ティアック「UD-507」

オーディオにおいて、音を左右する重要な要素であるDAC。だからこそ、音の良さだけでなく、理想の音へ追い込めるポテンシャルの高さも欲しくなるわけだが、「まさにコレだ」という1台に出会った。ティアック、Reference500シリーズのUSB DAC/プリアンプ/ヘッドフォンアンプ「UD-507」(327,800円)だ。

TEACは、1953年に東京都三鷹に設立された東京テレビ音響株式会社が元となっている。同社は1964年に東京電気音響株式会社と合併、現在のティアック(TEAC)となった。レコードが主流だった時代にテープデッキ「TD-102」を発売、さらには世界初の標準カセットMTR「TEAC 144」を発売するなど、民生用・業務用ともに幅広く製品を展開してきた。

筆者は、自宅録音をはじめた2000年代~現代にかけて、TEACの業務用ブランドであるTASCAM製品を長く愛用。初心者に優しい価格や説明書、安定した動作、癖のない音色に助けられてきた。現在もクロックジェネレーターの「CG-1000」をオーディオインターフェースと接続して活用している。

UD-507は、USB DAC搭載ヘッドフォンアンプ「UD-505-X」の上位モデルにあたる。最上位機種としてReference 700というシリーズがあるが、こちらに搭載されたディスクリートDAC「TRDD 7」をベースに、音質を吟味した集積部品を使うことで、回路基板を小型化および最適化したのがUD-507だ。TEACのハイエンドブランドであるエソテリックのMaster Sound Discrete DACと技術要素は共有しつつも、ブランドごとに設計を行なっているという。

ティアック「UD-507」

コンパクトでも多機能

UD-507は、ヘッドフォンアンプ内蔵のUSB DACの“ミドルハイエンド”として、ふさわしい特徴を多数持っている。

USB DACとして、USB Type-B(リア)、Type-C(フロント)の2系統を用意。さらに、同軸/光デジタル各1系統、Bluetoothの受信もでき、計5系統のデジタル入力を備えている。RCA/XLR各1系統のアナログ入力も搭載しているので、プリアンプとしても使える。

背面

対応フォーマットは、PCMは最大384kHz/32bitまで、DSDは 22.5MHzまで。MQAデコーダーも搭載し、MQAフルデコードに対応する。Bluetoothは4.2準拠で、コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、LHDC、LDACをサポートする。

ヘッドフォンアンプとしても使え、6.3mm標準と、バランス対応のXLR 4ピン、4.4mm 5極のヘッドフォン出力がある。ライン出力はXLRとRCAの2系統。外部マスタークロック信号と同期可能な10MHz外部クロック入力にも対応している。

10MHz外部クロック入力にも対応

ヘッドフォン出力は6.3mm標準と、バランス対応のXLR 4ピン、4.4mm 5極

これだけの基本機能を備えながら、外形寸法は突起部を含めて290×249×85mm(幅×奥行き×高さ)、重さは4.9kgと、高級機としてはコンパクトかつ軽量にまとめているのも魅力的だ。実際に筆者も机の上から、別の部屋のオーディオラックとあちこち設置したが、一度置いたら移動するのが億劫、なんてことにはならない。

この他にも

低位相雑音が特長の44.1kHz系と48kHz系の2種類の専用クロックを搭載 D/Aコンバーター部、アナログ出力段まで一貫したデュアルモノラル構成の回路を採用 アナログ回路用とデジタル処理基板用に、各1基のトロイダルコアトランスを備えて、電源部をセパレート 最大出力1,200mW+1,200mW(バランス接続、100Ω負荷時)にもおよぶ、ハイパワーなヘッドフォン出力を実現した電流伝送強化型出力バッファアンプ「TEAC-HCLD2」 左右・正負に独立した4回路構成の可変ゲインアンプ型ボリュームを使った「TEAC-QVCS」をオーディオ信号経路上に配置し、信号劣化を防ぐ

などなど、音質を高める工夫が随所に凝らされている。他にも紹介したい機能があるので、本文中で適時つまんでいきたい。

UD-507のウリは、なんといっても独自開発のディスクリートDAC「TRDD 5」だろう。USBを含む全てのデジタル信号は、独自アルゴリズムを搭載したFPGA内のΔΣモジュレーターで64bit/最大512fsで処理し、1チャンネルごとに16個のエレメントを通って、アナログ信号に変換される。DSD信号はそのまま、PCM信号はΔΣモジュレーターで1bit信号に変換してからアナログ変換することも可能だ。

