”積水ハウス地面師事件”の犯人は有名デベロッパーの「元財務部長」…犯人の知人が語るその巧妙な詐欺テクニックとは

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ハウスメーカー、デベロッパーとして国内最大手の積水ハウスが、50億円以上ものカネを騙し取られた2018年の「地面師詐欺」事件は、いまも多くの謎に包まれている。15人以上の逮捕者を出す大捕物になったものの、不起訴になった容疑者も多数いて、公判でもすべてが明らかになったとは言い難い。

このたび、事件をモデルにしたドラマ「地面師たち」(原作・新庄耕)の配信がNetflixでスタートし、大反響を呼んでいる。ノンフィクション作家・森功氏の文庫『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』には、ドラマでは描かれなかった数々の知られざる事実が記されており、その内容を10回連続で公開する。

『地面師』連載第6回

『巧妙すぎる手口…業界にその名を轟かす「大物地面師」がターゲットの物件横の「駐車場」を借りた衝撃の理由』より続く

国税局に太いパイプを持つ漢

不動産業界のみならず、企業社会が驚愕した積水ハウスの地面師事件の捜査は、2018年が明けて間もなく開始された。被害総額55億5000万円という大事件だけに、警視庁の捜査は慎重にならざるを得ない。積水ハウス事件の前には、その準備ともいうべき捜査2課の手掛けた捜査があった。それが渋谷区にある「東京音楽アカデミー」という専門学校の所有地をめぐる、手付金詐欺だ。

警視庁はその捜査ターゲットに小山操を据えた。のちにカミンスカス操として国際手配された小山は、2000年代初頭にマンションデベロッパーとして名を馳せたABCホームの財務部長を務めたこともある。国税当局に太いパイプをもつと自称し、この世界に身を投じたとされる。積水ハウス事件における主役の1人である。事件の内幕に詳しい小山の知人と出会うことができた。

「専門学校、東京音楽アカデミーの扱いを小山に任せたのが、あの北田でした。彼らにとっては、積水ハウスに触手を伸ばす前のいきがけの駄賃のような感覚だったのかもしれません。東京音楽アカデミーの土地は富ヶ谷にあり、マンション用地としてうってつけでもあった。そこで北田や小山は東京音楽アカデミーの代表者のなりすましを仕立て、買い手を探した。そして、うっかり彼らに乗せられた不動産会社に手付金を振り込ませます」

事件の概要をそう明かしてくれた。北田とは、先に紹介した北田文明のことであり、積水ハウス事件でも内田マイクとともにその影が見え隠れしてきた。東京音楽アカデミーを巡る手口は以下の通りだという。

社名を変えて、なりきる

「まず小山は、旧知の不動産業者仲間から名古屋の休眠会社を買い取り、そこの代表に就任しました。それを『東京音楽アカデミー』と社名変更し、都内に音楽アカデミー名義の銀行口座をつくった。銀行は富ヶ谷に近い渋谷駅前支店を選び、いかにもそれらしく見せかけています。そうしておいて、買い手の不動産会社になりすましを紹介し、ニセの口座に売買代金の手付金を振り込ませたのです」

一口に「音楽アカデミー」といっても、その名称のついた通信教育の音楽学校は全国に数多く存在する。なかでも東京にある「東京音楽アカデミー」は、複数あるので紛らわしい。つまり、数ある東京音楽アカデミーのうち、どこが富ヶ谷の地主なのか、そもそもわかりづらいので、勘違いしやすい。

というより北田や小山たちは、そこに目を付けたといえる。休眠会社を買い取って「東京音楽アカデミー」という社名に変更すれば、いかにもそれらしく見える。前述したように通信教育などしていない休眠のペーパー会社なのだが、買い手の不動産業者も、銀行の口座名が同じなのでニセモノだとは疑わない。そうしてまんまと手付金を振り込ませたのだ。再び小山の知人が次のようなエピソードを明かした。

「彼らにしてみたら、積水を手掛ける前なので手持ち資金に困っていたのかもしれません。手付金が振り込まれたすぐあと、小山が渋谷駅前支店のATMに現れ、そこで現金300万円を引き出しています。それが銀行防犯カメラにばっちり映っており、動かぬ証拠となっているといいますから、刑事も捜査しやすかったのでは……」

警視庁捜査二課は捜査を進めた。東京音楽アカデミーと積水ハウスという二段構えの事件捜査といえる。そして捜査二課は東京音楽アカデミーの捜査を進めながら、そのネタをもったまま本丸の積水ハウス事件に切り込んだ。

10月に入ると、積水ハウス事件における主犯として、元ABCホームの小山操の逮捕状を東京地裁に請求した。もっとも、警視庁が本格捜査に乗り出すまでには、紆余曲折もあった。それは事件の計画・立案者が小山ではなく、内田や北田という大物地面師だったからでもある。

『“積水ハウス地面師事件”はうれしい誤算だった…当初の計画「融資詐欺」が取引総額70億円の「大規模地面師事件」に変貌したワケ』へ続く

“積水ハウス地面師事件”はうれしい誤算だった…当初の計画「融資詐欺」が取引総額70億円の「大規模地面師事件」に変貌したワケ