血であることを確認する検査項目としては、網状赤血球の割合や、赤血球の破壊が増えることによって上昇する LDH やビリルビンの数値などがあります (参考文献 1)。この網状赤血球は作られたばかりの若い赤血球で、通常であれば赤血球全体の1%程度の割合です。溶血性貧血では赤血球の破壊が多くなることにより、その破壊分を補おうと骨髄は赤血球の生産を増やそうと頑張ります。その結果作られたばかりの網状赤血球の割合が増えるため、溶血性貧血を他の貧血から鑑別するための重要なデータとなるのです (参考文献 2)。

また、採取した血液を顕微鏡で直接観察することで、貧血の原因を探ることがあります。血栓により赤血球が破壊されるタイプの溶血性貧血では破壊された赤血球 (破砕赤血球) が観察できますし、特定の遺伝性溶血性貧血では赤血球が金平糖 (こんぺいとう) のような形になることがあるなど、直接赤血球の形体を観察することで診断に有用な情報が得られます (参考文献 1) 。

自己免疫性溶血性貧血の検査では、赤血球の表面に抗体がついているかチェックする「クームス試験」というものを行います (参考文献 1)。
このように、多種多様にわたる溶血性貧血のなかで患者さんがどのタイプなのか診断するために適切な検査を行っていきます。

溶血性貧血の治療

溶血性貧血のタイプにより治療方針は異なります。一例として自己免疫性溶血性貧血 (AIHA) の治療法を紹介します。
AIHA は免疫システムが自分の赤血球を攻撃してしまうことにより赤血球の破壊が進み、貧血になってしまう病気です (参考文献 3)。
対症療法として貧血が重症であれば赤血球輸血をすることもありますし、AIHA の原因となる基礎疾患や薬剤が明らかになれば、原因疾患の治療や投薬内容の見直しが AIHA の治療にもなります (参考文献 3)。
AIHA は免疫システムの異常による溶血性貧血なので、免疫抑制剤を使用して AIHA の病勢コントロールを狙うこともあります (参考文献 3) 。

溶血性貧血になりやすい人・予防の方法

溶血性貧血のタイプによって異なりますのでいくつかの例を紹介します。
先ほど紹介した AIHA、特に温式 AIHA とよばれるタイプでは特定のウイルスへの感染や SLE などの自己免疫疾患、リンパ増殖性疾患などが発症のリスクとされています (参考文献 3) 。
遺伝性の溶血性貧血には赤血球関連の酵素の異常が背景にある疾患への罹患 (G6PD、ピルビン酸キナーゼなどの異常)、ヘモグロビンの異常によるもの (鎌状赤血球症、サラセミアなど)、赤血球の細胞膜に関連する異常 (遺伝性球状赤血球症など) が知られており (参考文献 1) 、これらの疾患にかかったことがある人が血縁者にいることが発症のリスクといえるでしょう。
色々な原因があるため全てに言及することは避けますが、気になる症状や家族歴があれば、早めに病院を受診することが重症化予防になると言えるのではないでしょうか。


参考文献

1.UpToDate. Diagnosis of hemolytic anemia in adults

2.UpToDate. Patient education: Anemia overview (The Basics)

3.UpToDate. Warm autoimmune hemolytic anemia (AIHA) in adults