「日本はこれまでの予選3試合で14得点を挙げていて、スタメン全員がヨーロッパのトップリーグでプレーをしている。そういう相手に対し、チャンスを最小化できたことはとてもよかった。日本は質の高いチームなので凌げなかった部分もあるが、我々のDFは組織的に、しっかりと守りを組み立ててプレーできたと思う」

 試合後の会見で満足気にそう語ったのは、前節の中国戦からオーストラリアを率いるトニー・ポポヴィッチ監督だった。


サッカー日本代表のオーストラリア戦。ボールを支配したがゴール前でチャンスを作れなかった photo by Ushijima Hisato

 最初の2試合で躓き、監督交代もあった現在のオーストラリアにしてみれば、W杯本大会出場権を手にするためには結果がすべて。そんな崖っぷちの状況のなか、グループC大本命の日本とのアウェー戦で勝ち点1を手にしたことは、極めて大きな意味を持つ。

 一方、現時点で勝ち点を10ポイントに積み上げ、2位オーストラリアと5ポイントの差をつけた日本にとって、今予選での連勝が3でストップしたことも、初めて失点を喫したことも、W杯出場権獲得という点においてほとんど影響はないだろう。

 グループCが早くも日本の独走状態になりつつあるなか、やはり着目しておきたいのは、結果よりも試合内容のほうになる。W杯本大会でベスト8以上を目指すうえで、今回のオーストラリア戦ではどのような収穫と課題が見つかったのか。今回も、ピッチ上で起きていた現象をもとに改めて試合を振り返ってみたい。

【ボールを支配し敵陣でプレーし続けた】

 日本にとっての最大の収穫は、自分たちの狙いどおり、ほぼゲームを支配できていた点だろう。前節のアウェーでのサウジアラビア戦では、2−0の勝利という結果を手にした一方で、5バック状態を強いられて自陣で守る時間が長く、内容的にいくつかの課題が残った。しかし今回の試合では、1−1のドローという結果に終わったものの、内容的にはポジティブな要素が多かった。

 そのひとつが、ボールを握り続けられたこと。サウジアラビア戦ではボール支配率43.3%と、日本が相手よりも下回ってしまったが、この試合では62.5%。前半だけを見ると68.5%を記録するなど、終始日本がオーストラリアを圧倒することができた。

 勝敗にかかわらず、ボールをいかに支配し敵陣でプレーし続けられるかは、両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する日本の3バックシステムでは、その機能性をチェックするうえで重要なスタッツ。それだけに、ホームアドバンテージがあったとはいえ、上々の数字と言っていい。

 パス本数にしても、オーストラリアの333本(成功率75.1%)に対し、日本は622本(成功率81.5%)をマーク。敵陣でのパス成功率は、オーストラリアが55.6%で、日本が74.4%だった。ちなみに、第3節サウジアラビア対日本戦の敵陣でのパス成功率は、サウジアラビアが76.4%で、日本が69.8%。いずれも、試合内容を反映した数字と言える。

 しかも、この試合では敵陣でのボールロスト後の即時回収が機能していたこともあり、日本が自陣で守る時間帯は後半立ち上がりに限られた。その結果、日本のシュート数が10本だったのに対し、オーストラリアは前半7分のフリーキックの場面で、ミッチェル・デューク(15番)が頭で合わせた枠外シュート1本のみ。攻撃の糸口さえ見つけられなかった。

【オーストラリアの対策に中央からは攻められず】

 ただし、サウジアラビア戦から一転、日本が中国戦やバーレーン戦で見せたような高い攻撃性を発揮できた最大の要因は、日本側の変化というよりも、相手側の狙いと戦い方の違いにあったと見るべきだろう。

 日本に対して攻撃的な戦術を用いたサウジアラビアに対し、この試合のオーストラリアは守備重視の戦いを選択。布陣は日本と同じ3−4−2−1だが、両WBにアタッカーを配置する日本と違い、オーストラリアは両WBに4バック時にはサイドバック(SB)を務めるDF(3番ルイス・ミラーと5番ジョーダン・ボス)を起用。いわゆる守備的3バック(5バック)を採用してこの試合に臨み、そこに両チームの狙い、戦い方の違いが集約されていた。