「16個のエレメント」と聞いて、筆者は精密抵抗を用いたR2R方式のDACが思い浮かんだ。DACの方式は、R2Rを代表とするマルチビット型と1bit型に分類される。TRDD 5は、大別すると1bit型のDACだ。1bit型 DACは、マルチビット型に比べてエレメント数を少なく、最小1エレメントから設計できるのがメリットである反面、時間軸の分解能でオーディオデータを表現しているため、クロック信号に対してシビアに音質が影響される。対するマルチビット型は、音量レベルの分解能でオーディオデータを表現する。

マルチビット型と1bit型の良さを併せ持つのが、マルチレベルΔΣ型となり、TRDD 5もこの方式を採用した。前述したとおり、設定を変えれば1bitΔΣ方式で動作させることも出来る。

1パッケージ8エレメントの構成で、クロックジッターに強い設計とし、+/-計2パッケージをディファレンシャルで動作させることで、S/Nを向上させたという。

高級感のある筐体、天板にも注目

続いては外観のチェックだ。箱を開けて製品を取り出すと、見た目よりずっしりとした本体にワクワクする。700シリーズのような両脇のハンドルがTEACの高級製品らしさを醸し出していてニンマリ。あくまでイミテーションと思われるので、ここを持っての運搬はやめた方がいい。

OUTPUTのボタンは、各出力を選択して、その他の出力からは信号を出さない設定もできる。ヘッドフォンを挿しても、OUTPUTで4.4mmなら4.4mmを選んでないと音が鳴らない。逆にラインアウトも、ヘッドフォンを抜いたところで勝手に切り替わらないので、XLRならXLRでOUTPUTを設定しておく必要がある。

USB-Cの入力は、フロント側にある。これはスマートフォンやタブレットを接続してもいいだろう。試しにサードパーティー製のLightning変換ケーブルでiPhone 12 miniを接続してみたが、問題なく再生できた。USB-Cポートを備えたスマートフォンとは、USB-C対応のOTGケーブル経由で接続および動作が期待出来るだろう。

USB-Cの入力はフロントパネルにある

バックパネルのIN/OUTは、配置が片チャネルごとに入出力が隣同士と、見慣れない配置で接続時にちょっと戸惑った。個人的には、入力は入力、出力は出力でLRを隣り合わせて配置してもらえると分かり易い。

配置が片チャネルごとに入出力が隣同士になっている

リモコンは、設定メニューに入り込んで変更する機能をワンボタンで操作できる。アップコンバートと、DSD ローパスフィルターがそれだ。電源コードは太めの2Pタイプが同梱されている。ACインレット側は、3ピンでアースラインも存在する。

付属リモコン

本体底面には、底板とフットとの接合に遊びを持たせた新機構の「Stressless Foot v2」が3つ。いわゆるハイエンド機器などで見られる3点支持を採用している。本体を机の上に置く際は、遊びのためガチャガチャと音が鳴る。最初は、ちょっとおっかなびっくりだが、置いてみると安定するしすぐ慣れた。基板の固定ねじを最低限とすることと併せて、音質に影響を与える振動をコントロールしているとのこと。

脚部

なお、2.8mm厚のトップパネルはセミフローティング構造を採用しており、直接天板をネジ留めせず、サイドパネルで挟んで自重で上に乗るような設計になっているそうだ。これは音の解放感を引き出すための工夫とのこと。天板を触るとカタカタ音が鳴るが、意図的な設計であり、製品に問題は無い。

天板を触るとカタカタ音が鳴る

一味違うアップコンバート機能、細かな設定が可能なのも魅力

音質のインプレッションの前に、興味深い設定・機能を3つ紹介したい。

「XLR 出力レベル」は、0dB(初期値)と+6dBが設定出来る。RCAとXLRのライン出力(固定レベル)は、デフォルトでXLRのレベルがRCAより高く設定されていることも少なくない。その上で、0dBと+6dBの違いはどう使い分けるかというと、0dB=最大2Vrmsと+6dB=最大4Vrmsという仕様から検討するといいだろう。4Vrmsという値は、バランスラインの標準的な出力レベルではないだろうか。また受け側の機器としても、XLR/TRSの入力で4Vrmsなら歪むことは考えにくいと思う。心配であれば、アンプの仕様を確認しよう。

