Meta Quest 3S。発売は10月15日から

10月15日に発売を予定している「Meta Quest 3S」の製品レビューをお届けする。

先日、Metaの開発者会議「Meta Connect 2024」でMeta Quest 3Sが発表された際には現地からハンズオンをお届けしているが、今回は私物の「Meta Quest 3」と比較しながら、使い勝手を確認していきたい。

Meta Quest 3。ストレージ512GBの最上位モデルとして今後も販売

前回の記事で「Quest 3Sの性能はQuest 3とほぼ同じ」という話をした。いきなり結論めいているが、実機でじっくりと比較した今もその印象は変わらない。

では、もうQuest 3は不要なのか? 使い勝手が完全に同じなのかというと、これが微妙に違っている。

ではどこが違うのか? どう比較すべきなのかを細かく見ていこう。

Quest 3を踏襲するもセンサーは新規デザイン

まずはパッケージから見ていこう。

コンパクトなもので、外観サイズはQuest 3のものと大差ない。

Meta Quest 3Sのパッケージ。サイズはMeta Quest 3のものとほぼ同じ印象

参考に、昨年のレビューで掲載したMeta Quest 3のパッケージ

中には本体のほか、コントローラー2つとUSB電源+ケーブル、メガネを使う際のアダプターが付属している。梱包方法こそ変わったが、この辺もQuest 3と大差ない。

開梱したところ。パッケージ自体はシンプル

内容物。必要最低限のものが入っている感じだ

コントローラーはMeta Quest 3のものとまったく同じだ。デザインも機能も変わらない。バッテリー(単三電池)は最初から入っていて、フィルムを引き抜いてから使い始める形となっている。

コントローラー。左がQuest 3S付属のもので、右がQuest 3のもの。機能もデザインもまったく同じ

付属する電源はUSB Type-Cで18W(5V/3Aもしくは9V/2A)出力のもの。コンパクトではあるがとりたてて珍しいものでもない。

電源仕様。USB Type-Cで18W

やはり違いは本体に集中している。

わかりやすいのは、正面から見たデザインの違いだろう。

Quest 3ではカメラ・距離センサー・カメラの順に3つ棒が並ぶようなデザインだったが、Quest 3Sでは3つのカメラ+センサーが目の位置に集まっているようなデザインに変わった。

Quest 3Sのセンサー部

こちらはQuest 3のセンサー部

この変化による違いの有無は、また後ほど説明する。

標準添付のバンドは、低コストなゴム式のもの。質や設計もほぼ同じである。

相互の互換性は「ないわけではない」。

写真を見ればお分かりのようにほぼ同じ構造でヘッドセットにはめ込まれているのだが、Quest 3にはヘッドフォン端子があり、Quest 3Sにはない。そのため、Quest 3に3Sのバンドをつけようとするとはめ込めない、ということになる。

Quest 3S本体左側

Quest 3本体左側

Quest 3S本体右側。ヘッドフォン端子がない

Quest3本体右側。こちらには3.5mmヘッドフォン端子がある

だが逆に言えば、Quest 3用のサードパーティー製バンドはそのままQuest 3Sにも取り付け可能、ということになり、ほとんど問題は発生しない。

なお、3.5mmのヘッドフォン端子はなくなったものの、外部ヘッドフォンが使えないわけではない。Quest 3Sの場合には、USB Type-C接続のヘッドフォン、もしくは3.5mmヘッドフォン端子とUSB Type-Cへのアダプターを利用すれば良い。

光学系は「2」と同等

本体をもう少しじっくり見ていこう。

前述のように、Quest 3とQuest 3Sでは正面のセンサーが違う。

だがそれ以上に「幅」「形状」も違う。

以下の写真は、上がQuest 3S、下がQuest 3だ。本体の厚みがかなり違うのがわかる。

上がQuest 3S、下がQuest 3。本体の厚みがかなり違う

ここで、昨年Quest 3のレビューを掲載した際の、「Quest 2と3を比較した写真」も見ていただこう。こちらは上がQuest 2で下がQuest 3だ。

上がQuest 2で下がQuest 3。Quest 2とQuest 3Sは非常に似ているのがわかる

この写真、Quest 2の方は「エリートストラップ」をつけているのだが、そこはちょっと忘れていただきたい。

だが厚みなどのイメージについて、Quest 2とQuest 3Sが似ているのはおわかりいただけると思う。ちょっと3Sの方が薄く洗練されてはいるのだが。

本体だけを見ると、Quest 3SはQuest 3よりも結構分厚くなっている。フェースパッドを外すと、差はもっとわかりやすくなる。

フェースパッドを外して並べてみた。Quest 3S(左)は、Quest 3(右)に比べて本体が厚い

フェースパッド自体の厚みや形状もかなり違う。

フェースパッド。左がQuest 3用で右がQuest 3S用

Quest 3S。全体に厚みがあるが、実はフェースパッドはQuest 3より薄い

Quest 3。本体は薄いのだがフェースパッドの厚みはあり、全体でのサイズはそこまで薄くない

そのため、実際につけてみると、センサーデザインを除くイメージに大きな変化はない。

Quest 3SとQuest 3をつけてみた。正面のデザイン変更から大きく変わったようにも見えるが、実はつけてみた際のサイズ感はそんなに変わっていない

この変化は、レンズ部を含んだ構造から生まれている。

以下の写真はQuest 3のもの。パンケーキレンズを使っていて薄型化されているが、目までの距離を稼ぐ必要もあるため、フェースパッドが大きめになっている

Quest 3のレンズ部。パンケーキレンズでかなり薄くシュッとしたデザイン

それに対しQuest 3Sは、分厚いフレネルレンズで厚みもある。瞳孔間距離(IPD)調節も、レンズを手で直接動かして行なう。

Quest 3Sのレンズ部。フレネルレンズを使っていてかなり分厚い

以下は昨年のレビューで掲載した、Quest 2のレンズ部写真だ。Quest 3Sとそっくりであるのがわかるだろう。

Quest 2のレンズ部

以下は、Metaの公式ページからの抜粋だ。Quest 2・Quest 3S・Quest 3を比較したものだが、2と3Sの光学系はほとんど同じで、水平の視野角(FOV)のみが拡大されているのがわかる。

