上位モデルのXDCAM「PXW-Z200」

撮影現場のニーズ

テレビのロケ番組を見ていると、今やほとんどマルチカメラ収録になっている。業務用カメラ以外にもGoProのようなアクションカメラやスマホ、デジタルカメラなど、カメラというリソースが手軽に手配できるようになったからだろう。

とはいえ、やり直しの利かない現場では、カメラの機動性や汎用性が大きくモノを言う。これまでそうした現場では、いわゆる「デジ」と呼ばれるカムコーダが多用されてきたが、定番と言われたソニー「HXR-NX5R」や「PXW-Z150」はすでに終売となっており、買い換えもできないという状態が続いていた。

その間にデジタルカメラが台頭してきたわけだが、動画専用機というわけでもないことから、いくらリグに組み上げてカムコーダっぽくしても、完全に代用できるというものではない。

そんなタイミングで、ようやくこの9月にソニーから業務用カムコーダが2種類発売になった。NXCAM「NXR-NX800」と、XDCAM「PXW-Z200」だ。価格はそれぞれ、506,000円、649,000円となっている。

ただしカメラとしてはほぼ同性能である。Z200のほうがSDI出力やタイムコード入出力できたり、録画フォーマットが拡張される予定という程度の違いであり、型番は全然違うが事実上姉妹機と言ってもいいだろう。

今回は上位モデルとも言えるZ200のほうをお借りして、業務用としては久しぶりに登場したハンドヘルド型カムコーダの、イマドキの進化点をチェックしてみたい。

バランスよくまとめられたボディ

外寸で見ると、前作とも言えるZ150とほとんど変わらない。もちろんボディ設計は別物だが、概ね同じサイズ感にまとめたというところだろう。LEDモニターは以前は上にフタをするように折り畳んでいたが、今回は横に折り畳むようになっている。このためハンドル前部がベタッと広いという感じもなく、スッキリしている。

ハンドル前方がスッキリした印象に

LEDモニタが横向きにできるので、カメラ横からのオペレーションもやりやすい

もう一つスッキリした印象を与えているのが、外部マイクのホルダーを着脱式にしたことだろう。カメラ入力にはミキサーアウトやレポーターマイクを接続することも多く、カメラ自体にマイクをくっつける必要がないケースもある。これにより本体の収納性もよくなる。

マイクホルダーが着脱式になった

収納性という点では、ビューファインダが下向きに折り畳めるようにしたのももう一つの工夫だ。従来はウエストレベル撮影用に上に跳ね上げることはできたが、下には曲がらなかった。このためカメラケースが大きくなってしまうというデメリットがあったが、今回はほぼ胴体部が入るケースであれば収納できる。

下向きに折れて収納性が上がったビューファインダ

レンズは24mm~480mm/F2.8~4.5の光学20倍ズームレンズ。デジタルカメラの交換レンズではなかなかできない倍率だ。センサーは積層型の1型Exmor RSで、有効画素数は約1,400万画素。

24mmスタートで光学20倍ズームのレンズ

画像処理エンジンにはBIONZ XRと、AI処理に特化したAIプロセッシングユニットが搭載されている。AIで人間の骨格や姿勢を把握し、被写体認識やAFに活用する。

撮影可能な最大解像度は4Kで、フレームレートは最高119.88。以下に撮影可能モードをまとめておく。

コーデック 解像度 フレームレート XAVC HS-L 422 3,840×2,160 23.98, 25, 29.97, 50, 59.94, 100, 119.88p XAVC HS-L 420 XAVC S-L 422 3,840×2,160, 1,920×1,080 XAVC S-L 420 XAVC S-I

上位コーデックは4Kのみ、そのほかは4KとフルHDが使える。フレームレートはどのコーデックでも同じだ。現時点ではインターレースでの記録に対応しないが、来年6月以降のアップデートで、XAVC(MXF)/59.94iでの記録ができる予定だ。

