【横浜】「Art&Craft寺家回廊」開催! 秋空の下、アートとクラフトを楽しむ里山の芸術祭へ
芸術祭の会場 寺家町ってどんなところ?
寺家町は「じけちょう」と読みます。場所は横浜市青葉区の北部、川崎市と町田市に接しています。公共交通機関では田園都市線の市が尾駅か青葉台駅、小田急線の柿生駅が最寄り駅です。なかでも寺家町へのバスの発着本数が多い青葉台駅周辺は、大型のショッピングセンターやコンサートホール、多くの都市銀行の支店、ショップ、レストラン、カフェが並木道に沿って連なり、区内最大級の繁華街になっています。
そんな青葉台駅からバスで10分少々で、一瞬目を疑ってしまうような田園風景が現れます。ここが寺家町です。なかでも「寺家ふるさと村」とよばれる一画は、横浜市の「ふるさと村事業」の第1号として指定されたエリア。田園都市線の延伸とともに急速な都市化が進んだ1970年代、みるみる失われてゆく田畑と地域の農業を守るために横浜市が立ち上げた事業で、地元の方々と話し合いや勉強会を重ねて1987年(昭和62)に正式に開村したそうです。
寺家はのどかな農村だっただけでなく、古くから茶の湯で使う炭の生産として名高いところでした。それにちなんで、茶釜を作る釜師や茶道用の器を焼く陶芸家らが移り住み、“用の美”をたたえたものづくりに励んできました。いわばアルチザン(芸術家肌の職人)が集う里山だったのです。
21世紀に入ると、東京近郊とは思えない環境に魅力を感じた画家や工芸家たちが、廃業した工場や、「こどもの国」から移築した弾薬庫などを借りて、制作の場を構えるようになりました。今では絵画、陶芸、版画、木工、染色、彫刻などの工房やギャラリーが10軒以上も点在。アートとクラフトの村としての横顔も持っています。
「Art&Craft 寺家回廊」ってどんなイベント? 何ができるの?
そんなモノづくりの村で毎年行われるコトが、今年18回目を迎える「Art&Craft 寺家回廊」。この地にゆかりのあるアーティストの作品が屋外に展示される、いわば寺家全体を会場にした里山の芸術祭です。秋の抜けるような空を仰ぎ、落ち葉の匂いをかいで、鳥の声を聴き、風を肌で感じながら畔を歩くと、五感がいきいきと目覚めてきます。そのせいか里山でのインスタレーションは、作品を「目で見て鑑賞する」というより、「出会って体験する」感覚です。(写真は2023年の作品の例)。
そのほか作家のアトリエやギャラリーが開放され、作り手に出会うこともできます。住宅街やマンションに暮らす青葉区のこどもたちは、ふだんの暮らしでは出会うことのない、土をこねたり木を彫ったりして生きる大人に出合い、目を輝かせるそうです。モノを通じてヒトとヒトが出会う楽しいワークショップも開催されます。予約が必要なものもありますから、詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。
■Art&Craft 寺家回廊(あーとあんどくらふと じけかいろう)
開催:2024年10月25日(金)〜27日(日)
ウェブサイト:http://www.jike-kairo.net/
里山アート散歩のあとは、「JIKE STUDIO」で美術鑑賞&ランチ
「Art&Craft 寺家回廊」の実行委員と事務局を初回から行い、地域のつくり手たちのハブ的存在でもあるのが、2010年にこの地にオープンした「JIKE STUDIO」です。「寺家の生きた里山の景色は、町で暮らす人々が日常を離れて別世界に入るためのすばらしいエントランス。町の真ん中のギャラリーで作品を鑑賞するのとは何かが違います」と、代表の坂上浩美(さかうえひろみ)さんは言います。そして自然の営みに添って作物を育てる寺家の独特の時の流れに深く感銘を受け、「〜流れる時間、流されない時間〜」を軸にして、訪れる人や寺家の人と楽しい場を作っていきたいとギャラリーとカフェを続けています。
カフェでは自家製天然酵母パンや雑穀米と、寺家で採れた野菜中心のランチが味わえます。浜なしや浜ぶどうなど、寺家で栽培した横浜のブランド果実も登場します。
