「定年後は贅沢したい!」という気持ちはどう抑えればいいのか…元伊藤忠商事会長が明かす「目から鱗の方法」

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元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。

※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。

ミーティングはいつもコンビニ弁当

社長時代の私は、ランチミーティングに必ず「コンビニ弁当」を出していました。

会社がファミリーマートの筆頭株主なので、弁当といえばファミリーマート。当時の私は歯も丈夫でしたから、社員がふだん食べているような弁当を自分も食べればいいと思っていました。「社長主催のランチミーティングなら経費で落ちるから、有名レストランか料亭の高級弁当が出るかな」と期待していた人はガッカリしたかもしれませんが、社長といえども、経費を無闇に使うべきではないと思っていました。

会社としてお客様を接待するときには銀座の店を利用しましたが、個人的に部下たちと呑むときは会社近くの安い店へ。勘定の半分を私が払い、あとの半分は部下たちが割り勘で払う。そのほうが、部下も安心して言いたいことが言えるんです。

会長職を離れてからは、仕事関係者と事務所で夕食をとるときにはデパートの地下で買ってきた惣菜をテーブルに並べ、皆でディスカッションや世間話をしながら食べました。それで十分においしいし、楽しい。何の不足もありません。『老子』には、「足るを知る者は富む(欲を捨てて現状に満足できる者は、精神的に豊かでいられる)」という言葉がありますが、まさにそのとおりです。

私の生活はこの程度のもので、社長になるまでは自社株も持っていませんでした。

会社で穀物相場を担当していたのでいろいろな情報は入ってきましたが、自分で株を持てば、かえってそういう情報が災いして「儲けたい」という邪心を呼び起こし、肝心の仕事のことが考えられなくなってしまうのではないか、と思っていたのです。前社長から、「丹羽君、社長になったんだから少しは会社の株を持ちなさい」と言われて、初めてほんの少しだけ持ちました。

仕事以外のことで「儲かった、損をした」と気を削がれるのは面倒なので、それ以外の金融商品は持ったことがありません。

一事が万事、私生活ではお金に無頓着で、ふだんお金を使うこともあまりありません。ただ、本にだけは例外的にお金を使います。読みたい本は金額に関係なく買ってしまうので、あとから請求書を見てびっくりすることもあります。第二章で述べた『大航海時代叢書』は、一冊の値段が五〇〇〇円から六〇〇〇円近くしましたが、書店にあった二五巻を十数万円払っていっぺんに買い揃えました。「よくそんな買い物をしましたね」と人から言われましたが、興味のある本を読むためなら、いくらお金を使っても惜しくはない。これだけは、自分に許された最高の贅沢だと今も思っています。

贅沢なんていらない

定年退職を機に、家を立派にリフォームしたり建て直したりする人もいますが、私は課長になったときに建てた築四五年ほどの家に今も住んでいます。近所に住んでいるかつての部下が、「俺の家のほうが立派じゃないか」と驚いたそうですが、家は雨露がしのげて居心地がよければそれでいいと思っているので、ぜんぜん気になりません。そもそも、「俺は九〇歳になっても使える立派な家を建てよう」とか、「社長になるかもしれないから豪華な家にしよう」なんて、普通の人間だから考えもしませんでした。

社長時代にアメリカへ出張した際、友達の企業の社長から「我が社が持っているホテルの部屋をお使いください」と言われ、最上階にあるいちばんいい部屋に一晩泊まったことがあります。ところが、広すぎてどうも落ち着かない。たぶん、本来はお付き何人かといっしょにいる部屋なのでしょう。電話は大部屋に二つか三つあり、どこで鳴っているのかわからない。「これからは、手を伸ばしたら電話がとれるような小さい部屋にしてください」とお願いして、日本に帰りました。

帰国した夜は、ホテルの予約を部下に頼んでいなかったため、会社近くのビジネスホテルに泊まりました。トイレとユニットバスとベッドだけのシングルルームです。

翌朝、出社して「俺はああいう部屋でいいんだ」と部下に言うと、「社長がそんな小さな部屋じゃ体裁が悪いから困りますよ」と言われました。「そんなことはない。ベッドからすぐ電話はとれるし、手を伸ばせばティッシュペーパーの箱もある。あんなに便利な部屋はないじゃないか」と言い返すと、相手は開いた口が塞がらない、という顔になりました。

壁に穴が開いている部屋や、掃除が行き届いていなくて汚い部屋は、いくら安くても勘弁してほしいですが、きちっと掃除がしてあり、使いたいものがすぐそばにあるなら、それがいちばんいいと今でも思っています。お金さえ払えば快適に過ごせるというものでもないでしょう。そういう気持ちで生活すれば、歳をとってから「懐が寂しくて旅行も楽しめない」といったことにはならないのではないかと思います。

さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。

ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」