また同じメディア内にプロキシの収録も可能だ。コーデック及びビットレートは以下のようになっている。

コーデック 解像度 ビットレート HEVC 1,920×1,080 16Mbps HEVC 9Mbps AVC 1,280×720 6Mbps

一方で映像出力のほうは、現時点でもインターレース出力に対応しているので、既存の地上波システムに直結する事が可能だ。本機はSDIとHDMIの2系統が出力できるが、それぞれを個別に設定できるわけではなく、組み合わせがプリセットされている。

SDI HDMI 3,840×2,160p 3,840×2,160p 3,840×2,160p 1,920×1,080p 3,840×2,160p 1,920×1,080i 1,920×1,080p(Lvl A) 1,920×1,080p 1,920×1,080p(Lvl A) 1,920×1,080i 1,920×1,080p(Lvl B) 1,920×1,080p 1,920×1,080p(Lvl B) 1,920×1,080i 1,920×1,080i 1,920×1,080i

Level Bは、まだSDIが1.5Gbps(1080i)だったころに、これを2本束ねて1080pを伝送していた名残である。結線は1本だが、内部ストリーム的には1.5Gずつに別れている。Level Aは最初から3Gbpsとして規定したもので、内部は1ストリームだ。これは受け手側(スイッチャーなど)の仕様に合わせるための仕様である。

Z200特有の出力端子群

操作性としての大きなポイントは、バリアブルNDを搭載したことだ。これはNDに相当する素子に電圧をかけることで透明度が調整できるというもので、2014年のXDCAM「PXW-X180」にフル機能が始めて搭載された。限定的に搭載されたのはその2年前の、サイバーショット「DSC-TX300V」が最初である。

NDがバリアブルになったことで、アイリスと同じように露出調整に使えるようになった。よって本機では、アイリスとバリアブルNDのダイヤルを隣に並べることで、どちらでも露出が追えるよう設計されている。

アイリスとバリアブルNDのダイヤルが並ぶ設計に

アイリスがボディ側面ダイヤルに移行した関係で、レンズ鏡筒部のリングはフォーカスとズームの2リングとなった。三連リングに慣れたユーザーには若干とまどうところだが、シャッタースピードも絞りも固定で露出が追えるバリアブルNDのメリットを理解すれば、納得できるところだろう。

音声入力は4chで、それぞれ内蔵マイクや外部マイクにアサインできる。入力端子は1, 2chがXLR、3chがミニプラグだ。ミニへの入力には「3」としか書いていないが、ステレオ入力の場合はこれを3, 4chに振り分けることができる。

音声入力部

チャンネルへのアサインは自由度が高い

記録系は、1スロットでCFexpress Type AメモリーカードとSDXCメモリーカードに両対応するマルチスロットが2系統。同時記録が可能なほか、グリップの録画ボタンとハンドル部の録画ボタンでそれぞれ別のスロットに記録する事もできる。本線映像はAスロットに、インサートカットはBスロットに記録したり、ハンディ撮影はAスロット、三脚撮影はBスロットといった使い分けだろうか。ここはアイデア次第で色々使えそうである。

CFexpress Type AとSDXCに対応するデュアルスロット

録画ボタンごとに記録先が選択できる

ネットワーク対応も、ここ最近のソニーの動きからすれば当然サポートされている。Ether端子だけでなくWi-Fiも搭載しており、ネットワークに繋いでRTMP/RTMPSやSRTでライブ配信ができる。ただし配信機能は、メモリーカードへの2枚同時記録とは両立できない。

ストリーミング配信にも対応

クラウドへの自動転送もサポート

またポータブルデータトランスミッター「PDT-FP1」と接続することで、同社のクラウドサービス「C3 Portal」や、クラウドスイッチャー「M2 Live」にもライブ配信できる。

オールマイティに撮影できる

それでは早速撮影してみよう。本機はSDRとHDR切り換えができるが、今回は放送用途を意識して、SDRでの機能にフォーカスする。

映像規格としては、カスタム、SDR、HDRに切り替え可能

シーンファイルでガンマカーブなどの設定が保存できるようになっている。SDRでのプリセットとしてはS-Cinetone、ITU709、709toneの3つがあり、全体で16個までシーンを保存できる。カメラ内で凝ったシーンを作りこむというより、マルチカメラでのトーンを合わせるといった使い方がメインになるだろう。