筆者のプリメインアンプ「L-505uXII」は、XLRの最大許容入力は6Vrmsとのことだった。4Vrmsなら十分に余裕がある。とはいっても、再生するソースがよほど特殊でない限り、常に4Vrms出ている訳はないのだが、ラウドな曲で歪むなら0dBに設定しよう。ちなみにRCA出力は最大2Vrmsだ。

「ラインパススルー」は、実に気が利いた機能だ。AVアンプのプリアウトをRCAで本機に接続すれば、AVアンプ側で音量調整した出力レベルのまま、本機のボリュームはバイパスし、後段のパワーアンプなどに送ることが出来る。また、アンプ側が1系統のXLR入力しか備えていなくて、XLR/TRS出力の製品をもう1台加えたいとき、UD-507をプリアンプとして活用する方法もある。

3つ目は、RDOT-NEO(Refined Digital Output Technology NEO)による「アップコンバート機能」と、「DELTA SIGMA Fs」設定の違いを説明しよう。

前者は、いわゆる言葉通りのアップコンバートに留まらない。本機はそれに加えて、フルエンシ―関数を応用したRDOT NEOアルゴリズムにより、補間データを演算し波形を滑らかに繋ぐという。2Fs/4Fs/8Fsと設定が可能で、8倍アップコンバートであれば最大384kHzまで変換する。OFFに設定すると、アップコンバートは行なわれず、いわゆるNOS(ノンオーバーサンプリング)で動作するのでNOSが好きな方も安心だ。なお、本設定はPCMフォーマットでのみ有効となる。CDフォーマットの音源などに使用すると、立体感や倍音が補完された。

後者のDELTA SIGMA Fs は、DACの動作周波数を決める設定だ。製品ページには、「512Fsにて処理を行ない」とだけあるが、実はこの設定も変更できる。具体的には128x/256x/512xの3種類が選択可能だ。例えば、48kHzのPCMフォーマットが入力されたとして本機を128xで動作させると、48kHz×128=6.144MHzとなり、この速さでDACが動作する。512xを選択した場合、TRDD 5 DACの解像度が最大になるそうだ。

アップコンバートとDELTA SIGMA Fsの設定は、それぞれ役割が違うため、併用することが可能だ。アップコンバートは、DAC前段の演算。DELTA SIGMA Fsの設定が関わるのは、DACそのものとなる。

ヘッドフォンで試聴

では、サウンドをチェックしていこう。

デスクトップに設置

まずは、デスクトップに設置しヘッドフォンの音質を聴いていく。PCとの接続は、アコースティックリバイブのUSBケーブル「USB-1.0PL-TripleC」を使用した。ヘッドフォンは、TAGO STUDIO TAKASAKIのモニターヘッドフォン「T3-03」を使う。

Audirvāna Originを立ち上げて、ASIOから「TEAC ASIO USB DRIVER」を選ぶと、本来対応しないはずのPCM 768kHzの表示が点灯している。実際に、Beagle Kickの768kHz音源である「SUMMER VIBE」を再生したところ、タイムカウントは動くが音は出ない。音質がより良くなるカーネルストリーミングモードでは、384kHzが最大の対応フォーマットと表示された。理由はよく分からないが、珍しい現象だ。

768kHz対応DACと表示されるが、音が出ない

カーネルストリーミングにするとバクルペットの表示も出た

本機のバランスヘッドフォン出力(XLR4ピン、4.4mm pentaconn)は、アクティブ・グランド方式が選択出来る。バランス接続の原理でCOLD側(つまり-側)をグランドに接続することで、アンプ回路によって強制的にグランドをドライブして0Vに近づける駆動方式だという。通常のグランドに落とすよりも理想的なグランドを得られるだけでなく、電源から来るハムノイズの影響を抑える効果に加え、ノイズフロアが下がるという。

これをT3-03用の4.4mmリケーブルを用いて試してみた。結論から言うと、これはデフォルトでACTIVE GROUNDで設定してよいと思う。BALANCED(初期値)は、マイナス端子をプラス端子と逆相になるように駆動する差動方式だというが、ACTIVE GROUNDの効果は圧倒的だ。

