コロナ禍前より、なり振り構わない営業や集客が目立つ(イメージ)

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 道路で子供を遊ばせる迷惑行為を行う人たちのことを俗に道路族と呼ぶが、最近、日が暮れると繁華街で道路を勝手に利用して席を拡張する居酒屋道路族と呼びたくなるような人たち、店が増えている。ライターの森鷹久氏が、店の前に勝手に座席をつくる違法な露天居酒屋についてリポートする。

【写真】悪質な客引きの禁止を訴える警察官たち

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 2020年1月に日本で最初の新型コロナウイルス感染者が確認されて以降、対策として飲食店、とくに酒や接待を伴う店は要注意なスポットとして営業を自粛したり、客も敬遠する場所となっていた。2023年5月に感染症法上での位置づけが5類へ移行し、行動制限が撤廃されても、なかなか夜の街へ人々は戻ってこないと言われたものだ。だが、それから一年以上が経ったいま、各地の主要な繁華街はまだ日が落ちきらない早い時間から酔客で溢れ、暗くなる頃にはどの店も満杯。路上には「居酒屋難民」らしき客の姿も散見されるほどだ。

 コロナ禍を経て、かつての賑わいが戻ったことは確かに喜ばしくはあるが、その一方で、かねて問題視されていたトラブルに拍車がかかる事態にも陥っているという。取材したという民放キー局の情報番組ディレクター(40代)が説明する。

「暑い季節ということもあるでしょうが、居酒屋などの飲食店が店の前の道路に、勝手に座席を作って客を呼び込んでいるんです。特に、サラリーマンの街として知られる東京の新橋や神田、上野ではそうした違法店が多く見られます」(情報番組ディレクター)

 人気店と呼ばれる居酒屋の一部には、店の前の公道に椅子やテーブルを並べて客を呼び込む店が、コロナ禍前からも存在した。もちろん、当時も一部マスコミが取り上げて問題提起するなどし、騒動が落ち着いてはまた並べる、などといったイタチごっこのような状態が長年続いていた。とはいえ、堂々と違法行為を行う店は、ごく一部に限られていたという。

「店主の素性がよくない店とか、ものすごい繁盛店とか、そういったところは公道に机と椅子を並べていました。ですが最近だと、そうした違法行為とは無縁だった店や、新規にオープンした店も外に座席を作っているんです」(情報番組ディレクター)

形だけの指導はしていますよ

 新橋や神田の居酒屋が立ち並ぶ通りへ実際に行ってみると、店の外の公道に椅子やテーブルを設置する違法状態がいくつも見つかった。いや、見つかったというよりは、あまりに多くの店が堂々と行っているため、一般客からすると「路上の席で酒が飲める通り」とすら認識されているような具合だ。中には、店内の座席数よりも店外の座席数が多い、ハナから路上営業を見越した上でオープンしたとしか思えない店まである有様だ。

 ちょうどそのとき、警察のようにも、警備員のようにも見える絶妙な青と黄色の制服姿に身を包んだ、数人の体格が良い男性たちが現れた。付近の居酒屋店主によれば、彼らは違法店を見つけて指導をする、都や区の委託を受けたパトロール人員だというが、近隣飲食店の女性店主(60代)は呆れ返ったような表情で吐き捨てる。

「見回りの人たちがやってきて、形だけの指導はしますよ。それで店も、ハイハイと一応、席を片付ける。でも、見回りが立ち去ったらすぐ、席は元通り。客もわかっているのか、見回りが去ればすぐ戻ってくる。あれで取り締まりをやっている、と言われてもね。声をかけただけで、ほぼ何もやっていない」(近隣飲食店の女性店主)

 この件について所轄署の警察官は「確かに、路上に席を出すくらい大したことはないと思うかもしれないが」と前置きした上で、こう苦言を呈す。

「コロナの影響もあり、換気の良い外で飲もうとか、夏で暑いから外で飲もうという気持ちはよくわかります。(違法営業が横行する)通りは、確かに車はほとんど通らないし、路上営業自体が客にとって魅力的に見えるかもしれません。しかし、ルールは守らなければならない。ルールがあることを知った上で各店は営業しているはず。そうした店は近隣店舗とトラブルを起こしたり、さらに違法な営業に及ぶ可能性が高いのです。ルールを守らないお店で、果たして美味しいお酒や食事ができるのか。店がルールを守っているから、食中毒などを起こさず、客は安心して飲食できるのです。そのあたりを、市民の皆さんにはよく考えていただきたい」(所轄署の警察官)

