【石平】「反日テロ」の時代がついに引き起こした深圳日本人学校児童刺殺…いま中国で渦巻く「不満と怨念」、続発する「反日乱行」の異常事態

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深圳刺殺事件、この5カ月で3件目の凶行

9月18日、中国大都会の深圳市で、通学中の10歳の日本人学校の児童が男に凶器で刺されて死亡したという痛ましい事件が起きた。

凶行に及んだ男の動機は「不明」とされており、中国当局は永遠にそれを開示しないと思われる。だが、この9月18日という日は、満洲事変の発端となった「柳条湖事件」発生の日で、中国政府が大いに喧騒している「反日記念日」である。この日の犯行が、日本人を狙った確信犯的な性格を持つものであることは明々白々である。

周知のように、6月28日、江蘇省蘇州でも類似する凶悪事件が起きた。一人の男が凶器を手にして日本人学校のスクールバスを狙って危害を及ぼうそうとしたところ、バスに同乗の中国人スタッフが阻止。しかし、中国人女性は不幸にも刺されて死亡。子供を迎えに来た日本人母と子の2人も負傷した。

また、今年4月、同じ蘇州でも日本人旅行者が何者に刺されて負傷した事件があった。

このようにして、今年春に入ってからの5ヶ月間で、日本人が中国で凶悪犯に襲われる事件が3件も起き、2人の人間の尊い命が奪われた。これは、日中国交正常化以来初めての異常事態の発生であり、中国在留の日本人の安全を大いに脅かすような未曾有の「新局面」の出現である。

日本国内でも中国人の反日乱行続発

そしてその一方で、中国人が国境を超えて日本にやってきて広い意味での「テロ行為」を展開する事件が同時期に多発している。

5月31日、中国国内からやってきた中国人男性が、日本在住の中国人と共謀して、靖国神社の石柱に赤いスプレーで「Toilet(トイレ)」と書き、さらに放尿する行為に及んだ。主犯の男は犯行後に早速に中国に逃げ帰ったが、共犯の中国人は後に警視庁によって逮捕された。

8月19日未明、またもや中国人による靖国神社標的の犯罪行為が行われた。前回の事件の標的となった石柱に、今度は、黒いフェルトペンのようなもので、漢字で「厠所」といった、トイレを意味する中国語に似た字など複数の文字が書かれていたことが発見された。犯人は犯行後にはSNSで落書きの画像を投稿し、翌19日に中国に向けて出国したという。

そしてこの同じ8月19日、NHKの国際放送番組で、中国籍の契約キャスターが突如、原稿とは無関係の日本攻撃の妄言・暴言を22秒にもわたって放ち、日本の公共放送を乗っ取っての「言論テロ」を行った。

このように、5月末からのわずか数ヶ月間、中国人たちは中国国内で日本人に対するテロ的犯行を頻繁に行う一方、日本国内でも彼らはいっせいに、日本に対する様々な攻撃行為を展開している。

これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である。そして、中国人の日本に対する様々な「テロ行為」が、これから頻繁に起こっていく恐ろしい時代の幕開けであるとも捉えられる。

深圳凶行犯人は江沢民の反日教育世代

このような状況が生じてくる背景にあるのはまず、中国共産党政権が長年に行ってきた反日洗脳教育である。

1989年の天安門事件後に成立した江沢民政権は、若者たちを虐殺したことへの国民の恨みをよその「敵」へと転化していくために、そして事件で失われた共産党政権の求心力を取り戻すために、愛国主義教育とセットした反日洗脳教育を国家的プロジェクトとして全力的に進めた。以来の35年間、中国では根強い反日感情を植え付けられた「反日世代」が生まれた。深圳での日本人児童殺害の犯人は44歳だと発表されているが、天安門事件では9歳、まさに反日教育の中で育った典型的な「反日世代」である。

反日教育の効果が大々的に現れたのは、2005年に中国でおきた全国規模の反日デモ、そしてデモがやがて群衆的な反日暴動にエスカレートした。

2008年の四川大地震で、日本が官民を挙げて震災地を大いに支援したことで、そしてその後、中国人観光客が大勢日本にやってきて日本の実態をその目で見たことで、中国人の反日感情は幾分薄まった時期もある。

「日本と日本人には何をしてもいい」

しかし2012年から始まった今の習近平政権下では、反米・反日が中国外交の基本戦略となり、好戦的な「戦狼外交」が基本姿勢となっている中で、反日教育と反日宣伝は以前よりも増して盛んになり、「日本敵視」「日本憎悪」が中国社会に蔓延して社会心理の底流となっている。

そしてこの数年間、習近平政権はまた、日本の福島処理水を「核汚染」だと決めづけて日本を徹底的に攻撃し、中国人の反日感情と日本憎悪をさらに強め、新たな反日ブームを作り出した。

こうした中で、中国の「戦狼外交官」たちがいっせいに日本に対する攻撃・恫喝を始めた。その典型例は今年5月20日、中国の呉江浩駐日大使が、台湾問題などとの関連で、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言したことがあるが、それは中国人の反日感情をより一層刺激するだけでなく、「日本人をぶっ殺しても良い」との暗示的なメッセージを送ることとなった。

この発言の直後の6月に蘇州で日本人母子襲撃事件が起きたのも、今回の殺人事件が起きたのも、決して偶然ではない。まさにこの一連の流れの中で起きたものである。

そして今年になって「反日テロ」が集中的に起きたことの背景にはもう一つの要素がある。近年で起きた中国経済崩壊・大恐慌の中で失業が広がり、貧困層・中間層は生活が破壊されて社会的不満と怨念が高まった中で、こうした不満と怨念を「愛国無罪」を盾に、日本人に向かって発散するのが流行りとなってきている状況である。

中国政府は「反日テロ行為」を容認した

このような状況は今後も続くのかとなると、残念ながら答えはやはりYesである。第一に、中国政府には再発防止に取り込むつもりは全くないこと。19日、中国外務省報道官は事件について、「どこの国でも起こりうること」だと強弁したが、その言わんとするところは要するに、「どこの国でも起こりうることだから中国政府の責任ではない」ということだ。

その一方、報道官は亡くなった日本人学校の男子に対して「追悼」の意を表しながらも、犯行自体を非難する言葉は一つも出なかった。政府の意向の忖度に長ける中国人からすれば、それは要するに、中国政府は本心においてはこうした「反日テロ行為」を基本的に容認しているということになっている。

さらに言えば、反日感情が多くの中国国民に蔓延している状況が根底にある以上、経済崩壊に伴う社会的不安の拡大は今後も続くから、そういう構造的な問題に変化がない限り、日本人に対する色な形でのテロ行為は今後も絶えることはないと断言できよう。

こうした中で中国在住の日本人の安全をどう守るかは大きな課題となっているが、中国国内では、どこから起きてくるか全く予測もできない散発的な「反日テロ」に対して満足な防備策はやはり無理。中国で生活している約10万人の日本人とその家族手たちが大使館員のように全く閉鎖された環境の中で暮らすことはできない。「街に出れば危険がある」というのは今後の現状である。

したがって、今にすでに始まった「反日テロの時代」においては、中国在住日本人の安全を守る唯一の最善策とは、日本人全員がこの「テロ国家」から引き上げることである。

本当に「反日感情とは無関係」なのか…深圳日本人児童刺殺で「日本」を隠す、中国の挙動不審