Z世代の東大生3名に、世で語られる「Z世代像」へのリアルな意見を聞いてみました(写真:jessie/PIXTA)

若者と接する場面では、「なぜそんな行動をとるのか」「なぜそんな受け取り方をするのか」など理解しがたいことが多々起きる。

企業組織を研究する東京大学の舟津昌平氏は、新刊『Z世代化する社会』の中で、それは単に若者が悪いとかおかしいという問題ではなく、もっと違う原因――たとえば入社までを過ごす学校や大学の在り方、就活や会社をはじめとするビジネスの在り方、そして社会の在り方が影響した結果であると主張する。

本記事では、著者の舟津昌平氏がZ世代の東大生3名に対して、世で語られるZ世代像へのリアルな意見を聞いていく(3名は仮名、敬称略)。

Z世代は怒られ慣れてないって言われるけど…

舟津:今日の座談会のテーマは、世の中で「Z世代ってこうだよね」と、虚実ないまぜで語られることに対して、Z世代の方々が実際どのように思われているかを伺うことです。


まずは、代表的なステレオタイプの1つとして、「怒られ慣れていない」とか、「怒られるのを過剰に嫌がる」と言われていますが、それに対して、ご自身でもいいし、周りを見ていて思うことがあれば、感想を教えていただけますか。

原田:「怒られたくない」というのは、自分自身にもあてはまるところがあります。それは言葉を変えると、怒られることによって、自分の足りないところや欠点を見つめること、自分の内面を変えなければいけないことに怖さを感じているからだと思います。

そうした怖さがどこから生まれるのか確信は持てないですが、SNSで他人を見る機会が多いことが関係しているのかな、と考えています。つまり、SNSで炎上している人たちを見て、その炎上に加担することはないにせよ、普段は裁く側のスタンスで見ている感覚があって。いざ、現実で自分が怒られる側になったときに、急激に自分という存在に目を向けなければならなくなることが、不安や恐怖をもたらしているのかもしれません。

舟津:なるほど。怒られることが、自身への人格評価と直結しているように感じてしまうということですね。仮に今、「まだ席を離れたらダメだよ」って言われたとして、「じゃあ、席を立つタイミングがあるんだな」と思うだけでいいところを、「あなたは常識がない人間です」とか、「あなたは未熟です」と言われたように感じてしまう。

ただ、おそらく老若男女、少なからず同じように感じると思うんですよ。特に私の本のコンセプトは「Z世代化する社会」なので、みなさんがそう思っているものが、少し時間を置いて世の中もそうなっていく。だけど、原田さんがおっしゃったように、SNSをはじめとする新しいものへの適応が早いからこそ、いち早くそうした傾向が顕在化、先鋭化しているのだと思います。

原田:そうですね。イメージとしては、私たちより上の世代は、怒られたとしても、立ち直りが早いように思います。「なんでできないんだ!」って言われても、「ごめんなさい」って普通に立ち直れている。でも、私はかなりダメージを受けて、くよくよしてしまうんですよね。それがわれわれ世代の一般的な傾向かはわかりませんが。

SNSは個人をむき出しにしている

中村:でも、原田さんのおっしゃっていることはよくわかります。上の世代との違いがなんで生まれるのかは気になりますが、SNSという指摘は面白いですよね。

人って何かのコミュニティに属していると、やっぱり「どこどこの私」っていう感覚を持つと思うんですけど、SNSっていろんな人とつながることもあって、「どこどこの私」というのがだんだん曖昧になっていく性質があると思っています。

解像度の低い昭和世代のイメージですが、「どこどこ中学の○○集団の私」であるならば、誰かに怒られたとしても、「その集団の中の1人だし」って思うことができたのかなと。ただ、SNSの台頭によって、どんどん自分の存在がむき出しになっているのかもしれないなって今思いました。

舟津:うん、うん。ところでSNSで炎上しているタレントさんっていますよね。タレントの多くは事務所に所属しています。仕事の管理や、おそらくキャラ付けや発信の方向性にも、事務所を挟んでいる。だけど、SNSは個人でやるものになってて、バッファーとしての事務所が機能しないんですよね。もともと芸能界は自分を切り売りする世界でしたが、さらに拍車をかけて個人の勝負をさせられてしまっている。それは多かれ少なかれ、みなさんも似たようなことになっているのだと思います。何かを介在させずにむき出しで世の中と対峙しないといけない。

菊池:僕は「怒られたくない」というか、とある長期インターンをやったときに思ったのは、自分の行いで、会社に対して、あるいは外部の人に対して迷惑をかけたくない、というのはありました。だから、電話営業をかけるという負担の大きい仕事を割り振られたときには、やっぱり丁寧なマニュアルや指導をいただきたかったなと思います。感想みたいなもので、申し訳ないですが。

舟津:いえ、本当に感想で大丈夫です。素直に話していただくことが大事ですので。

今の話は、おそらく新入社員の方が抱える不安と似たようなものだと思います。たとえば、電話に出るのが怖い若手社員が増えているみたいな話があって、「電話に出るのが怖いだなんて、情けない」って言われがちです。だけど、電話対応をミスってお客さんが逃げたり、損害や悪印象を与えたらどうしようっていう不安があって、それを背負えないってことなんですよね。

