ついに上場、東京メトロの株は「買い」か?「類似の上場例」から導いた「結論」

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東京メトロ(東京地下鉄株式会社 9023)が10月23日、東京プライム市場に上場される。15日に売り出し価格は仮条件の上限、1200円に決定。上場時の時価総額はおよそ7000億円にものぼり、今年最大の新規上場となる。この東京メトロへの投資戦略について考えてみたい。

抜群の収益力

東京メトロは「旅客鉄道の運営を主力事業」としているが、東京都区部での地下鉄9路線を運営しており、この鉄道業だけで全体の95%を占める。ほかは路線沿線のオフィスビルやホテルなどの不動産賃貸、商業施設や車両内や駅校内の広告などが事業内容に入ってくる。地下鉄の総距離は195キロ、180駅、1日平均652万人。

東京メトロの最大の強みは日本で最大人口を抱える東京の中心部に路線網を持っていることにある。

たとえば東京都のすべての鉄道駅で利用者数トップ10(1位新宿、2位池袋、3位渋谷……)のうち9駅に東京メトロの路線が通っている。唯一路線が通っていない品川駅(6位)も、いずれ南北線が延伸する予定だ。

経営状況を見てみよう。

2024年3月期の営業収益は3893億円(前期3454億円)、営業利益763億円、経常益659億円(前期197億円)。いずれの前期比で伸びを示しているが、これは前年までコロナ禍の影響が残り、ようやくコロナ前の水準に戻ったに過ぎない。

それでも収益力は私鉄のなかでは群を抜いており、今後も安定的に利益を上げていくだろう。なお2025年3月期の会社計画では営業収益4075億円、営業益880億円となっている。

「安定的」ということは、裏返せば急成長は望めないのではないかという見方もあるが、これについては後述する。

株主優待もある

株価1100円で計算するとPERは12.2倍、PBR0.96倍となっている。首都圏の私鉄他社と比較してとくに割高ということはなく、むしろ割安感がある。

配当金は前期32円から増配して40円。配当利回りは3.3%で、私鉄各社のなかでは抜きんでて高い。

首都圏以外の投資家にはあまりうま味がないが、株主優待もある。

全線片道切符

200株以上  400株未満  年間6枚

400株以上  600株未満  年間12枚

(株数増えるごとに切符の配布数増)

ほかにECサイトの割引券、「地下鉄博物館」無料招待券、立ち食いソバのかき揚げトッピング無料券など。配当も含めて、株主還元にも積極姿勢がうかがえる。

そして上場と同時に買いを集めるのではという根拠の一つに株主優待の権利が200株(2単元)から始まるという点。上場前の売り出しで当選したとしても100株。株主優待をゲットするためにさらに買い増しする投資家が続出することも十分にあり得る。

市場の懸念として「成長性に欠ける」と指摘する声も一部の証券関係者のなかから上がっている。これはひとえに主力事業にある。鉄道事業で事業を拡大するには、新線の開業、あるいは延伸しかないが、都心中心で展開し、そこから郊外へ延びるルートはほかの私鉄がすでに運航している状況だ。

有楽町線や南北線延伸の計画もあるにはあるが、さほど収益が大きく伸びるとは考えにくい。

不動産事業の伸びしろは…?

可能性としては都営地下鉄との合併。以前から検討されてきながら、なかなか実現への道筋が見えない。

他の私鉄各社は鉄道事業より、付随する不動産事業を成長戦略の中心に置いている。都市部から郊外へ延びる沿線で、中核となる駅周辺での再開発などがこれからも行なわれることだろう。

東京メトロでも渋谷マークシティや渋谷ヒカリエなどオフィスビルやホテルなどの不動産事業も行なっているのは確かだ。だがほかの私鉄大手と比べるとその規模感において見劣りしてしまう。これは東京メトロが都心部に駅が集中しているという大きなメリットが、逆に足を引っ張っている。つまり開発余地の広い土地が少ないというデメリットになっている。

ただ首都圏の私鉄沿線の再開発は、東京メトロにまったく関係ないとはいえない。

東京メトロは各私鉄と乗り入れを行っている。たとえば埼玉県から神奈川へ向かう客は(あるいはその逆の神奈川から埼玉)、私鉄を乗り継いで東京メトロを中継することになる。東京メトロへの恩恵もあるわけだ。

日本の少子化を懸念する声もあった。将来の乗客数減に直結する話ではある。ただ当面、少子化の影響は主に地方都市で、首都圏への影響はさほど大きくはない。それどころか東京への人口流入は続いている。少子化の影響はしばらくは考えなくてもいいだろう。