カフェの内装や調度は、かつてどこかの店で使われてきたものの再利用やヴィンテージの家具など。ひとつひとつは不揃いなのにすべてがあるべき場所に落ち着いて調和しているのは、長年どこかで愛され品よく年を重ね、またここで大切に使われているせいかもしれません。窓の外には柿畑が広がり、四季折々の姿で目を楽しませてくれます。
■JIKE STUDIO(じけ すたじお)
住所:神奈川県横浜市青葉区寺家町435-1
TEL:045-479-6777
営業時間:11〜18時
カフェは11時30分〜17時LO(ランチは〜14時)
定休日:火曜
アクセス:田園都市線青葉台駅から東急バス鴨志田団地経由寺家町行きで約15分、寺家町下車、徒歩3分
今そこにある危機。豊かな寺家の風景を未来につなげるために
そんな「JIKE STUDIO」に危機が訪れます。
2023年夏、目の前の柿畑が売却され、大型トラックの駐車場と廃材置き場になることがわかったのです。農作業の跡継ぎのない地主さんにとっても、苦渋の決断だったことでしょう。こうしたできごとは「JUKE STUDIO」だけでなく、寺家町全体、ひいては日本各地で起きています。
食べ物を育てる田んぼや畑が、時間に押し流されて失われてゆく。そんな現実に危機感を感じた坂上さんたちは、柿畑の持主と話し合いを重ね、柿畑を買い取る決意を固めました。地主さんも柿畑が残るならそんなうれしいことはないと、お金が集まるまで1年間待ってくれることになりました。
ところが農政事務所に赴くと、農家あるいは一定の条件を満たした農業法人でなければ、農地は買い取れないことが判明したのです。そこで「JIKE STUDIO」は本格的な営農に取り組む覚悟を決め、2024年4月に「JIKE STUDIO FARM」を立ち上げました。
カフェで使う野菜やハーブは育ててきたものの、それと本格的な農業は訳が違います。「でもね、何を植えて、何を育てるかを考えていたら、このギャラリーを始めた時に、どの作家さんに展覧会をしてもらおうとか、どんな作品をどう展示したらお客さんに喜んでもらえるかなとか考えていた時のワクワク感とつながったんです。たいせつにしたいことは同じでした」と坂上さんは明るく言います。
スタジオの前の柿畑の持主は、腰が曲がる年齢になっても丁寧に手入れを続け、「うちの柿が寺家でいちばんおいしい」と誇らし気だったそう。「農地には代々そこを手入れして守ってきた方々の思いがこもっています」。そしてその背後には、水を貯える里山や、そこに生きるたくさんの生き物の緊密なつながりがあることがしみじみわかると言います。寺家ふるさと村発足当時の方々の理念が結晶した『寺家ふるさと村憲章』にあるように、「生きた里山と、その恩恵を深く理解して営農する方々がいてこその寺家。形だけの公園のような里山を残しても、だめなんですよね」
柿畑から始まる農業を、クラウドファンディングで応援しよう
かくして農地購入の資格と許可を得ることができましたが、柿畑を買い取るまでの金額を、従来どおりの「JIKE STUDIO」のギャラリーとカフェ、そして本格的に起動した「JIKE STUDIO FARM」が、たった1年で積み上げることはほぼ不可能です。
そこで同じようなことが起きている全国の方々に“寺家の今”を知ってもらうためにも、クラウドファンディングを始めています。
アートからファームへ。文字通り畑違いの分野に見えますが、culture(カルチャー)の語源は、大地を耕すという意味のラテン語 coloreといわれているそうです。「たいせつにしたいことは同じ」という坂上さんのことばが蘇ります。
文化の秋。寺家のアート散歩で心を耕して、今、たいせつにしたいことに賛同したら、あなたもぜひ以下のサイトをチェックしてみてくださいね!
READYFOR
里山と共に生きるJIKE STUDIO|奇跡の田園風景、柿畑を守れ:https://readyfor.jp/projects/JIKE_STUDIO_FARM
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Text:松尾裕美
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