無残な結末…発覚半年「小林製薬」問題は誰が責任をとるのか? トップ弁護士の総括

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第三者委員会は設立されたが

小林製薬は、アンメルツヨコヨコという、肩こりや筋肉痛の製品(第三類医薬品とHPにある)でよく知られた会社である。身近な一般用医薬品で、私もお世話になったことが何度もある。

東証プレミアム市場に上場している会社で、時価総額は2020年には1兆円近くにまでなっており、現在でも約4000億円という優良な会社である。

今年1月15日、紅麹を使ったサプリメントによる健康被害があったと疑われる通報が小林製薬にあったにもかかわらず、その公表は3月22日になって初めてなされた。直後にこれを報じた4月3日の『夕刊フジ』で、私は「『口に入れるサプリメント』である以上、ことは悪質かつ重大」とコメントした。

さらに小林製薬が「上場企業でありながら同族経営を継続できているのは独立取締役が『つっかえ棒』の役割を果たしているからだ。」と述べ、さらに「2か月の間に取締役会が開かれていたはずだが、社長が取締役会に諮ったのか、独立社外役員がどれほど問題を把握していたのか」と問題提起した。

そして、当然ながら「第三者委員会を組織すべきだろう」とも述べた。

翌日の産経新聞の記事でも、私は「(社長からの)報告があれば社外取締役は『すぐに事案を公表しろ」といえる立場にあった。』ともコメントしている。

実際にも4月下旬には有識者委員会という組織が立ちあげられたようで、7月23日には事実検証委員会という名の第三者による調査報告書が取締役に提出された。

7月23日の産経新聞は「安全や危機管理に関する意識が甘かった小林章浩社長ら経営側の責任は重いと指摘。ずさんな対応が明るみに出た今、同社は重い問題を抱えた中での再出発を迫られている」とし、「『危機管理における経営のリーダーシップの発揮や適切な経営判断がなされなかった』。報告書を踏まえた取締役会の総括文書は、章浩氏らの一連の対応についてこう断じた」としている。

創業家は残留して

この産経の記事にも私はコメントを寄せた。

「小林章浩氏は社長を辞任したが、引き続き取締役として補償を担当することになる。取締役会への支配権が今後も継続されかねず、信頼回復策としては不十分だ。

体制の刷新とはいえず、問題の収束を待っているだけだと捉えかねられない。今後の信頼回復には、責任者であった社長が取締役から退くことが不可欠だ。

報告書の内容が事実ならば、人が口にするものをつくっている会社としてあるまじき事態だ。被害を矮小化(わいしょうか)し、社会的責任への自覚がないガバナンス体制だったといえる。

例えば、下からの報告が十分でなかったとしても、最終的にはトップがどう判断するかが重要だ。現場から声が上がってこないのであれば、そのような体制ができていないことこそ問題であり、そのトップであったことへの責任は問われ続ける。また、一連の経緯について説明する必要があるが報告書を出しただけだ。責任意識が十分ではないことの表れであり、ただちに記者会見を開くべきだった。」と述べている。

私のコメントの見出しは「章浩氏の取締役退任が不可欠」である。

私は共同通信の取材にも応じた。同日の共同通信は、章浩社長が引責辞任後も健康被害の補償を理由に代表権のない取締役に残る事実を配信し、例えば7月24日の愛媛新聞は「牛島氏は『社員は創業家の顔色を見る。現体制の維持だ』と問題がたなざらしになることを懸念した」と報じている。

被害者への補償のために社長は退任するが取締役としては継続という「理屈」は、つい最近ジャニーズ事務所の事件の際にも使われた。しかし、ジャニーズ事務所は非上場会社であるが、小林製薬は上場会社である。創業家とその関係者が株の約3割を有しているといわれている。

私は、被害そのものにも注目したが、小林製薬が取締役の過半数が独立社外取締役である会社でありながら、このようにもガバナンスの利かない会社であったことにも注目した。

不思議でもなんでもない。独立社外取締役といえども具体的な情報がなければ、どんなに学識経験に富んでいても実際上は無力である。独立社外取締役に情報を提供するのは社長の責任である。

過半数は独立社外取締役だった

社長において社外取締役に情報を提供する仕組みを作っておくことは、取締役会の責任であろう。しかし、それがあったとしても社長は情報を提供するとは限らない。

すると株主代表訴訟ということになるのだろう。しかし、それはどれだけの実効性をもつだろうか。疑問なしとしない。

だからといって、会社法429条、すなわち、役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う、に拠ることも簡単ではない。悪意・重過失の立証は困難を伴うことが多いだけではない。「第三者」に株主を含むかどうかについては議論があるからである。

ガバナンスの中核であるべき株主も、株の3割が同族に占められていてはなかなか外側から改善に寄与することは簡単ではない。

私は上場した会社であっても同族株主がリードすることで業績の良い会社がたくさんあるとも知っている。しかし、小林製薬の例のようなガバナンス不全にどう対応したらよいのか。

独立した社外取締役が過半数というケースであるだけに、処方箋を明確に描くことは難しい。株式会社では、執行を監督すると言っても、事実上は執行からの情報を前提としているからである。

そのような会社はMBOして上場会社でなくなるべきだという考えもあり得るかもしれない。しかし、それが今回の問題への適切な対応なのかどうか。結局は会社と株主の問題に帰着する。

被害者救済という面が大事なのは言うまでもない。しかし、今回の小林製薬の例は、そうした観点以外にも、独立した社外取締役による監督というコーポレートガバナンスの原則に対して大きな疑問を投げかけているのである。

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