コンサートホールで録られたライブ録音、40人規模のコーラス隊にカホンとベース、ギター、ボーカルによるバンドものを聴く。BALANCEDでも、6.3mmに比べたらクロストークが激減しているのだが、ACTIVE GROUNDはさらに究極の域に達している感触。空間表現力が極限まで高まると、ホールの空気の動き(対流感)や、かすかな物音まで生々しく伝わってくるようだ。S/Nも向上した。高域にわずかに残った雑味も排除されている。コーラス隊の解像感が上がって、ダマになっていない。ボーカルも中央にビシッと定位するし、リバーブは無駄に膨張しないのも真に迫っている。音像がシャープになることで、ディテールやちょっとしたニュアンスの違いも逃さないで描写してくれた。

飛騨芸術堂で録音されたオーケストラコンサートの音源「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2022」からベートーヴェン/コリオラン序曲を聴くと、ホールの空気感がますます透明度を増しているではないか。生の響きって本当にピュア。グチャッとしてないクリーンな感じ。そうそう! これだよ!って膝を打つ。筆者が聴いた感じ副作用はないので、ACTIVE GROUNDはぜひ使ってほしい機能だ。

続いて、バランス接続のままDELTA SIGMA Fsの設定を変更して試聴してみる。率直に言って、初期値の512xで何の問題も無いと感じた。少なくとも、違和感を覚える類いの“音の変質”ではないと言える。128x Fs⇒256x Fs⇒512x Fsと上げていくと、音が滑らかにアナログ的になるが、いわゆる音がなまってしまったり、輪郭が丸くなることもなく、逆に精密な音像が楽しめる。生楽器やボーカルの質感まで豊かに、生音は生音らしくなるのも感心した。最小の128xだと、ちょっと音がビリビリするというか、直接的過ぎるきらいがあった。最終的には音の好みで選べばよいと思うが、迷ったら512x Fs で固定してもよいだろう。

本機をWindows PC/Macと接続したとき、送信側と受信側の負荷を平均化し、安定したデータ伝送を実現することで音質を向上させる「Bulk Pet」が活用できる。設定の変更はWin/Macともに専用ドライバーのインストールが必要。Windows11では、旧来のコントロールパネルから「TEAC ASIO USB DRIVER Control Panel」を開くと、IsochronousとBulk Petの1~4が設定できる。ドライバーのインストール先のディレクトリから、「TeacAsioCP_bulkpet」のEXEファイルを見つけられるので、それを起動しても同じ画面が立ち上がる。デスクトップやタスクバーにEXEファイルのショートカットを作成してもよいだろう。

旧来のコントロールパネルから「TEAC ASIO USB DRIVER Control Panel」を開く

ドライバーのインストール先のディレクトリに「TeacAsioCP_bulkpet」のEXEファイルがある

先ほど試聴した、40人規模のコーラス隊が圧巻のライブ音源。J-POPバンド、フラチナリズムのグレイテストライフから「ラブソング (2024.6.15 J COMホール仲間大合唱 Version)[ライブバージョン]」をチェック。48kHz/24bitのハイレゾ版だ。筆者は、当日のJ:COMホールでライブを観賞している。本楽曲の編成はベースとアコギ、カホン、そしてボーカルというシンプルな構成だが、フラチナリズムに縁のあるシンガーたち総勢41人による男女混声五部合唱が聴きどころとなる。

最初は、Bulk Pet 1。トランジェントが改善。音場の空間が広くなる。ベースの輪郭が彫り深く緻密に描かれる。コーラスは音の粒が鮮明に生っぽく変化した。Bulk Pet 2は、傾向は1と同じで、高音域がややブライトに感じられる。当日味わった、J:COMホールのエアーボリュームを最もリアルに味わえるのがBulk Pet 1と2だ。

Bulk Pet 3は、1や2と比べると、ゆったりしたトランジェントに変化。クラシックやスローテンポのジャズ等に合うと思う。Bulk Pet4は、傾向は3と同じで、高音域がややブライトに変化した。あまり分析的に聴きたくない人は、1より3を選ぶのがお勧めだ。

