『極悪女王』配信記念イベントで、作品のモデルとなったダンプ松本氏とポーズを決めるゆりやんレトリィバァさん(画像:YouTube「Netflix Japan」チャンネルより)

9月19日から配信が始まっているNetflixドラマ『極悪女王』が大きな話題を集めている。

1980年代に大人気を博した女子プロレスのドラマ化と言えば、話題性十分のように見える。しかし、当時の熱狂を知らない若い世代にとっては「過去の出来事」ととらえられかねない。

ドラマを視聴すれば、質の高さ、面白さは実感できるのだが、その前から話題を盛り上げていたのが、ドラマの「配役」である。

クラッシュ・ギャルズを演じるのが、女優の剛力彩芽さんと唐田えりかさん。ダンプ松本を演じるのが、お笑いタレントのゆりやんレトリィバァさんである。このお三方は、地上波放送ではあまりお見かけしなくなった人たちであったと言える。

本ドラマは、1980年代の女子プロレスのリング上の戦いを描いているが、現在の女優たちの復帰の戦いのドラマが重なっている。ドラマの視聴者だけでなく、多くの人たちは、現在進行中の実世界でのドラマにも注目しているのだ。

『極悪女王』を彩る女優の“過去”

剛力彩芽さんは、2018年にZOZOの社長(当時)前澤友作さんとの熱愛が発覚、2020年には所属事務所のオスカープロモーションを退社し、個人事務所として独立し、活動を続けている。しかしながら、地上波放送をはじめとして、あまりメディアで見かけなくなっていた。

唐田えりかさんは、2020年に俳優の東出昌大さんとの不倫が報じられ、1年半の休業を経て、俳優として復帰。現在は日韓で活動しているが、日本国内では、大きく注目されてはいなかったし、相手側の東出さんの離婚、再婚の報道も出て、「不倫した過去」が何度も蒸し返される状況が続いていた。

ゆりやんレトリィバァさんは、不祥事、スキャンダルはないものの、メディア露出の面では苦戦していた感がある。ゆりやんさんは、女性芸人を対象とする「THE W 2017」と「R-1グランプリ 2021」で二冠を達成しており、実力は折り紙付きだが、その尖った笑いは一般視聴者から理解されにくく、SNSで「面白くない」と言われてしまうことも多々あった。

今年の5月には活動拠点をアメリカに移すと発表したが、中には「日本で売れないから……」といった心ない言い方をする人もいた。

この3人は、いずれも『極悪女王』で高い評価を得ている。特に、SNS上では叩かれて続けてきたのだが、その論調も変わりつつある。なぜここまで評価が一変したのだろうか。

そこまで批判される必要があったのか

剛力さんは、前澤さんとの熱愛が発覚する前から、「事務所のゴリ押し」と叩かれることが多かった。真偽はさておき、デビュー間もなくからメディアに多く露出していたため、「実力がないのに出まくっている」と見ている人も少なからずいた。

前澤さんとの恋愛にしても、両者とも既婚者ではないので、不適切な関係では一切ない。前澤さんが「お金持ち」として知られ、物議を醸すような言動を取っていたこともあり、剛力さんも格好の標的となった面はあるだろう。

事務所退所後に地上波で見かけなくなっていったのも、「事務所の力で売れていた」というイメージを定着させてしまうことになったように思える。


作品への思いを語る、剛力彩芽さん(画像:YouTube「Netflix Japan」チャンネルより)

一方の唐田えりかさんは、不倫行為ではあるので、一定の批判を受けるのはやむをえないかもしれない。東出さんと、元妻の杏さんはともに人気の俳優であり、かつ「理想の夫婦」のように思われていたこともあって、唐田さんが「幸せな家庭を壊した」という言われ方をしていた。