菊池:そうです。

舟津:特に学生インターンという立場だと、そういう気持ちにはなおのことなりますよね。

会社側が若手の扱いに困ってることをどう思うか

舟津:では、今の話につなげていくと、一方で会社側はどう思っているか、ということです。ちなみに、みなさんは来年から会社で働く予定ですか。

原田:私は来年から働きます。

中村:僕もです。

菊池:僕は修士に進む予定です。

舟津:なるほど。実は最近、とある社会人の方とお話しする機会があって。はっきり言って、今の会社や上司は新入社員にビビッている。「辞めちゃうかもしれない」とか、「何考えてるかわかんない」とか、みなさんに対して不安を持っているんですよ。ということに対して、まず率直にどう思いますか。

原田:全然恐れる必要はないと思います。だって、まだ大した価値もないじゃないですか。即戦力になるなんて絶対にないんで、本当に気にしていただかなくて大丈夫です(皆、笑)。

中村:原田さんは、めちゃくちゃ謙虚ですけど、もうちょっと謙虚じゃない、就職を控えたZ世代の1人として言わせてもらうと、結論としては一緒で、怖がらないでくださいっていう。

それって、こちらとしても上司と関われないということで、機会損失なんですよね。やっぱり飲みに誘っていただきたいですし、2次会、3次会、4次会にも行きたいです。たしかに、そんなことやっちゃいけないっていう風潮はあると思うんですが、2次会、3次会でしか喋ってくれない大事な話とか、そういったことを学べなくなるのは、自分のために困るなという気持ちです。

でも、一方で難しいのは、そう考える学生ばっかりじゃないのは、当たり前にそうだと思うので。それこそ、上司から何か言われたら、「パワハラですよね」っていう若者もいるでしょうし。それに対しての解決策を僕は持ち合わせていないんですが、でも僕みたいなことを思っている人がいることは知ってほしいです。

舟津:実は、先日お話ししたのは弁護士の方で、業界でもそういう案件が増えているらしいです。中には「いや、そんなことで」って言いたくなるようなことが、どんどん事件化している。現実に、弁護士さんのところまで話が行くわけだから、若い部下を持つ人にとってはたしかに難しいなと思います。

ただ、往々にして社会や人間は頻度とか確率を誤認することがあるので、そんなことはほとんど起きないんです。だから、普通という言葉は危険ですけど、普通に振る舞えば、そうそう起きないことのはず。でも、現実としてそういう事例が起きて、増えているとなると、そこにビビッてしまうのは絶対あるんですよね。菊池さんはどう思いますか。

当事者不在のディスコミュニケーション

菊池:正直、どうでもいいなと思います(笑)。あくまで上司と部下の関係なのに、上司が「こいつは自分のことをこう思っているに違いない」と扱いづらい感じを出してきたら、こっちも不快に感じると思います。それで居心地が悪くなったら、そのときは辞めるでしょうし。なので、割り切ってもらうほうがお互い楽だと思います。

舟津:たしかに、若手を恐れること自体が、当事者不在な感じはしますよね。

そういう「丁寧な」扱いを求めている若い人たちもいるんですかね。みなさんの周りの人でもいいので、ものすごく丁寧に指導してくれて、気を遣ってくれることを、プラスに受け止めているのはあるんでしょうか。

原田:もちろんそういう側面あると思いますね。認識してないところでも、恩恵は受けているんだろうなと思います。

中村:恩恵は確実にありますね。僕は高校時代、しごかれるタイプの剣道部で、特によくいらっしゃるOBの方々は縛られるものが何もないので、ボコボコにしてくるんですよ。あれを会社でやられるってなったらかなりきついので、僕も会社を辞めちゃうと思いますし、それこそ「パワハラだ!」って訴えると思います。

おそらく、昭和の時代は多少なりともそうしたことがあったかもしれませんが、今ではほぼないんじゃないでしょうか。だとすると、やっぱりすごく恩恵を受けていると思いますね。ただ、僕たちにとってのマイナスが極限まで減ったせいで、マイナスなくては生まれないプラスまで減ってて、それはそれでよくないようにも思います。

上司にとっての合理的な振る舞い

舟津:今の話は大事なところですね。つまり、明らかにラインを超えていることに関しては、ちゃんと排除できるようになったと。ただ同時に、線引きって難しいから、どこまでがよくて、どこからがダメというラインが社会の中にない。だから新入社員も、そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫だとは思っているんだけど、上司側はラインがわからなくなっちゃっている。「もしかしたらこの人たちは、すぐハラスメントと言う人なんじゃないか」って不安になる。

それに対して、関わる中でラインを見極めていけばいい、っていう意見はあるかもしれないけど、コスト上できないということもありうる。部下が10人いるとしたら、10人全員にそういうことをやっている時間はないですよね。だから、個別化せずに全員に気を遣うっていうのは、上司にとっては1つの合理的な解になっているんだろうと思いますね。

では、次回は学生生活のリアルについて、伺っていけたらと思います。

(9月26日公開の第2回に続く) 

(舟津 昌平 : 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師)