物忘れした認知症の人にヒントを出すのはいい? 悪い?…症状を悪化させない「適切な関わり方」のポイント
アメリカや中国でも講演実績のある「認知症講師」渡辺哲弘氏が、認知症患者の「行動のメカニズム」を解説します。認知症のお年寄りは、なぜ介護者を困らせるような「行動」をすることがあるのでしょう?
背景には、「周りに迷惑をかけたくない」、「みんなの役に立ちたい」、にもかかわらず、認知症の症状が邪魔をして周囲に迷惑をかけてしまうというジレンマがありました。
ケアの新たな指針となる渾身の書き下ろし『認知症の人は何を考えているのか』(渡辺哲弘著)より、介護のヒントになる部分を抜粋して紹介します。
『認知症の人は何を考えているのか』連載第16回
『「ジュースが買えない」…落ち着いているように見える認知症の人々に潜む「実行機能障害」の恐ろしさとは』より続く
ヒントで思い出してもらうのは、いい?悪い?
私たちは、ちょっともの忘れをしていても、他の人から「ほら、あれ」などとヒントをもらうと、思い出すことができたりします。
認知症の人も、ちょっとしたヒントで思い出して、それによって不安が解消されることがあります。だから、「ヒントを出してください」と勧める専門家もいます。
その一方で、ヒントを出しても思い出せないので不安になり、その場を取り繕う人もいること、そしてそこに潜む問題点については、すでに第3回で説明しました。
結局のところ、介護者は会話のなかでヒントを出したほうがいいのでしょうか?それとも、やめておいたほうがいいのでしょうか?
高齢者の認知症は、その6割以上がアルツハイマー型認知症ですが、このタイプの認知症の場合は、症状がどこまで進んでいるかによって変わります。
「適切な関わり方」とは?
初期のアルツハイマー型認知症の記憶障害は、普通の老化によるもの忘れより少し進行した程度の状態です。
そういう方の場合は、「介護者がヒントを出して、忘れていることを思い出してもらったほうがいい」と勧める専門医の先生が多いです。
「思い出そう」と頭を働かせることが脳へのいい刺激になりますし、実際に思い出せる場合も多いからです。実際に思い出せれば、お年寄りが「私はまだ大丈夫」と自信を持つことにもつながります。
ところが、アルツハイマー型認知症が進行し、中期以降の状態にさしかかった人の場合は、ヒントを出さないほうがいいのです。
中期以降にさしかかった人は、思い出そうとしても思い出せません。でも、ヒントを出されたら「そうそう、そうだったわ」などと取り繕おうとします。
そのような「取り繕いが必要な状況」は、認知症の人にとってはストレスです。そのストレスが積み重なっていくと、認知症の進行が速まってしまうかもしれません。
本人の状態によって、最初は「いい対応」だったことが「よくない対応」になったりすることがあります。相手の表情をよく見て、そして相手の言葉をよく聞いて、認知症の状態にあった「適切な関わり」をしたいものですね。
『つぼみを全部とった、その理由は…認知症の人が「不可解な行動」をしてしまう「深いワケ」』へ続く