ただ、不倫は当事者の問題だ。いつまでも第三者が首を突っ込んで叩くことでもないだろう。

『極悪女王』は最高の復活の場であった

俳優たちの現状を鑑みると、結果論かもしれないが『極悪女王』は最適な復活の場だったように思える。

Netflixは有料サービスであり、広告で成り立っている地上波テレビ放送と比べて、コンプライアンスが厳しくない。そのため、不祥事やスキャンダルを起こした俳優を起用しやすいし、起用しても叩かれづらい傾向がある。

2019年に麻薬取締法違反容疑で逮捕されたピエール瀧さんは、地上波放送には出ていないが、Netflixドラマには多数出演している。

さらに『極悪女王』の出演者はオーディションで選ばれている。事務所の力が働きづらいし、選ばれた時点で、「実力が評価された」と見なされやすい。

Netflixドラマは、出演料も高い反面、拘束時間も長いと言われている。忙しい俳優は仕事を受けにくいが、時間が取れる俳優にとっては、時間をかけて役作りもできる。

剛力さんや唐田さんが、恋愛ドラマに出演したとすると、過去のイメージに引きずられるだろうし、これまでの延長線上だと、実力も認めてもらいにくい。ゆりやんさんも同様で、お笑いの世界で何かやろうとしても、過去のイメージと評価が邪魔になる。

女子プロレスラーの役を演じるのは、身体的にも心理的にも難しかっただろうし、世間からは「捨て身」という見方もされたのだが、それを見事に演じ切ったことで、新たな地平が見えてきたように思う。

「捨てる神あれば拾う神あり」ということわざがあるが、いまはNetflixが地上波から姿を消した俳優たちにとって「拾う神」となっているように思える。コンプライアンスは重要だが、過剰にクリーンな社会が健全かと言うと、疑問が残る。

Netflix以外にも“拾う神”が複数あってもいいと思うし、地上波テレビ放送も、もう少し寛容になってもいいのではないだろうか。もっとも、そのためには視聴者こそ寛容な心を持つ必要があるのだが……。


長与千種さん役を演じた唐田えりかさんは、作中で頭を丸刈りにしたという(画像:YouTube「Netflix Japan」チャンネルより)

復帰を決める「6つの条件」

他にも“表舞台”から消えた俳優が本格復活する動きが徐々に見られるようになっている。

元NEWSの手越祐也さんが、日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」に4年ぶりに復帰することが報じられている。

女性へのセクハラ行為で自粛していた香川照之さんは、舞台のみ活動再開をしていたが、最近NHKで過去の出演作『坂の上の雲』が再放送された。テレビドラマへの復帰が進んでいると言われている。

闇営業問題で、活動自粛、吉本興業を退所した、お笑いタレントの宮迫博之さんも地上波復帰の報道が出ている。

芸能活動を復帰できる人、復帰できない人の違い、さらには復帰できても人気が回復する人としない人の違いはどこにあるのだろうか。

実は、“干される”基準にも、復帰できる基準にも明確なものがあるわけではない。ある俳優は不倫してもおとがめなしなのに、別の俳優が同じことをすると表舞台に出てこれなくなった――ということは多々起こっている。

不公平にも見えるのだが、復帰を認めるか否かは、下記のような複数の要素を加味して検討する必要がある。

1:起こした問題の深刻さ

2:問題の解決状況と、他の問題の有無

3:(問題を起こした人の)反省状況と再発可能性

4:世の中のニーズ(需要があるかどうか)

5:業界内(芸能界、エンタメ業界)の慣行・環境

6:復帰への過程、手続きの適切さ

『極悪女王』の例では、俳優はさほど深刻な問題は起こしていないので、1〜3は大きな問題にはなっていない。4についても、恋愛ドラマならさておき、今回の女子プロレスをテーマにするドラマで新たな市場を見つけることで新たなニーズの創出ができている。

Netflixは芸能界の慣行にとらわれることも少なく、有料放送で視聴者も限定されるため、批判も浴びにくい。

ちなみに、香川照之さんも歌舞伎ではすでに復帰しているが、歌舞伎界は不祥事に寛容である。実際、市川團十郎さんは、襲名前の海老蔵時代に暴行事件や不倫事件を起こしているし、中村芝翫さんも何度も不倫報道されているが、舞台から干されることなく、活動を続けることができている。