 同じ布陣によるミラーゲームではあったが、ここまでお互いの狙いが明確に違っていれば、当然ながらそれがピッチ上の現象に大きく影響する。日本にとっては目論見どおり、敵陣に押し込みやすい状況であり、逆にオーストラリアにとっても、それは想定内。いかにして日本にゴールを与えないように守りきるか、という明確な狙いが見て取れた。

 試合が始まると、ミラーゲームどおり、日本の3バックに対してオーストラリアの3トップがマッチアップ。日本はスムーズなビルドアップを妨げられる格好となったが、すぐにボランチの守田英正がセンターバック(CB)の間に落ちて4バックを形成。この試合でも数的優位を保つことで、オーストラリアのプレスを回避した。

 逆に、前から行けなくなったオーストラリアは、すかさずミドルゾーンで5−4−1の陣形に変化。田中碧へのパスコースを切る1トップのデュークの後方で「5―4」のブロックを作り、とくに日本の縦パスを封じるべく中盤4枚がコンパクトになって中央を締めた。

 特徴的だったのは、オーストラリアの最終ライン5枚ができるだけハイラインを保って、縦のコンパクトさをキープしようとしていたことだった。自陣で引いて守るケースが多い格下相手の試合とは、そこが違っていた。

 これにより、「5−4」の間のスペースを狭められた日本は、1トップの上田綺世はもちろん、南野拓実や久保建英の2シャドー、あるいは久保と入れ替わる堂安律が、ライン間でボールを受けにくい状況が生まれていた。ビルドアップ時にプレスを回避した日本が、思うような中央攻撃を繰り出せなかったポイントだ。

【サイドからクロスもチャンスはわずか】

 そうなると、ボールを保持する日本の攻撃は外回り中心になる。前半、左サイドの三笘薫による仕掛けから3本のクロスを、右では堂安と頻繁にスイッチする久保の仕掛けから3本のクロスを供給。ただ、高さも含めたクロス対応に自信を持つオーストラリアに対し、フィニッシュにつなげるには至らなかった。

 後半、日本は選手を代えることで攻撃を活性化させようとはしたが、基本的に試合の構図は変わらなかった。そのなかで、オーストラリアは数少ないクロス供給から谷口彰悟のオウンゴールを誘発して先制。逆に日本は、左WBとして途中出場した中村敬斗の突破から21番(キャメロン・バージェス)のオウンゴールを誘い、1−1とした。

 結局、日本はこの試合で18本のクロスを供給したものの、チャンスらしいチャンスにつながったのは、久保のクロスを南野が頭で合わせた後半57分のシーンに限られた。

 中央攻撃の肝となる敵陣でのくさびの縦パスも、まだオーストラリアが日本の攻撃に慣れる前の前半立ち上がりの時間帯に見せた4本のみ。確かに、後半から守田が町田浩樹の左脇に落ちるように変化するなど、日本の攻撃にもそれなりの工夫は見られたが、それだけではこの試合のオーストラリアの守備ブロックを崩すための特効薬にはならなかったというのが、実際のところだった。

【10月の2試合で見えた課題とは】

 ここでおさえておきたいのは、今回の10月シリーズ2試合で見えた課題だ。

 3−4−2−1で戦う日本から見てかみ合わせがよくない4−3−3を採用し、攻撃的な狙いで挑んできたサウジアラビアに対しては、パスワークやデュエルで負けたこともあり、主導権を握れずに自陣で5バック化しての守りを強いられた。「つるべ式4バック」の練度を上げる点も、課題として残された。

 そしてボールを支配して敵陣に押し込むことができたオーストラリア戦では、一定のレベルのチームが中央ルートを消してコンパクトに守った場合、ゴールチャンスを作るのに苦労した。相手の守備を評価すべきではあるものの、試合中の布陣変更も含めた攻撃のバリエーションは増やしたい。

 おそらく、アジア3次予選中に同じような現象に陥る可能性のある試合はほとんどないと思われる。そのなかで、W杯でベスト8以上を目指すために、今回の2試合で浮き彫りになった課題をいかにして解決していくのか。この難しい問題が、今後の焦点になりそうだ。