「習主席vs.李首相」の確執が原因か…上海株「官製バブル」崩壊のウラで「いま起きていること」

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束の間の歓喜

10月3日公開の「上海株急騰のウラにある『劇薬』とは…李強首相を押しのけて習近平が打ち出した経済救急策の正体と『副作用』の恐怖」で記したように、9月24日から、中国では習近平氏主席の主導下で、大幅な利下げと預金準備率の引き下げなどの経済刺激策が打ち出された。その中には、3000億元(約6.1兆円)の資金を捻出して「株回収購入融資枠」を設け、企業がそれを使って自社株を購入することを奨励し、持って瀕死の株市場を刺激する方策まであった。

そして結果的には、この破天荒の株刺激策は直ちに功を奏し、打ち出された翌日の25日から、上海株は連続三日間急上昇、2700ポイント台から3000ポイント台に急騰した。27日(金曜)の上海株は前日終値から4.5%も伸び、週間伸び率が驚異の16%にも達した。

そして土日を挟んで9月30日(月)の営業日となると、上海株は8.06%急騰し、1日としては16年ぶりの大幅な値上がりとなった。その日、上海と深圳の両株市場の取引額は2兆5930億元(約52兆6000億円)となり、史上最高額となった。

つまり、前週末までの株価急上昇を受け、中国では「散戸」と呼ばれる小口投資家や一般庶民が一攫千金を狙って一斉に株市場に参入したことの結果、上海株は歴史的な急騰を記録したわけである。その時、中国国内では、「上海株はICUからいきなりKTVへ」とのジョックが流行っていた。今の上海株は、集中治療室の中で治療を受けていた重病人がいきなり元気になってカラオケボックスへ飛び込んで熱唱を始めたようなものだ、との意味合いである。

9月30日の時点で、習近平主導の株刺激策は一見、空前の大成功を収めた。

翌日の10月1日から7日までは、国慶節の連休で株市場も七連休に入った。そしてこの連休中に、経済政策策定担当の国家発展改革委員会(日本のかつての経済企画庁に相当)が国慶節明けの10月8日に責任者全員出席の記者会見を開催するとの発表があった。それならば、政府がこの記者会見で追加の大型経済刺激策を発表するのではないかとの期待が一気に膨らんだ。

こうした中で一部の御用経済学者は、「政府がいよいよ10兆元(211兆円相当)規模の経済刺激策を出すぞ」とのとんでもない「希望的観測」を打ち出して極力、人々を株市場へ誘導しようとした。

このような雰囲気の中で、多くの中国国民は「国慶節明け」への期待を胸に膨らませて、大変愉快な7連休を過ごした。連休中には、各観光地は観光客超満員となっただけでなく、各都市部の不動産市場も何年ぶりの活気を取り戻して売買が一気に活発になった。これで瀕死の中国経済はまさかの起死回生となるのではないかとの期待も高まった。

幻想は予想通り崩れた

しかし筆者が10月3日掲載の前述の原稿でも指摘したように、そもそも経済全体が瀕死している状況の中で、実体経済の裏付けのない刺激策で株を上げようとするやり方には限界があり、株がある程度上がったところで一斉に売り出して逃げようとする人々は当然出てくるから、いずれかまた暴落して元通りになるのではないか。そして国慶節明けから、上海株は早くとも、この「石平予言」が実現される方向へと向かった。

10月8日、7連休を終えて上海市場が再開すると、上海株は午前から続伸した。上海総合指数の午前の終値は前営業日(9月30日)比で4.8%も伸び、3490ポイント台に乗った。しかし午後からは伸び悩みの相場となって、最終的には3489ポイント終値で取引を終え、1日の伸び率は4.59%に留まり、9月30日の「8%」から大幅にブレーキがかかった。

こうなった直接の原因は、この日に開催された待望の国家発展改革委員会記者会見にあった。記者会見は委員会主任と副主任の4人が出席した最高規格のものであるが、責任者たちはここで、空疎なスローガンを口にした以外に一切の追加刺激策の発表もなく、むしろ逆に、9月下旬から実施の刺激策は今回の救急策の全てであると示唆した。もちろん、一部の専門家が喧騒している「10兆元刺激策」云々とは全く嘘であることも分かった。

記者会見が始まったのは当日の午前10時、昼休みの直前に終わった模様であったが、前述のように、その日の午後からの上海相場が伸び悩みの状況となっていた。後で流布される情報と一部の分析によると、その日の午後からプロの投資家や機関投資家は記者会見の結果に敏感に反応して売り出しを始めていた一方、記者会見の意味がよく分っていない一般の小口投資家はむしろ国慶節連休以前からの期待感をそのまま引きずって続々と市場に参入した。だから8日の上海株が伸び率は落ちたものの依然として伸びた。