なお、Isochronousに設定すると、ボーカルやコーラスはのっぺりとした平面的な音になり、ベースとその他の分離も思わしくない。ホールの空気感もレベルダウンした。端的に言えば、「いかにもデジタル録音した音源」って評価が出てくる。48kHzってこんなもんだよね、と。

Bulk Pet 1~4は、転送パターンを変えることで、処理負荷にバリエーションを付けているそうだが、帯域バランスがナチュラルで、トランジェントは改善し、音像がより精密に描かれるBulk Pet 1が個人的はスタンダードかなと思う。

筆者が使っているUSB DACからRCAケーブルを外して、UD-507に接続。パワーアンプのFX-1001Jx2でControl 1 PROを鳴らしてみる。中低域が大幅にエネルギッシュに、余裕を持って鳴っているのはすぐに分かった。解像度が高く、音が生き生きとしている。音量変化に非常に忠実なことも嬉しいポイント。大きい音の直後の小さい音など、特に弱音の再現性に優れている。聴感上のダイナミックレンジが明らかに広くなった。そこまで低音が出てない安価なスピーカーで再生しても、筆者の手元のDAC(実売5万円程度)との違いは歴然だ。

防音スタジオでさらに細かくチェック

防音スタジオに移動

次は、防音スタジオに持ち込んで、アンバランス接続と、バランス接続の違いを確かめて見る。T3-03の同梱品である3.5mmステレオケーブルと、別売のメーカー純正4.4mmリケーブルを使った。6.3mmへの変換プラグは、音色に癖がなく、音質が向上するフルテックのF63-S(G)を使用した。T3-03は、音楽的な楽しさとモニター機としての正確さを両立する大ヒットモデルT3-01をベースに、モニター用途に振り切って開発したヘッドフォンと筆者は捉えている。モニター機らしく音が近くに感じられ、軽量設計のため快適性も配慮されている。

ソース機器は、NASにSoundgenicの1TB SSD版。ネットワークトランスポートにスフォルツァートのDST-Lacertaを使用した。UD-507はDST-LacertaにUSBケーブルで接続している。
TAGO STUDIO TAKASAKIで録音された、ピアノ・サックス・トランペットのジャズトリオ、リトル・ドーナツのHAPPY TALK、11.2MHzを試聴。ヘッドフォンゲインは、LOWで設定した。ゲインは3段階あるので、ボリュームをある程度上げて、まったく音量感が足りないと思ったら、ゲインを上げればいいと思う。

アンバランス接続

まず、アンバランスで聴くと、特に問題は感じない。ヘッドフォンサウンドも一切妥協せず、ライン接続と比べてもどっちが推しという区別なく作り込んでいることが分かる。

4.4mmバランス接続にすると、TAGO STUDIOの空間が、空気がそこにある……と感動してしまった。実際に取材で入ったことがある空間なので、余計に感動した。クロストークが改善したお陰で、定位と音場の再現力がグッと上がっている。トランペットとサックスの位置関係がぼんやりではなく、はっきりと分かるのだ。特に若干センターに寄るトランペットの定位は、再現が難しいと思うのでそこをヘッドフォンで克明に鳴らしてきたのには感嘆のため息を禁じ得ない。

4.4mmバランス接続

TVアニメ「葬送のフリーレン」のサントラから「Zoltraak」を試聴。ハンガリーのスコアリングスタジオで録られたオーケストラは、生の響きの余韻がクリーンで、空気感もより一層豊かに感じられる。パーカッションは、音の粒立ちに優れ、リズムのキレも良くなったと思う。

先ほども試聴した「ラブソング」の仲間大合唱 Versionを聴いてみると、バランス接続は、コーラスの解像感が上がって、一人一人の声が注意しなくても耳に入ってくる。観客の拍手とコーラスの分離もいい。

アンバランス接続で聴くと、少しだけうるさく感じた。音数が多くて、ゴミゴミ感がどうしてもある。センターのボーカル定位も曖昧というか、ボヤける印象だ。コーラス隊も手でギュッと握り込んだ肉団子の塊みたいに、シンガー1人1人を捉えにくい音になってしまった。アコギの高域には少し歪み感もある。