 問題は違法な露天居酒屋だけにとどまらない。

取り締まりの助っ人に屈強な外国人

 筆者も度々記事にしてきた、条例などで禁止されている路上での客引き、すなわち「違法キャッチ」も、コロナ禍を経た今、全国各地の繁華街で大手を振って堂々と、再び活動的になっている。こうした違法キャッチを排除すべく、所管の役所はアナウンスをしたり、民間の警備団体などに委託して、違法キャッチを一掃しようと試みているが効果は限定的、と言えればまだマシで、キャッチは消えるどころか増え続けた。コロナ禍を乗り越え、今こそ荒稼ぎしようと違法キャッチも、そして違法キャッチを使う飲食店も躍起になっているのだ。

 そして千葉県の某市では、違法キャッチを取り締まる要員として、ついに屈強な外国人スタッフを雇ったという。市内繁華街の居酒屋店主(40代)が、またしても呆れ返ったようにため息をつく。

「この辺りは特に違法キャッチが多いことで知られています。客も事情を分かっていて”タバコを席で吸わせろ”とか”安くするなら行ってあげる”など無茶な要求をして、違法キャッチと交渉するほどです。コロナ禍明け、街は賑わいを取り戻しましたが、キャッチは前よりも増え、市の委託を受けた警備会社の警備員が、客に声がけするキャッチに向かって注意喚起するんですが、キャッチどころか客すら、警備員を無視する。(取締要員に)外国人を採用したことは驚きでしたが、効果があるのかな、と冷めた目で見ています」(居酒屋店主)

 筆者も目撃した取り締まりの助っ人は、筋骨隆々、いかにも強そうな外国人だった。中高年の警備スタッフが、その助っ人を取り囲むように歩いているが、確かに威圧感はある。だが、通りに立つ違法キャッチの若者からは乾いた笑いも聞こえてくる。

「今まではジジイが注意してくるだけだったから、シカトしてましたね。最近、デカい外国人が助っ人で来ていますが、正直、何もできませんよ。今まで俺らに無視されていた中高年のおっさん警備員は、横に強そうなやつ連れてるから威張ってますし(笑)。まあ、俺らからしたら何って感じ。役所関連(の警備)だから、俺らに手出しもできないし、ただ威圧感だけ。注意されたら返事だけして一旦引いて(その場を後にして)、近所のパチンコ屋で便所してタバコ吸って戻ってきますよ」(違法キャッチの若者)

真面目にやってる俺らの客も盗まれる

 違法な露天営業にしろ、違法な路上キャッチにしろ、取り締まる側をこれでもかというくらいに強気で「ナメきって」いる。その背景には、違法露天営業やキャッチを使ってまで集客したい、金を稼ぎたいという店側の強い意向が見え隠れする。これも以前リポートしたが、違法キャッチに頼らざるを得ない店はたいてい、酒を炭酸で薄めたり、相場より高額な会計を客に支払わせることで成立している。だから、彼らにとっての「営業」は、違法行為への加担を前提としたものに他ならない。そして彼らは自分たちがやっていることが「違法」であることを知っている。

 それでもなお、違法行為から手を引かないのは、彼らが、警察をはじめとした司法当局が、現実には強い権力を行使しないと思っているからだ。「パクられ(逮捕)まではしないはずだ」と確信し、取締要員の目の前で違法な声掛けを続ける。前出の飲食店店主も、怒りを滲ませこう訴える。

「アフターコロナの到来は我々のような人間にとって、期待しかなかった。でも警察は、違法行為を堂々と続ける同業者を見て見ぬふり。キャッチの兄ちゃんも、コロナ前より増えたから、真面目にやってる俺らの客も盗まれる。お巡りさんに泣きついても何もしてくれないし、違法キャッチを利用する居酒屋の外国人従業員は、警察から事情を聞かれても”言葉がわからない”とか”差別になる”ですり抜けると笑っていた。不安ですよ、そりゃ」(近隣飲食店の女性店主)

 今起きているこれらの問題は、果たして「大したことがない」と見過ごしてよいことなのか。細かすぎて実際に刑罰がくだることはないような違法行為は、その積み重ねで社会の安定を崩していく。少しくらいなら、この程度ならとルール違反の横行が続くと、大きな法律違反への感覚が麻痺する人たちが必ず出現する。更なる大きな犯罪が起きて、巻き込まれて後悔することになっても、もう遅いのだ。