シーンファイルは16個まで保存できる

3つのプリセットを比べてみたが、ITU709は色味もコントラストもシャッキリしている一方で、S-Cinetoneは青み方向へ寄せつつもディテールをはっきりさせたトーンであることがわかる。709toneはコントラストを抑制気味にして中間の階調を稼ごうという傾向が見られる。4K/59.94pでシャッタースピードは1/60固定の709toneで撮影している。

S-Cinetone

ITU709

709tone

まず20倍の光学ズームだが、ロッカーを使って滑らかなズーム動作も可能で、画角のバリエーションは相当自由度が効く。レンズ一体型設計だからこそできる倍率とキレであろう。

ワイド端 24mm

テレ端 480m

また撮像面は1インチしかないが、長い焦点距離を活かした背景ボケもそれなりに作れる。バリアブルNDで自在に光量が下げられるので、晴天でも絞り解放にできるからだ。ベタッとしたパンフォーカスから浅い被写界深度まで、いろんな絵が作れるカメラだ。

4K/59.94pで撮影したサンプル

人物へのAFは、人物限定か人物優先を選択できる

このタイプのカメラでは、ハンディ撮影もそこそこの頻度で発生するわけだが、グリップに手を通して固定したときのバランスは良い。ちょうど重心がセンターに来る感じだ。実際には左手で鏡筒部を持つ事になるが、以前のカメラのように前重ではないためここで重量を支える必要はなく、ばたつかないように抑える感じだ。

LCDモニターは、フードもあるので屋外でも視認しやすい。ビューファインダは、メガネ越しで見る人にとってはちょっと小さいだろう。裸眼で見える人にはまず問題ないと思われる。

着脱式のモニターフードも付属

ただ「BP-U70」のような大型バッテリーを取り付けるとかなり出っ張ってしまうので、ビューファインダを覗くとアゴが当たる。ビューファインダは引っぱって伸ばせるわけではないので、ビューファインダ中心で撮影したい人はバッテリーサイズにも気をつけたいところだ。

大型バッテリーを装着するとビューファインダよりも出っ張る

手ブレ補正も搭載しているが、光学のみのスタンダード、電子補正を組み合わせたアクティブの2タイプのみだ。アクティブ補正はかなり強力で、このあたりもやはりレンズ一体型の良さが出ている。

手ブレ補正のテスト

ただアクティブ補正を入れると、画角は1段詰まる。ワイド端で撮りたい場合は、少し後ろに下がる必要がある。

補正なし、スタンダード補正の画角

アクティブ補正の画角

内蔵マイクの性能も見ておこう。マイクは1~4chまで自由にアサイン可能で、風音低減機能も各チャンネルごとに設定できる。カメラとの距離はおよそ1mだが、感度は悪くない。ただ風音低減をONにすると低音がカットされ、音が堅くなるのがわかる。昨今の編集ツールではAIを使った音声のノイズ処理も盛んだが、やがてはカメラがリアルタイムでノイズ低減してくれる日も来るだろう。

内蔵マイクのテスト

シンプルなオペレーションで多彩な撮影

本機は解像度やコーデックに対して細かい制限がなく、いつでもだいたい同じ機能が使えるというのがポイントだ。ハイスピード撮影でも、元々どの解像度でも119.88fpsで撮影できるので、システムのフレームレートを変えることでスピードが変わるという、シンプルな設計だ。例えば59.94pで119.88fps撮影すれば1/2スローだし、23.98pで119.88fps撮影すれば1/5スローになる。

今回はこの両方で撮影してみたが、システムのフレームレートを変更すると再起動がかかるものの、どのスピードでも4K解像度で撮影できる。逆に言えば、1980にしたからといってさらにスロー倍率が上がるわけではない。

ハイスピード撮影のテスト

夜間撮影に関しては、赤外線ライトを照射して撮影できる「ナイトショット」を備えている。赤外線ライトは、グリップ部正面のSONYロゴの右肩のあたりに埋め込まれている。