ではメリット、デメリットをトータルで勘案して東京メトロの株は「買い」か「見送り」か。

問題は、そのあと

収益の安定性と割安さを考えると下値不安は小さい。営業利益、営業利益率、輸送人員数などを見ても私鉄のなかでも、経営基盤は群を抜いて強く見える。

類似企業で比較的近い新規上場企業の九州旅客鉄道(9142)の初値騰落率は+19.2%となっている。

1200円という価格は割安で、下値不安は少ない。多くの証券関係者に聞いて回ると、初値予想は1300円台がもっとも多く、次に1400円台がそれに続いた。

国内で売り出しされる株数は2億3240万株。売買単位は100株なので、当選本数は232万4000本。IPOのなかではかなり当選しやすいほうだ。それでもブックビルディング(需要申告)で15倍を超えている。

東京メトロの割安性、配当利回りの高さから見て初値が売り出し価格を下回る確率は、よほど市況が悪くない限りかなり低い。またこの東京メトロ株を狙って新規で新規口座開設が増えているという点も心強い。

国内で売り出しされる株数は2億3240万株。売買単位は100株なので、当選本数は232万4000本。IPOのなかではかなり当選しやすいほうだ。まずIPOに申し込むかどうかの判断があるわけだが、チャレンジする価値はあるのではないか。

問題は、そのあとだ。

いくつかシミュレーションしてみようと思う。

NISA向きの銘柄

波乱相場がしばらく続き、そのあおりで売り出し価格を下回ってしまったケースでは、さらにセカンダリー投資で買い増ししたいところだ。割安感や高配当利回りを考えると下値不安は小さく、底堅い値動きが考えられる。とくにIPOに外れた投資家にはチャンスだろう。

イチバン可能性が高い、初値が売り出し価格の10〜15%を上回ったケース。これはその投資家の方の懐具合や投資戦略によって選択肢は広がる。

いったん利食い売りしてもいいし、長期投資をにらんで買い増しする手もあるだろう。下値不安が小さく、配当利回りもいいのでNISA向きの銘柄でもある。

最後に上場初日から値を飛ばしたケース。このときはいったん利食いもあり。上場直後に値を飛ばした銘柄は、おうおうにして直後に値を崩し、初値付近まで、あるいははるかに下回る傾向にある。

有望銘柄だけあって、初値を大きく下回る可能性は薄いが、いったん初値で利益確定したあと、利食い売りで下落したところで買いなおす戦術が有効か。

IPOで外れた場合、あるいは買い増しを考えていた投資家は、上場直後に値を飛ばしたときは様子見が賢いやりかたではないか。その後の値動きを見て投資行動を決めるといいだろう。

「ツレ高」に期待

ところで初値に対してネガティブな見方をする証券関係者は、「ほかの私鉄企業と比べて割安感があるといっても、各指標でそれほど大きな差があるわけではない。売り出し価格近辺が妥当な株価水準ではないか」という意見を述べた。

一理ある話で、否定はできない。しかし、私は逆の見方をしたい。すなわち、東京メトロ株に注目が集まることによって、ほかの電鉄株は関連銘柄にも波及効果が及ぶのでは。いわゆる「ツレ高」だ。

そこで東京メトロ株上場で、株価に好影響を受ける銘柄についても触れてみたい。

首都圏の私鉄各社はその多くが春先を天井に、株価を下げている。

これは一つには東京メトロの上場申請のニュースが伝えられたところで、年初から春先にかけて高値をつけている。いわば「理想買い」で、先回りして買いを集めたと思われる。これから理想買いから、東京メトロの上場が実現したところで、再び脚光を浴びるのではないか。

私鉄各社は株価調整のあおりで割安感がさらに進んでいる。

鉄道関連銘柄を狙うなら

そのなかでとくに注目したいのが、京浜急行電鉄(9006)だ。PERは18倍前後、PBRにいたっては1倍を割り込んでいる。

そして京浜急行の強みは羽田空港に乗り入れている点だ。

東京メトロは南北線が品川駅に延伸する計画を持っている。もし品川駅に南北線がつながったら羽田空港への人の流れが少しは変わるだろう。

羽田空港へ行くにはだいたい京浜急行羽田線を使うか、東京モノレールを使うかだ。

もし南北線が品川へ接続するようなことになれば、東京モノレールを使っていた利用客のうち一部は京浜急行に流れると推察される。

これは東京メトロにも、南北線を使う利用客増で恩恵がある。

南北線の品川駅接続は2030年代とかなり先。しかも利用客が増えるといっても、全体の売上からは微小かもしれない。しかし、投資家はこういったことを「買い材料」とするので、けっして無視できない。

また電鉄会社以外にも関連銘柄はいくつもある。

鉄道信号関連の大同信号(6743)日本信号(6741)、鉄道分野の建設に強みを持つ鉄建建設(1845)などにも注目したい。

東京メトロの上場は、国と東京都が売り出し、ひさびさの大型IPOということで注目を集め、影響も大きい。その影響を見極めて最適な投資行動を採りたい。

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