制服に7万2000円のところも…物価高の家庭にのしかかる公立校制服の「改善策」

写真拡大 (全6枚)

10月は衣替えの季節。以前は中高生の制服も一斉に冬服に変わっていた。現在は、暦の上では秋に入っても暑い日が多く、服装の調整が必要だ。また、子供は成長が早いので、冬服を出したら小さくなっていたということも。簡単に買い替えられる値段ではないのが制服だ。春に冬服一式をそろえ、洗い替えやコートも含めたら数十万円になる場合も。全国の公立中学・高校の制服は、学校間で販売価格に最大6万円の差が生じていることが公正取引委員会の調査でわかった。

価格差は、中学女子のセーラー服が最も大きく、最高値の約7万2000円に対し、最安値は約1万2000円。公取委は、取引先のメーカーや販売店の固定化が価格の高止まりを招いている可能性があるとして、入札などを導入すべきだという。こうした現状に加え、物価高で家計が厳しい中、学生服リユースショップ「さくらや」は、集まった制服をきれいにして安価で販売してきた。ジャーナリストのなかのかおりさんがちば八千代店を訪ね、取材した。

1000点買い取りからスタート

道路沿いにある、こじんまりした二階建てのお店が、学生服リユースショップ「さくらや」ちば八千代店だ。奥にはずらりと黒・紺色の制服が並ぶのが見える。手前には、テーブルが置かれたキッズスペースがある。幼稚園から高校までの制服やグッズを扱うため、来店した子どもが塗り絵をしたり遊んで待てる。

店長の池上優子さんにインタビューしている間に、何度か電話が鳴り、お客さんが来てスタッフが対応する。スカートのサイズに悩むお母さんに、池上さんは体験を交えてアドバイスした。

「中学1年生、2年生の間は、まだ背が伸びる。長めが安全だと思います。あとは丈をおろす想定でいくかですね。裾を下ろすと、開いちゃう。ウエストにちょっと余分があるのを縫い直すと、なかなか手間ですよね」

「卒業式のブレザーが長めだったから、業者に依頼するとお直し代が6000円とか。ここで買ったほうが安いです」(お客さん)

【さくらやを始めた馬場加奈子さんは、香川県で生まれ、東京の保険会社で働く。結婚・離婚を経て、3人のシングルマザーになり、困窮した経験から2010年に学生服リユースショップ「さくらや」を高松市で開業。2020年に特定非営利活動法人学生服リユース協会設立。 また、全国のさくらやパートナー店と内閣府の「子供の未来応援国民運動」に協力し、400社以上の企業や学校などに回収ボックスを設置してリユース品の寄付を募り、査定額を同運動に寄付している。地域の障害者や高齢者、子育て中のママに仕事を依頼、生活と仕事のバランスを重視し、週3日営業が原則という。北海道から沖縄まで全国80店舗ある】

池上さんが、八千代に引っ越してきたのが20年ほど前。池上さんは2019年にさくらやを知り、パートナー募集に名乗り出て2020年にオープンした。今は、幼稚園から高校までの制服が全部で8000点ほどある。取り扱いは千葉県を中心に、八千代市の学校のものが3000点、八千代市以外で5000点ぐらいだという。お子さんが3人いて、コロナ禍になぜお店を始めたのだろうか。

「2019年は、自宅でひたすら買い取りをしていました。さくらやは買い取りの制服が1000点以上集まってから、開業します。持ち出しで、運転して買い取りに行ったり、チラシのポスティングとSNSで訴えて、1年かけて1000点集まりました。

リユースのお店をしようと思ったきっかけは、我が家で新品の幼稚園の制服が出てきたこと。幼稚園は、お母さんたちが顔を合わせる機会が多いので、お下がりの輪ができる。いただいたお下がりを優先的に使って、購入した新品が出てきたのが2019年1月。子どもは中学生になっていました。

制服が必要な人を探したけど、いません。ネットで検索しました。売れないかなって。リサイクルショップは、悪用を防ぐために制服は取り扱っていない。さらに調べたら、馬場さんが始めたさくらやが出てきて、すぐ問い合わせました」

地域の人たちを巻き込んで

池上さんは、それまで子育て中心の生活だった。

「馬場さんは話しやすくて、聞いたことに全部答えてくれる。嘘がない人だなって。子どもの学校の近くでお店を開くとか、まず自分の生活が大事とか、考え方に共感しました。自分は、稼げることも大事にしています。ボランティアではなく、暮らしていける仕事がしたかった。