Metaの公式ページより。Quest 2・3S・3を比較すると、光学系は2と3Sがほぼ同じであるのがよくわかる

すなわち、光学系をQuest 2で使った設計に戻してコストを落としたのがQuest 3S、ということは明確に見えてくるわけだ。

また細かいことだが、Quest 3Sでは「頭につけていることを検知するセンサー」がなくなっている。これはQuest 2にも3にもあったものだが、Quest 3Sでは省かれた。外して机に置いても動作し続けるが、ヘッドセットを動かさなければスリープに移行する。

要は、そういう細かいセンサーまでカットして低コスト化した製品、ということなのだ。

文字では多少の差があるものの、それ以外では「ほぼ同じ」

では体験はどうなのか?

セットアップのプロセスはこれまでと同様。スマートフォンにアプリ(Meta Horizonアプリと改称)を入れ、ペアリングしながら初期設定を行なう。

スマホでのセットアップ画面。少しプロセスが変わっているが、手順は同じ

HMD内部でのチュートリアルは定期的に変更されており、今回もまた変更があったようだ。少なくとも、昨年Quest 3をセットアップした時から2度は変わっている。今回もより丁寧でわかりやすいものに変更されていたのでちょっと驚いた。

では画質はどうだろう?

今回は「文字中心(ウェブ)」と「動画」、「VR体験」に分けて比較してみた。

参考に、レンズを通した写真も掲載する。できるだけ体感した画質の差がわかるものを目指したが、搭載されているディスプレイの性質上、写真だとフリッカーが残っている部分もある。あくまでイメージとお考えいただきたい。

まず「文字中心(ウェブ)」。

Quest 3のあとにQuest 3Sを体験すると、「ちょっと眠い」「滲みを感じやすい」気はする。

Quest 3Sでのウェブ表示画面

Quest 3でのウェブ表示画面

ただ、その差が非常に大きいか……と問われると「それほどでもない」という印象だ。PCと連携して大画面・マルチウインドウ作業環境を実現する「Immersed」でも使ってみたが、こちらでも「Quest 3の方がきれいだが、劇的というほどの差ではない」という印象である。

ただしレンズの性質からか、視野の端ではQuest 3Sでの滲みが感じられやすい。

「動画」でも同じように比較してみた。写真はYouTube(公式アプリ)でのものだが、Amazon Prime Videoでも比較している。

Quest 3Sでの動画表示画面

Quest 3での動画表示画面

こちらも「どちらかといえばQuest 3の方が画質はいい」とは思うが、文字以上に差がわかりづらい。掲載した写真だとさらに感じづらいかと思う。

「VR体験」はさらにわかりづらい。今回は10月4日から公開がスタートした「機動戦士ガンダム:銀灰の幻影」で比較した。

Quest 3SでのVR表示画面
(C)創通・サンライズ

Quest 3でのVR表示画面
(C)創通・サンライズ

比較的激しく画面が動くVR体験だと、細かい文字や描線の品質の違いは把握しづらい。「しっかり比較すると違いがわかるが、体験中はその差が気になるものではない」と言っていいだろう。

Mixed Reality品質はほぼ同等だ。そもそもビデオパススルー用カメラなどの品質は同じなので、差が出る理由もない。

Quest 3SでビデオシースルーによるMixed Realityを利用した採用の様子をキャプチャしたもの

レンズやディスプレイではQuest 3の方が上であり、じっくりと見る・文字を扱うなら「可能ならQuest 3の方がいい」とは言える。ただ、表示差は思った以上に小さい。表示のためのソフトウエアや、それを処理するプロセッサーが同等なので、Quest 3との差が出にくいのだろう。

逆にいえば、Quest 2時代との違いは「ソフトとその処理を支えるプロセッサーの速度」であり、その違いがXR機器にとって極めて重要なものであることも見えてくる。

前掲のMR画像は、Quest 3発売初期のものに比べ大きく品質が向上している。MetaがOSの機能を改善し、品質をアップし続けている結果、Quest 3Sの画質が向上しているのだ。

そう考えると、Quest 3Sは廉価版ではありつつも、Quest 3と同じOSとソフトウエアが使えるからこそ品質が維持できている、と考えられる。

価格が下がってバリューがあまり変化していない、というのは素晴らしいことだ。

逆にいえば、Metaとしてはソフトを支えるハード基盤を「Quest 3世代」に統一したかった、ということかもしれない。確かにそれは、今後の品質向上にとっても重要な話である。

だから、結論はファーストインプレッションの通りだ。

文字品質に拘りがあり、予算があるならQuest 3が良いが、ゲームや映像が中心ならQuest 3Sが良い。久々に「製品の体験はソフトが決める」ことをはっきり感じた製品である。