10月から『3年C組は不倫してます。』(日本テレビ系)と『わたしの宝物』(フジテレビ系)という、過激設定の不倫ドラマがスタートしますが、不倫ドラマが量産されていることに矛盾を感じている人も多いのではないでしょうか。

前編【物議を醸す「高校生不倫」ドラマ、現実の不倫は叩かれまくるのに不倫ドラマが量産される…この矛盾のワケ】に引き続き、年間・約100本寄稿するドラマ批評コラム連載を持つ筆者が、その理由を解説していきます。

詐欺、窃盗、殺人を描く人気作品も多々ある

また別視点から論ずるなら、現実に起こる不倫には否定的でも、フィクションである不倫ドラマには肯定的という人が、実はとても多いのではないでしょうか。

現実とエンタメ作品はまったくの別ものです。

わかりやすい例を挙げるなら、Netflixの日本トップ10で6週連続首位を記録した『地面師たち』。主人公と仲間たちは大規模詐欺を行う犯罪者集団で、暴力や殺人もいとわない非情なメンバーもいますが、この作品を楽しんで視聴した方がたくさんいたということですし、主人公たちをかっこいいと好意的に捉えている人も少なくありません。

とは言え、『地面師たち』ファンが現実の知り合いに本物の地面師がいれば嫌悪したり畏怖したりすることでしょう。

世紀の大泥棒の活躍を描く『ルパン三世』のファンでも、ほとんどの人が現実の窃盗には否定的でしょうし、ましてや自分が泥棒になろうとは思わないはず。極道たちの抗争を描く『アウトレイジ』のファンでも、ほとんどの人が暴力・殺人には否定的で、反社会的勢力の一員になろうとは思わないはず。

主人公たちが犯罪行為に手を染めるエンタメ作品が大好きでも、現実の犯罪行為は糾弾するなんてことは、決して珍しいことではありません。

不倫ドラマ好きの心理構造も基本的には同じ。

ましてや不倫は犯罪行為ではないのですから、現実の倫理に反する行為の度合いで考えれば、『地面師たち』、『ルパン三世』、『アウトレイジ』などのファン心理よりも、本来ならばよっぽど理解しやすいはずなのです。

つまり、それらの作品のファンたちは、きちんと現実とエンタメを切り分けて楽しんでいるということ。そう考えると、現実で不倫している人を叩いたり毛嫌いしたりする人が大勢いる一方で不倫ドラマが量産されてヒットすることに、“矛盾はない”ことがわかるでしょう。

実は不倫に憧れを抱いている層も少なくない

さらに言うと、現実の不倫に否定的な人が大半だとしても、その否定度合いにはグラデーションがあるもの。「不倫は心の殺人」と完全拒絶している人もいれば、そこまで強く拒絶していない人もいるということです。

そして、否定度合いが低めな層の人々は、結婚相手を裏切ることに対する良心の呵責や、社会人として倫理に反するといった理性が“ストッパー”になっているだけで、実は不倫にどこか憧れを抱いているというケースも少なくありません。

きれいごとを抜きにして忌憚なく説明すると、不倫は性欲や恋愛欲が満たされる行為のため、「絶対にバレない保証があるなら自分もしてみたい」という願望を持っている人が一定数いてもおかしくないでしょう。

表向きは不倫に否定的なスタンスでも、内心は密かに憧れているという人々が、不倫ドラマにハマるのは想像に難くありません。

しかも多くの不倫ドラマは、そういった否定度合いが低めな層に刺さるような設定を用意しているもの。よくあるパターンは、結婚相手から恋愛感情を向けられなくなって冷めた態度を取られているとか、結婚相手がモラハラをしてくるひどい人間性だとか、主人公が不倫に走ったとしても、視聴者がつい同情してしまうようなつらい環境にいることが多いのです。

主人公の悲惨な境遇に同情してくれれば、不倫はいけないことだとわかっていても、視聴者が不倫主人公に共感して応援してくれるという構図も作れるでしょう。

不倫は自分の身にも起こりうる“ファンタジー”

ほかにも、不倫は「やってはいけないこと」と禁断行為扱いされているがゆえに、「そのボタンを押してはいけない」と言われたら押したくなるのと同じで、禁忌を破りたくなる心理もあります。

さらにドラマ内の不倫は、前述したように主人公に同情できるような設定が与えられていることもあり、悲劇的境遇から抜け出すための美しい純愛のように描かれることも少なくありません。

要するに、ドラマではえてして不倫に「禁断の純愛」という“装飾”を施しているパターンが多いため、その「禁断の純愛」という甘美なキラーフレーズが、不倫に憧れている層の琴線に触れるのではないでしょうか。

そして、不倫願望を隠している人たちからすると、不倫は自分の身にも起こりうる“ファンタジー”とも言えるでしょう。

倫理的に恋愛対象としていいのは結婚相手のみなので、もし妻・夫に恋愛感情がなくなってしまったら、離婚しない限りは公に恋愛ができなくなってしまう。結婚後に妻・夫に恋愛感情を抱けなくなるという人も多いわけですが、80歳の寿命の人が30歳で結婚していたら、極論、半世紀も恋愛がタブーという人生になるわけです。

それでもやっぱり恋愛をしたいと思う気持ちは止められず、「(結婚相手以外と)恋愛をしてはいけない」と禁じられれば、むしろ恋愛欲が掻き立てられるという人もたくさんいるでしょう。

しかし、ふと我に返ると、不倫はバレたら家族を傷つけることになるし、不法行為になる可能性があるので、憧れを押し込めて我慢する。だからそうやって自制しつつも、自分が当事者になる可能性も秘めた“ファンタジー作品”として、不倫ドラマを楽しんでいるという人が相当数いるに違いありません。

――今回挙げたいくつかの要素が絡み合うことで、現実では「いけないこと」のはずの不倫ドラマが量産されているのです。

物議を醸す「高校生不倫」ドラマ、現実の不倫は叩かれまくるのに不倫ドラマが量産される…この矛盾のワケ