盗まれた対馬の寺の仏像、現在は韓国政府の管理施設に…返還メド立たず「所有権確定判決は何だったのか」
長崎県対馬市の観音寺から韓国人窃盗団に盗まれた仏像について、韓国大法院(最高裁)が同寺に所有権があると認めた判決から26日で1年となる。
韓国側では返還の手続きに目立った進展はなく、いまだに返還のめどは立っていない。前住職の田中節孝さん(78)は「12年待ち続けており、とにかく早く返してほしい」と訴えている。
仏像は県指定有形文化財の「観世音菩薩坐像(かんぜおんぼさつざぞう)」。2012年10月、本堂から韓国人窃盗団に盗まれ、韓国に持ち込まれた。窃盗団は13年1月、韓国の警察に逮捕され、仏像は回収されたものの、返還されなかった。
韓国の浮石(プソク)寺が「14世紀に倭寇(わこう)によって略奪された」として所有権を主張し、保管する韓国政府に引き渡しを求めて提訴した。韓国での1審は浮石寺の主張を認めたが、2審で取り消され、大法院は昨年10月26日、所有権は観音寺にあると認めた。
日韓政府筋によると、仏像は現在、韓国政府が管理する施設で保管されている。韓国の検察当局が日本への返還手続きを進めているが、これまでに目立った進展はない。韓国では日韓関係を重視する尹錫悦(ユンソンニョル)政権の外交姿勢について左派系野党などが「屈辱外交だ」などと執拗に批判している。こうした韓国内の状況が、返還の遅れにつながっている可能性もある。
判決後、韓国政府などから観音寺に連絡はないが、今年6月末、浮石寺から、返還前に100日間の法要を行うことを条件に、日本への返還に反対しない方針を記した書簡が届いた。
田中さんは「返還について浮石寺が賛成、反対という権限はない。法要に反対するわけではないが、日韓の両政府など関係者の間で確実に返すという約束事を明確にすることが先ではないか」と指摘。その上で「関係者からの連絡もなく、法治国家として所有権を確定させた判決は何だったのか」とあきれている。
大石知事は23日の定例記者会見で、「今なお返還が実現できていないことは本当に憂慮している。国にもしかるべき働きかけをしたい」と述べた。仏像は県の文化財のため、県教育委員会は返還に備えて輸送などの準備を進めている。
対馬市の比田勝尚喜市長は25日、「ご本尊に手を合わせることなく亡くなった檀家(だんか)もいる。一刻の猶予もない状況に危機感を抱いており、即時返還を強く求める」との談話を出した。
外務省は「政府として早期返還に向けて働きかけをしている。関係者とも連絡を取り合いながら、適切に対応したい」としている。