いまや博物館や美術館が収蔵物の3Dスキャンを行い、誰でも閲覧できるように公開する試みは珍しいものではなくなっていますが、ロダン美術館を始めとしたフランスの博物館・美術館は、公的な補助金を得てスキャン事業を行っているにもかかわらずデータを公開していないと、アーティストのコスモ・ウェンマン氏が問題提起しています。

Secret 3D Scans in the French Supreme Court

https://cosmowenman.substack.com/p/secret-3d-scans-in-the-french-supreme

問題を提起したウェンマン氏は、3Dデザインやスキャン、ユニバーサルアクセスを専門とするアーティストです。

3Dスキャンデータを公開している事例としては、大英博物館によるロゼッタストーンの3Dモデル公開があります。

The Rosetta Stone - Download Free 3D model by The British Museum (@britishmuseum) [1e03509]

https://sketchfab.com/3d-models/the-rosetta-stone-1e03509704a3490e99a173e53b93e282

公開されている3Dモデルはこんな感じ。



下の方の小さな文字まで拡大して読むことが可能。



3Dモデルは360度あらゆる方向から見ることができるので、通常の展示では見ることができないような角度での鑑賞もできます。



スミソニアン博物館も、アポロ11号の司令船をはじめ、多数の収蔵品のデータを公開しています。

Explore | 3D Digitization

https://3d.si.edu/explore

ウェンマン氏は2017年から3年かけて、ドイツで情報公開法を使って、ベルリン・エジプト博物館に圧力をかけ、3000年前のネフェルティティの胸像の3Dスキャンデータを公開させた実績があります。

A German Museum Tried To Hide This Stunning 3D Scan of an Iconic Egyptian Artifact. Today You Can See It for the First Time

https://reason.com/2019/11/13/a-german-museum-tried-to-hide-this-stunning-3d-scan-of-an-iconic-egyptian-artifact-today-you-can-see-it-for-the-first-time/

次に着目したのがフランス。ウェンマン氏によれば、フランスの国立美術館連合(RMN)は2013年に110万ユーロ(約1億8000万円)の補助金と110万ユーロの追加融資を受けて、フランス国内の美術館・博物館の収蔵品をデジタル化し、3Dスキャンデータを公開するプラットフォームを構築したとのこと。

しかし、多数の美術品の3Dスキャンが行われて一部の画像は公開されているものの、RMNは「見てもいいが触らせない」という厳格なポリシーにより、基本的にはスキャンデータを一般公開するつもりがないそうです。理由は「一般人がレプリカを作ることで、ギフトショップの売り上げが落ちるのを避けたい」ということだそうで、ウェンマン氏は「スキャンデータは存在しないも同然」と指摘しています。

このため、ウェンマン氏はドイツの時と同じく法廷闘争を繰り広げ、3年以上を経て2023年4月、パリ行政裁判所から、一部作品のスキャンデータを公開することを命じる命令を得ました。

なお、記事作成時点でまだロダン美術館は裁判所命令に従っていないとのことです。