UD-507クラスのDACを購入する方で、バランス接続対応のヘッドフォンを持っていない方はおそらく少数だと思うが、この極上サウンドはぜひとも体感してほしい。新規でリケーブルを買ってもいいくらいだ。筆者の場合、T3-03のバランス接続の音を聴いたのはこれが初だったので、オーディオインターフェースと接続するTRS受けのアナログヘッドフォンアンプが欲しくなってしまったほど。

DSD 5.6MHzでも同時録音したジャズの一発録りBeagle Kick「SUMMER VIBE」で、DSD向けのLPFの設定を試す。OFFと、FIR1~3が選択出来る。OFFは、S/Nがわずかに悪くなり、高域が若干きつめだが、純度はNo.1だ。FIR1は、最もトリートメントされたDSDという印象。S/Nが向上し、高域もマイルドになった。逆に言えば、クリーン過ぎる感じもした。DSDのいい意味で音が汚れているあの感触がない。FIR2は、カホンやトランペットの高域の伸びが良くなり、いい意味の汚れた感じも加味された。FIR3にすると、高域はほぼ変わらないが、DSDのいい意味でゆるい感じ、滲んでるような感触が聴き取れる。鋭すぎないトランジェントだ。FIR(有限インパルス応答)の1~3は、詳細は非公開ということだが、伝送関数は同じで、パターンを変える事により音色に変化を付けているそうだ。

続いて、ラインアウトの音もチェックする。思っていた以上に、XLRとRCAの音質は大きかった。ともにアコースティックリバイブの同一クラスの線材を使ったケーブルで比較したので、なるだけフェアにチェックしている。接続したラックスマンのプリメインアンプは内部的にアンバランスのアンプだが、UD-507側の信号を出力までフルバランスで通過させることが肝要なのだろう。分離感、クロストーク、サウンドステージの深さ、混濁の無さが格段に良くなっている。たとえ、音数が多い楽曲でも見通しがよく、音場全体の風通しが良い。弱音は意識を向けなくても、スッと耳に入ってくる。

XLRとRCAの音質の違いもよくわかる

使いこなしでさらに追い込める

最後にアクセサリーの使用例を紹介しよう。

まず足場の対策だ。インシュレーターは素の状態でも素晴らしいので、まずはそのままラックや机に設置してみてほしい。オーディオボードや専用ラックに置いてない場合、使うのであれば、あまり素材のクセが乗らないインシュレーターがいいと思う。筆者は、ヒッコリーボードのラックを使っているが、棚板自体に制振対策は施されていないので元々のUSB DACで使っていた「RKI-5005」を試してみる。さらに地に足のついた音に変わって、音像のボヤけは完全に消え去った。余韻の少ない打ち込みトラックなどはフォーカスがさらに正確かつシャープに決まる。響きやサステインの長い曲は、そのグラデーションに濁りがない。足場の対策ひとつで、まだ変わる余地はあるようだ。

RKI-5005

次に電源ケーブルを交換してみる。試しに、サブウーファーに使っている自作ケーブルを使ってみた。ケーブル部分はPOWER STANDARD-TripleC8800、プラグとインレットはフルテックの無メッキだ。全帯域に生気が宿り、瑞々しい楽器音にハッとする。わずかに音が細かったボーカルも、生音のような自然な帯域バランスと有機的な質感へ変わった。クリアでピュアな打ち込みや電子楽器の音色も存外心地いい。聴感上のS/Nは向上し、わずかに感じられた雑味や付帯音も一層されている。余裕があれば、ケーブルも交換してみると面白いと思う。

ここまで豊富な機能を試しながら、製品の魅力を紹介してきたが、最も肝心な音のクオリティについて、最後にまとめておこう。

国産ブランドの高級機として、音色に特定の個性はなく、真面目で実直、音楽にとことん寄り添う、普遍的な魅力を備えている製品だと感じた。ディテールの表現力や、時間軸精度の高さを活かしたサウンドステージのリアリティ、高級機の底力を感じられる余裕のある中~低域のエネルギー感、繊細で躍動感に溢れたダイナミクスなど、「録音音楽ってまだまだ聴いてない世界があったんだ」と気付かせてくれた。

国産ブランドで、高級機ながらもコンパクト。音や機能性にこだわるマニアも楽しめる機能の数々と合わせて、じっくり使い込むほどに愛着の沸く大切な1台になってくれるはずだ。