ナイトショット時の赤外線ライト

従来の赤外線撮影は緑っぽい映像になっていたが、今回は切り替えで白黒でも撮影できる。またナイトショット撮影でもAFがきちんと動作するところもポイントだ。

映像の色も白黒が選択できる

今回は通常撮影と撮り比べてみたが、通常撮影の増感はノイズが目立たない+18dBまでに抑えている。機能としては最大+36dBまで増感可能だ。なおナイトショットでは、シャッタースピードや絞り、ISO感度は自動的にオートに設定される。

通常撮影とナイトショットの比較

撮影日は月明かりもないので、さすがに+18dBでも暗いが、ナイトショットは何があるのかわかる程度に明るく撮れている。SNよりも映っていることが大事というシーンには重宝するだろう。また夜間にカラー撮影する前に、余計なものが入っていないかの画角チェックとして使ってもいいだろう。ボタン一発でON/OFFするので、今の設定を壊してしまう心配もない。

本機に搭載されたスペシャルな機能としては、AIによるオートフレーミング機能がある。これは画面内の人間を認識して、適度なサイズにクロップして出力、あるいは記録する機能だ。カメラを固定しておくだけで、まるでカメラを誰かが振っているような効果が得られる。

オートフレーミングの設定画面

ソニー製カメラで最初にこれが搭載されたのはVLOGCAMの「ZV-E1」で、その時も同じ機能をテストしている。

クロップサイズとしては小・中・大の3サイズがあり、またフォロー感度も1~5の5段階で設定できる。今回は3でテストしている。また顔や骨格が隠れても追従できるかのテストを兼ねて、モデルさんには一瞬木の陰に隠れるように動いて貰っている。

オートフレーミングのテスト

撮影中は顔認識している様子がモニター上に表示されるが、顔が隠れると顔認識も外れている。だがこれぐらいの時間なら特に問題なくフォローが続けられるようだ。一方で完全にフレームアウトしてしまうと、どこか明後日の方向にフレームが動いてしまう。

同様のオートフレーミング機能「被写体トラッキング」を搭載したDJIのOsmo Action 5 Proでは、人がいなくなるとゆっくりフレームがセンターに戻っていた。こちらのほうが絵面としては辛くないし、またフレームに人が入ってきたときのフォローも自然だ。本機でもフレームアウトしたときの挙動を落ち着かせるよう、アルゴリズムの工夫がほしいところだ。

なおクロップした映像とフル映像は、メディア記録とHDMI出力に自由に振り分けすることができる。メディア側にはフル映像、HDMI側での外部収録はクロップ画像にしておけば、ライブではクロップ画像を使っておいて、あとで編集する際には収録したフル画像から自分で切り出してはめ込むといった使い方ができる。

クロップ画面か全画面かは記録系とHDMIで別々に選択できる

総論

久々の業務用カムコーダの登場となったわけだが、PXW-Z200はコーデックや解像度の違いによる変な制限もなく、用途や目的に応じてきちんとフォーマットを選択できる、余裕のある作りになっている。現時点では1080iの収録ができないが、すでに地上波の編集ではインターレースでもプログレッシブでもあまり意識せずに混在できるようになっているので、現状でもそれほど不便はないだろう。

EtherやWi-Fiでネットワーク配信にも対応した点は、ネット配信にも配慮した作りとなっている。またクラウドへの接続という点では、テレビ番組のクラウド制作も睨んだカメラという事になるだろう。SDIやHDMI出力を飛び越えてネットへ繋がるわけである。

その点では、SDI出力を持たない代わりに15万円安い「NXR-NX800」のほうが、ネットワークカメラ的な性格が強い。今回テストした機能はすべて同様に使える。

今回はマニュアル撮影でテストしたが、このシリーズのカメラのポイントは、スイッチ一発でフルオートに切り替わる事である。何が起こるかわからない現場で、「今すぐアレ撮って!」と言われたらバチコーンとフルオートに切り替えて対応できる強さがある。

若い映像クリエイターの中には、最初からデジタルカメラしか使ったことがない人もそろそろ出てきていると思うが、完成されたカムコーダの柔軟性は今もなお必要とされている。こうした気が利くカメラが出せる元気があるメーカーも、だんだん少なくなってきた。