しかし悲劇は10月9日に起きた。その日、上海総合指数は一気に6.61%も反落して、3258ポイントの終値で取引を終了した。10日には多少回復して1.32%の伸びであったが、11日(金)には再び落ちる方向へ転じ、2.54%の落ちで、3217ポイントの終値でこの週の取引を終えた。

このようにして、上海株が9月30日に16年ぶりの急騰を記録してからは、国慶節明けの9日、10日、11日の三つの営業日ではむしろ反落する方向へ転じたわけである。「上海株が上昇相場へ」の幻想は一気に破れた。

こうなったことの最大の原因はやはり、経済全体が依然として大恐慌の最中にあることだ。このような状況下では、実体経済の裏付けのない「刺激策=カンフル剤」の注射によって株市場が一時的に元気になるようなことがあってもそれは長続きはしない。いずれか下落して元通りになる。

冷や水を浴びせかけた者

それにしても、今回の上海株の急騰からの急落がそれほど早かったことはむしろ筆者の予想外であるが、そうなったことの原因は前述のように、8日に開催された国家発展改革委員会の記者会見はあまりにもいい加減であって全くの期待外れとなったことにある。

問題は、習主席の主導下で政権が株上げに躍起になっていた中で、国家発展改革委員会は一体どうして、株相場をわどさ潰そうとするような記者会見を行なったのかである。

ここで想起すべきなのは、10月3日掲載の拙稿が解説した政権内の確執である。株刺激策を含めた今回の経済救済策は、本来、経済の主管である李強首相の考え方(固本培元論)に反して、習主席の主導下で強引に進められたものであって、そして李首相はこの一連の方策の推進に極めて消極的であった。

実際、今回の一連の救済策は国務院や李首相ではなく、中央銀行の人民銀行総裁が9月24日の記者会見で打ち出したわけであるが、李首相は9月29日になってからは初めて国務院会議を開き、中央銀行の出した方策を追認した。この経緯から見ても、やはり李首相は最初から乗り気がなく全く消極的であることが分かる。

そうなると、ここでは一つの推測が成り立つのである。つまり10月8日に国家発展改革委員会の主要幹部たちが株市場に冷水を浴びせる例の記者会見を開いたのは上司である李首相の意向を受けたものであって、あるいは李首相が反対しているから、彼らはその記者会見で待望の大型追加刺激策を打ち出せなかったのではないか、とのことである。

少なくとも、後ろに李首相がいないと、国家発展改革委員会の幹部たちは習主席の怒りを買うリスクまでを負って、注目の記者会見を開きながら一切の追加刺激策を打ち出さないようないい加減なことをしないのであろ。

そうすると、今は習主席と確執中の李首相こそが、株市場の「習近平相場」を潰した黒幕である可能性が出てくる。実は、国家発展改革委員会が前述の記者会見を開いた当日の10月8日、李首相も国務院会議を開いてかなり意味深長の発言を行った。

その日、李首相は国務院関連会議で、経済政策の制定と実施に関して次のように語った。「諸々の経済政策は一貫性と全体的協調性を保つべきであって、各部門は政策の制定と実施に関しては全体の大局に従わなければならない」と。中国共産党政権の政治文化においては、李首相のこの発言は明らかに、経済管轄の各部門が独自の政策を勝手に打ち出すようなことを制し、自分が国務院総理として考えている「大局」に各部門を従わせようとするものである。

簡単に言えば要するに李首相、前述の人民銀行や発展改革委員会の幹部たちに対して、「お前らが国務院の全体方針に従え、経済刺激策を勝手に出すな」と釘を刺したものである。

彼はここで明らかに、国務院所属の各部門が首相の自分の頭越しで習主席主導の経済刺激策を乱発することに反発し、それを食い止めようとしているが、いわば「習主席vs.李首相」の対立と確執は官僚たちを巻き込む形で展開されているわけである。

こうした中で、中央銀行が習主席の意向を受けて大々的な株刺激策などを打ち出して猪突猛進しているのに対し、発展改革委員会はむしろ李首相・国務院の方針に従って刺激策を打ち出すことに消極的になっている、との構図が見えてきたのである。そして結果的には発展改革委員会の消極的姿勢は10月8日以後の株急落を招き、刺激策によってせっかく盛り上がったところの「習近平相場」を潰してしまったのである。

そして今週明けの10月14日、上海株は若干戻したものの、15日には再び

2.53%の下落に見舞われた。今後の動向は油断を許さないが、李首相らの抵抗によって、習近平主導の起死回生の経済刺激策全体はまたもや失敗に終わる可能性は大である。

【つづきを読む】『いま中国政権中枢で「造反劇」相次ぐ大異変!首相・李強が習近平に「公然当て付け・無視」!いよいよ本格化してきた「対立と確執」の全舞台裏』

いま中国政権中枢で「造反劇」相次ぐ大異変!首相・李強が習近平に「公然当て付け・無視」!いよいよ本格化してきた「対立と確執」の全舞台裏