宮部みゆき原作の怪奇譚集をコミカライズ。心を閉ざした少女が耳を傾けるのは、奇妙で恐ろしい怪談話だった。『三島屋変調百物語』

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 宮部みゆき原作の江戸怪奇譚集を漫画家・宮本福助にてコミカライズした『三島屋変調百物語』(宮本福助:漫画、宮部みゆき:原作/KADOKAWA)。本作は江戸時代を舞台に、怪異の恐怖と人間模様を巧みに織り交ぜた珠玉の怪談物語である。

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 とある悲劇がトラウマになり、心を閉ざしてしまった17歳のおちか。彼女は人と関わることを避けるために仏門を叩こうとするも、叔父が経営する袋物屋「三島屋」へ身を寄せることになった。

 三島屋では、お客からの不思議な話を聞く役目を任され、次々と持ち込まれる怪談話に耳を傾けていくおちか。彼女が聞く怪談は、語り部自身が体験した人の弱さや業、後悔や恐怖心、そして過去に起きてしまった恐ろしい出来事への自戒に溢れていた。

 本作の最大の魅力は、怪談に秘められたメッセージ性にある。物語の登場人物たちが直面する恐怖や苦悩は、リアルな出来事として現代を生きる私たちの心にも響くだろう。

 シリーズを通して描かれるおちかの心情の変化をみると、この物語は少女の成長物語ともとらえられる。過去を消化できず、落ち込み、動けなくなってしまった少女が、他者の体験談を通して少しずつ立ち直っていく姿は自己受容の過程と重なる。

 本作は怪談話の背景にある人間ドラマと、克明に描写される恐怖シーンとのバランスが絶妙だ。さらに、お客たちが語る摩訶不思議な出来事の理由を解明していくというミステリー的な要素もあり、ただ怖いだけではないまったく新しいタイプの怪談漫画に仕上がっている。

 人の心の機微に迫る描写が実に秀逸な『三島屋変調百物語』。他者の心の闇を覗き見ることで自分自身が癒されるという、不思議な体験がきっとできるはずだ。

 ぜひ、おちかと一緒に不思議な百物語の世界に浸ってみてほしい。

文=ネゴト / ニャム