もともと、企画するのが好きでした。子どもが小さい頃は、赤ちゃんとお母さんが通えるカフェを作りたいと思ったんです。その後は、夫や子どもがハマった『宝石探し』を地元でやりたいと、リサーチしました。その流れで、実現したのが制服なんですよ。仕事になって、地域のためになって、楽しい場所になるんじゃないかと。

馬場さんに話を聞いた後、私は実家が愛媛なので夏休みに帰るときに、高松のさくらやに家族5人で行きました。やりますって伝えたら、愛媛まで車で帰る間に旦那さんと相談しなさいって言われて。9月には、他店の方と都内で一緒に研修をスタート。接客からお手入れから経営から、シミュレーションを何回もやりました」

研修を受け、買い取った1000点を洗濯し、地域の社会福祉協議会で手伝ってくれる人を探した。仕事の創出や、地域でつながりを作ることも、さくらやの運営において大事だからだ。

「お店はまだスタートできないけれど、つながりは作れるから、名刺を作って外回りしました。洗濯を手伝ってくれる人は、外では働けない男性でしたが、プロのクリーニングとは違って、洗濯機でも洗える。社協さんを通して、お金をお支払いし本人に渡していました。その人は、朝起きたら洗濯するという、生活のルーティーンができるようになったそうです。

ほかに、制服や体操着についている名前の刺繍を取らなきゃいけないんですが、お子さんに障害があってあまり外には出られないお母さんや、障害者の施設の方にやってもらっています。賃金をお支払いして、地域のみんなを巻き込みながら、助け合う形にしています」

インターネットで物件探し

開店するために場所を探す際、馬場さんに、10坪以上は必要と言われた。10坪は、このあたりでは家賃は月におよそ10万円という。探している最中にコロナ禍に入って、動きが全てストップ。池上さんの自宅の部屋を使い、子ども部屋もリビングも制服でいっぱいになり、コロナ休校中はひたすら物件探しをした。

「緊急事態宣言が明けて、学校が始まるのがわかった頃に、携帯で検索していたら見つけました。コインパーキングは近くにありますし、建物は元は塾だったんですよ。数年前に台風で水没したとき、ここも屋根が浮いたらしくて、雨漏りがすごかったみたい。修理して、緊急事態が明けるまで、物件を載せていなかった。こまめに検索したおかげで、私が見つけました。契約が2020年の6月か7月ぐらいです。

1000点を運び込み、お店を作らなきゃいけない。でもお金はないから、DIYで制服の棚もハンガーラックも、自分で買って組み立てました。ハンガーも150キロぐらいかけられる、頑丈なのを買いました」

SNSとチラシ、回収ボックス

リユースショップの運営は、コロナ禍だったこともあって、最初は赤字だったという。

「家賃が一番、負担になりますね。そのときは、1人で全部やっていました。店番から洗濯から、チラシを作ったり。洗濯場は、トイレから水道を引いて。正直、自分の分のお給料もなくて、家賃は生活費から出しました。

並行して千葉県内のクリーニング屋さんに依頼し、回収ボックスを置きました。コロナ禍は、みんなスーツを着なくなった。クリーニング屋さんも何かしなきゃっていう感じでやり始めて、一気に制服が集まるように。今は、回収ボックスをクリーニング店30ヶ所ぐらいに置いています」

制服を送ってくる人もいる。最初は着払いにしていたが、すごい量が来てしまう。開けてみてデザインが変わったものとか、カビがあるとか販売できないものもある。今は元払いで寄付してもらう。回収ボックスも寄付で、さくらやに直接持ってくる場合は、買い取る。買取金額はささやかで、例えば中学校の制服だと、上着が300円程度。基本的にはいろんなネットワークから寄付されたものを、手作業できれいにして、安く販売する。だいたい、新品価格の3割ぐらいだ。

「さくらやを知ってもらうために、学校でチラシを配布してほしいなと思っていました。営利もあるので、難しいだろうなと思ったんですけど……。制服屋さんの採寸案内は子どもがもらってくるのに、なんでさくらやさんは入っていないの?って保護者に言われたんです。

中古もあるという情報を、皆さんに渡したい。人数分のチラシを、学校に送ったんですよ。すると学校に、『他の制服屋さんと一緒に、配っていいですか?』と言っていただけました。対象は、八千代市の小6と中3です。チラシのほとんどを配っていただけたみたいで、より多くの保護者に知ってもらえました。2023年度ぐらいから、軌道に乗ってきました」

◇こうして無事に「さくらや」を開店するに至った池上さん。後編「学生服や体操服になぜ名前を入れるの? リユース店が考えたこと」にてさらにリユースについて思うことを伝える。

学生服や体操服になぜ名前を入れるの? リユース店が考えたこと