孤独が糖尿病のリスクを倍増させるとの研究や、孤独が喫煙よりも人を老化させるとの研究など、孤独と健康リスクの関係を示した研究を挙げればきりがありません。そのため、孤独そのものが健康リスクだとみなされることがよくありますが、遺伝子データを用いた新しい分析により、孤独が病気を引き起こすというこれまでの常識に疑問を投げかける結果が得られました。

Observational and genetic evidence disagree on the association between loneliness and risk of multiple diseases | Nature Human Behaviour

https://www.nature.com/articles/s41562-024-01970-0

Loneliness may not be a direct cause of disease

https://www.news-medical.net/news/20240917/Loneliness-may-not-be-a-direct-cause-of-disease.aspx

Genetic analysis challenges the idea that loneliness directly causes diseases

https://www.news-medical.net/news/20240918/Genetic-analysis-challenges-the-idea-that-loneliness-directly-causes-diseases.aspx

Loneliness/Disease Link Debatable?

https://www.medscape.com/viewarticle/loneliness-disease-link-debatable-2024a1000ha5

広州医科大学のJihui Zhang氏らの研究チームによると、孤独と疾病の関係を示した研究は数多く存在するものの、一体なぜ孤独が健康を悪化させるのかというメカニズムまではほとんど解明されていないとのこと。

なぜなら、データを集めて分析する観察研究では、孤独と健康問題の間に何らかのつながりがあることはわかっても、「孤独が病気を引き起こした」という因果関係の有無までは判明しないことが多いからです。

そのため、例えば病気にかかったせいで社会への参加が減って結果的に孤独に陥ってしまうケースのような「因果の逆転」や、孤独とは別の要因である「交絡因子」が孤独と病気の両方に関連していた可能性などが排除できません。



孤独と病気の関連性をさらに深く理解すべく、研究チームはイギリスで行われた長期的な大規模調査「UKバイオバンク」で収集された行動データ、遺伝子データ、入院データを組み合わせた分析を行いました。

データは56種類の主要な疾病を網羅しており、追跡期間の中央値は12年、参加者47万6100人の平均年齢は56.5歳、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者が開発した「UCLA孤独感尺度」で孤独と判定された人は全体の約5%に当たる2万3136人でした。

研究チームがまず入院データや死亡記録を用いた一般的な分析を行ったところ、孤独は56種類の疾病のうち30種類のリスクと関連しているとの結果が出ました。孤独との関連性が特に強い疾病は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、不安症、統合失調症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)でした。

さらに、研究チームは遺伝子データを用いたメンデルランダム化(MR)解析を用いた分析も行いました。MR解析とは、遺伝子変異がランダムに親から子へ受け継がれるというメンデルの法則を利用して、分析結果の偏りを抑える手法のこと。特定の病気との関連性が判明していて、なおかつ環境や生活習慣に左右されない遺伝子変異に着目することで、因果の逆転や交絡因子の影響を低減させることができます。



研究チームが、孤独と有意な関連性があった30の疾病のうち、遺伝子データが利用可能だった26の疾病でMR解析を行った結果、ほとんどの疾病が孤独との因果関係を持たないことが示されました。

潜在的な因果関係がみられたのは、26種類の疾病のうち甲状腺機能低下症、ぜんそく、うつ病、向精神薬乱用、睡眠時無呼吸症候群、難聴の6つだけだったとのことです。

この研究結果により、孤独は病気の直接的な原因ではなくむしろ「病気のサイン」であるため、孤独に対処するだけでは病気のリスクを減らせないことが示唆されています。

研究チームは論文に、「孤独はほとんどの疾病の原因となるリスク要因ではなく、潜在的な代理マーカーとして機能する可能性があります」と記しました。