9月20日午前3時45分ごろ、東京都新宿区歌舞伎町の“トー横”と言われるエリアのホテル付近で、「上から人が飛び降りた」という119番通報があった。警視庁新宿署員が駆け付けると、10〜20代とみられる男性Aと女性Bが倒れているのが見つかり、2人は搬送先の病院で死亡が確認された。

【写真】最後の投稿につけられたガリガリ&タトゥー写真。「プレイヤーログアウトのお知らせです」という言葉の意味は…

 新宿署は2人が転落したとみている。このホテルでは1日にも10代の男女2人が転落死していた。トー横界隈では、自殺者が相次いでいる。


2人の死亡現場となったホテル

「ヤク中ですけど、よろしく」

 死亡した男性Aと数カ月前に知り合ったという10代のトー横キッズの男性は、Aの初対面の挨拶を鮮明に記憶していた。

「最初に会ったときの挨拶でそういう風に言われたから、Aが何かしら薬物っぽいものをやってることはみんな知ってたと思います。たぶんLSDとか、覚醒剤あたりをしていたんじゃないですか。ただ、女の子だけでなくみんなに対して優しい子でした」

「『不眠で悩んでいるんだ』と私が話したら『薬あげようか?』と」

 Aは、SNSで配信するなど社交的で、トー横界隈でも知り合いの多いタイプだったという。

 トー横界隈に出入りする20代の女性も、数年前からAと知り合いだったという。Aの思い出をこう語る。

「私は、下の名前でAくんと呼んでいました。『Aちゃん』とちゃん付けで呼んでいる人もいて、可愛がられていたと思います。『歌舞伎町卍會』の(故)ハウルさんが活動していた時期に、Aくんはよく食べにきていて知り合いました。広場で友達と遊んだり、好きなヒップホップをかけて踊ったりしていました」

 最後にAに会ったのは、死亡する9日前の9月11日だった。

歌舞伎町のシネシティ広場付近のセブンイレブンの前で、女の子と一緒に立っていました。元々痩せてはいましたけど、その時は体調が悪いんじゃないかと思うくらい痩せていて驚きました。目の瞳孔も開いている感じで……。変なセットアップのパーカーのような感じの服装だったと思います。『不眠で悩んでいるんだ』と私が話したら『薬あげようか?』と言われましたが、断りました」

 Aは過去に、窃盗事件を起こして被害届を出されるなど素行が悪く、女性に対しても犯罪に関わっていたことを告白したことがあるという。

「Aくんから『詐欺の手伝いに関わっちゃった。どうしよう、捕まるかもしれない』と相談されたことがあります。当時Aくんは未成年でした。18歳の少年に暴行を加えて、共犯者と一緒に車に監禁……みたいな事件だったと思います。それでしばらく見かけなかったんですけど、今年の8月ごろにSNSで『少年院から出てきたよ。覚えている?』みたいなDMが来て。それで『もう悪いことしちゃダメだよ』って返しました」

「『僕は本当に生きている価値がない人間だ』みたいに言いながら…」

 自ら「ヤク中」と名乗り、窃盗事件を起こし、少年院にも入っていたA。数年来の付き合いの女性から見て、どんな人物だったのだろうか。

「誰に対しても、特に弱い立場にいる子たちに優しい優しい子でした。体調が悪かった私をおんぶしてくれたのが記憶に残っています。相手が男でも女でも、みんなに優しいイメージ。恋人とか家族とかの、愛に飢えていたように見えました。

 でも1人で抱え込むことがあって、なにかのきっかけで『僕は本当に生きている価値がない人間だ』みたいに言いながら震えていることもありました。顔色もいつも悪くて、何かに怯えているというか」

 XへのAの最後の投稿は「プレイヤーログアウトのお知らせです」という文字とともに、ガリガリの体の写真を載せたものだった。

「ガリガリに痩せていたのは薬のせいだと思います」(前出の女性)

 AのXへの投稿は、違法な薬物の使用を匂わせたり、悲観的なものが多い。

<からっぽ> 9月18日午前10時55分
<終わってくれ> 9月18日午前9時49分
<キノコ食べたい> 9月17日午後11時21分
<LS-Worldへ> 9月17日午後10時19分
<あとはどうにでもなれ>9月17日午後0時20分

 Aとともに亡くなった女性Bも、いわゆるトー横キッズの1人だった。BのSNSも悲観的だが、A以上に希死念慮が強いように見える。

<Aちゃんに出会えてよかった> 9月19日午後10時53分
<ずっと仲良くしてくれたみんなのこと大好きだよ/みんながしあわせになりますように> 9月16日午後8時35分
<誰も信用できない ひとりは寂しいけど/どうせ失うくらいなら> 9月5日午後11時1分
<飛び降りたい> 9月4日午後5時18分
<人生最終章 Bad End>  8月26日午後0時58分

 投稿はハッキリ死を連想させる内容だが、トー横キッズのSNSとしては「少しネガティブ」な範疇とも言える。この投稿だけで、AやBの精神状態がそこまで追い詰められていることに気づくのは簡単ではない。そして、誰も2人を止めることはできなかった

 トー横界隈では去年の8月末、今年の9月1日、そして20日と、同じホテルからの転落死(自殺)が続いている。

「トー横の子どもたちは、いくつかの激安ホテルに泊まることが多いのですが。2人が飛び降りたホテルもその1つでした」(前出の男性)

「知り合いからの電話で起こされて『Aくんが自殺した』って聞きました」

 このホテルは、フロントを通らずに入ることができる外階段があり、2人はその階段付近に倒れていた。踊り場からは、スマートフォンとたばこの吸い殻などが発見されている。

「キッズたちはお金がないので、何人かでお金を出し合って1つの部屋に泊まるんです。でも部屋は汚いし、狭いし、言っちゃ悪いですけど大人がすすんで泊まりたい部屋とは言えないと思います。でもトー横から近くて入室のチェックが甘いから、彼らはなけなしの数千円、数万円を払ってそこに泊まるんです……」(トー横関係者)

 前出の女性は、去り際にAの死について悲しそうにこう話した。

「Aくんが亡くなった次の日の朝、知り合いからの電話で起こされて『Aくんが自殺した』って聞きました。理由を聞いても『わからない』と。Aくんはいろいろ悪いことをしていて、自己責任だった部分はあると思うんですけど、亡くなったのはやっぱり悲しいですね」

 トー横で相次ぐ死の連鎖は、飛び降りの対策をするなどして止められなければならない。

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時〜午後10時)、0120-783-556(午後4時〜同9時、毎月10日は午前8時〜翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

(渋井 哲也)