「ルールを守る」って当たり前だろ…!石破自民党の「選挙公約」を読んで驚いた、「異例」の中身

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今ひとつ見えてこない

衆議院総選挙が公示された。10月27日の投開票に向けて一斉に選挙戦が始まった。

首班指名で石破茂氏が首相に選ばれたのが10月1日、わずか8日後に解散総選挙に打って出た。総裁選では、「主権者たる国民が判断できる材料をきちんと示すのは新政権の責任」として、早期解散を明言していた小泉進次郎候補とは一線を画したが、果たして、国民は投票行動を決める判断材料を十分に得たのか。代表質問と党首討論は行ったものの、石破氏のこれまでの主張はどんどん封印され、選挙で勝利した際にどんな政策を取るのか、今ひとつ見えてこない。

選挙戦に向けて公表した公約のタイトルは「日本を守る。成長を力に。」である。石破総裁らしい防衛力の強化など安全保障政策として「日本を守る」ことの重要性を真っ先に主張しているのかと思いきや、そうではない。

1として最初に掲げたのは「ルールを守る」。公約でいの一番に掲げたのが、「国民からの信頼回復に全力を尽くします」という自民党の話だった。もちろん、安倍派を中心とする、いわゆる「裏金問題」で、自民党が大きく信頼を損ねているのは間違いない。「ルールを守る」のは当たり前のことで、それを公約にするのは、余ほど、追い詰められているからに違いないが、投票する国民にとって、一番大事なことなのか。

立憲民主党を中心とする野党は、裏金問題を徹底的に批判し、「政治とカネ」を今回の総選挙の争点にする戦略を取っている。真っ先に「ルールを守る」を掲げることで、自民党はその土俵で選挙を戦うことになるだろう。

「ルールを守る」と言った場合、そのルールが妥当なのかが問題になる。政策活動費の領収書公開を「10年後」としていることには、総裁選で候補者の多くが批判し、政策活動費の廃止を掲げる候補もいた。自民党内にもルールがおかしいと思っている議員が相当数いるわけで、それを守ると言った場合、野党にツッコミ所を与えることになるのではないか。

本来、「信頼回復」はさまざまな政策を通じて実現していくもので、それ自体が「公約」になること自体が異例だろう。

自民党を強く否定する、わけではない石破首相

2012年秋に民主党の野田佳彦内閣が解散した際に、安倍晋三総裁は、政権交代をかけて公約を掲げた。そのタイトルは、「日本を取り戻す。」。自民党は国民の信頼を失い2009年に下野していたが、何としても政権復帰を果たすという強い思いがあった。3年たって民主党政権への失望は広がっていたとはいえ、自民党への信頼が回復していたわけではなかった。

「日本を取り戻す。政治が国民の信頼を取り戻すためにこそ、自由民主党の政権公約がある。3年前の自民党とは違う。我々は、長年の経験に裏付けられた責任感で公約を書き上げた」

自民党のホームページには今も、当時の安倍総裁のコメントを引用した公式記事が残る。安倍総裁は「古い自民党には戻らない」と繰り返し語っていた。自民党的なものを否定することで、選挙で大勝したのだ。

やはり自民党への信頼が揺らいでいた2001年に総裁・首相に選出された小泉純一郎氏は、「自民党をぶっ壊す」とそれまでの自民党のあり方を否定した。自民党の信頼喪失という危機を、異端児がトップになることで、根底から自己否定し、結果、選挙で勝利した。自己否定で勝利するという小泉、安倍両氏の構図と、今回の石破氏が選ばれた構図は、似ているようにも見えるが、石破氏は自民党を否定する強い言葉は発していない。

経済でどこまで踏み込んでいるのか

石破政権の公約である「日本を守る」の2つ目には、石破氏の得意分野である防衛問題が出て来るかと思いきや、「暮らしを守る」を掲げた。「経済成長を力に変え、国民の暮らしを守ります」としている。メインコピーの後段にある「成長を力に。」はここから取っているわけだ。

実際、国民の多くは物価高による生活悪化に苦しんでいる。岸田文雄前首相は、就任当初から「物価上昇を上回る賃上げ」と言い続けてきたが、結局、物価上昇に勝てるだけの本格的な賃上げは実現していない。

そんな中で、具体的にどんな政策を打つのか。経済政策になると、野党とは大きく主張が異なる。ここで自民党らしさを打ち出せれば、やはり、経済運営を任せられるのは自民党政権だ、ということになるかもしれない。だが、残念ながら、政策の具体策は見えてこない。

「物価高騰の影響を受ける事業者や低所得者、地方などに寄り添ったきめ細かい対応など、物価高への総合的な対策に取り組みます」としているものの、ガソリン価格や、電気・ガス料金の低減に向けた事業者への補助金を来年以降も続けるのか。いつまでそれを実施するのかなど具体的な話は出てこない。低所得者への給付金も行うとしているが、金額は明示されていない。野党ならば致し方ないが、政権与党の公約としては物足りない。

そういえば安倍政権では

2012年の安倍内閣が掲げた「日本を取り戻す。」では、「まず、復興。ふるさとを、取り戻す。」として、2011年の東日本大震災からの復興を大前提とした上で、公約の1番目として、「経済を、取り戻す。」を掲げた。国民の多くに響く、経済再生を真っ先に公約としたのだ。

当時も安全保障環境が悪化していたタイミングで、「日本を取り戻す。」とした背景には日米同盟の強化など安全保障が念頭にあったと言われる。最初の草案でも冒頭に安全保障があったが、ブレーンたちの助言を安倍氏が受け入れ、経済を最初に持ってきたと言われる。石破氏同様、当時の安倍氏も「経済に疎い」「経済に関心がない」と言われていた。

当時の安倍自民党の公約では、経済政策についても具体的に書き込まれていた。例えばこんな具合だ。

「今後2〜3年は国内景気の落ち込みと国際リスク(欧州危機、新興国の景気減退)に対応できる、より弾力的な経済財政運営を推進します」

「日本経済再生本部に『産業競争力会議』を設置し、成長産業の育成に向けたターゲティングポリシーを推進します」

この段階で掲げられた経済政策が、「アベノミクス」として具体化され、実行に移されることになった。

石破政権の公約の3番目が「国を守り、国民を守る」。ここで石破氏が専門とも言える防衛力強化が出てくる。「自衛官の給与面を含む処遇改善」など具体的な施策が書き込まれているのは、さすが石破氏と言ったところだ。

さらに、「4 未来を守る 希望あふれる未来に向け、あらゆる手立てを講じます」「5 地方を守る 地方の振興で日本全体を元気にします」と並んだ後に、「守る」という共通語から外れた1項目が6番目としてある。元々あった5つに後から加えられたのではないかと感じるほど、キャッチフレーズの中で語感が違う。いわく「新たな時代を切り拓く」で「国民とともに憲法改正を実現します」とある。自民党のコア支持層とされる保守派に配慮したのか。憲法改正が持論だったはずの安倍氏ですら2012年公約には「憲法改正」は柱に立てず、政策説明文の一つに抑えていたのとは対照的だ。

果たして、こうした政権公約をどう国民は判断するのか。総選挙の結果が注目される。

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