やり方を間違えると復活できない

手越さんの「イッテQ」への復帰でささやかれているのが、ベッキーさんの同番組復帰だ。ベッキーさんは、2016年にロックバンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル・川谷絵音さんとの不倫が発覚し、レギュラー番組、出演CMを相次いで降板になった。一時、芸能活動を休止していたが、同年中に活動を復活している。

しかしながら、現在に至るまで、出ずっぱりだった不倫発覚前のようなメディア露出はなく、当時ほどの人気も戻ってきているとは言い難い。ベッキーさんは「イッテQ」のレギュラーだったが不倫報道後に降板となり、8年経つ現在になっても復帰していない。手越さんとは対照的だ。

ベッキーさんが過去にテレビ番組やCMに引っ張りだこだったのは、すべての世代からの好感度が高く、スキャンダルとも無縁だったからだ。不倫報道はこれまでのベッキーさんの清純なイメージを破壊することになった。

加えて、事後対応にも問題があった。川谷氏とやり取りしたLINE画像が流出して「友人関係」で押し通そうとしたことが明るみになり、釈明が無効となってしまった。これによって、「ウソをついた」という烙印まで押されてしまい、誠実なイメージまでも崩れてしまった。騒動は長引き、「ゲス不倫」が流行語になった。

プライベートでは、ベッキーさんは元巨人コーチの片岡治大氏と結婚し、二児をもうけているが、「ママタレント」の地位を築こうとしても、過去の不倫騒動が蒸し返されてしまっている。

残念ながら、ベッキーさんが過去と同じポジションに就くことも、今回の剛力さん、唐田さんのように新たなポジションを獲得することも、現在までのところ叶ってはいない。「復帰」はしたが、「復活」はできていないというのが実態だ。

最近の不倫の事例で言えば、声優の古谷徹さんの降板が挙げられる。今年の5月に古谷さんの不倫報道があったが、不倫だけでなく、妊娠・中絶・暴行の報道もなされた。その後、相次ぐ降板ラッシュが起きたが、つい最近でも「ドラゴンボール」シリーズのヤムチャ役を降板することが発表された。

声優は、顔や名前が表に出る機会は少ないため、俳優と比べると不祥事の影響は少ない。

2021年に不倫が発覚した声優の鈴木達央さんは、歌手のLISAさんの配偶者だったこともあり、大きな話題になった。降板にもなったが、配偶者のLISAさんとも離婚することなく和解し、声優活動は続けられているし、それによって大きな批判を受けてもいない。

古谷さんの場合は、知名度の高さや、不倫以外の行為の深刻さ、アニメを視聴する子どもたちに対する影響を考えると、相次ぐ降板はやむをえなかったと思う。今後どうなるかは何とも言えないが、古谷さんの後任の声優の声が視聴者に定着してしまうと、再度古谷さんに切り替えるのもハードルが高いかもしれない。

俳優たちのリアルな復活の道も見せる

『極悪女王』の話に戻ろう。本作は、当時嫌われ、激しく叩かれたダンプ松本さんの素顔を描くと同時に、俳優たちのリアルな復活の道も見せてくれる作品だ。

現代は、容易に叩かれやすいうえに、干された人が復活しづらい時代ではあるが、それでも復活する道は与えられている。作品や出演者への高い評価は、生きづらい現代社会の反動とみることもできるように思える。

メディアやSNSで話題にされない一般人の私たちにとっても、“嫌われる”ことによって自らの地位を築き上げ、頂点に登り詰めたダンプ松本さんの姿や、当時活躍した女子プロレスラーを演じた剛力さん、唐田さん、ゆりやんさんの俳優としての復活劇から学ぶべき点は多いように思う。

(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)