久保建英はレアル・マドリード戦で今季2回目のフル出場を果たし、0−2で敗れはしたものの、チームは復調の兆しを見せた。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、レアル・マドリード戦での久保のパフォーマンスおよび、開幕から結果の出ていないチームの改善策や久保が今後やるべきことなどに焦点を当ててもらった。

【レアル・マドリード戦は本来の能力を取り戻す試合に】

 久保建英は、並外れたサッカー選手だということを忘れてはいけない。しかし、彼がレアル・ソシエダで爆発的に成長できたのは、イマノル・アルグアシル監督や、最初からよき理解者となってくれた何人かのすばらしいチームメイトの存在が大きいだろう。そのおかげで久保は安定性を欠く選手から、常に主役であり続けることができる選手へと変貌したのだ。


レアル・マドリード戦でチャンスに絡んだ久保建英 photo by Nakashima Daisuke

 ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)がアドバンテージを得られるように用意した1対1の戦術により、相手DFは久保を恐れた。それは、まず左サイドにプレーを集中させ、相手に気づかれる前に素早く右サイドに攻撃を移動するというものだった。

 これにより久保はゴールを生み出す能力を備えた、巧みで、貪欲で、非常に速いウインガーとして世界を驚かせる存在となった。しかし今年1月に日本代表として参加したアジアカップ以降、やや疲れた状態で戻ってきた彼は積極性を失い、ラ・レアルもそのことを痛感していた。

 レアル・マドリード戦は久保にとって、本来の能力や彼の特徴である電光石火の動きを取り戻す試合となった。個人として古巣との対戦に意欲を燃やしていたが、それと同時に、不調に陥っているチームが自分を必要としていることも自覚していたはずだ。

 これが久保にとって、決してベストゲームでないのは確かだ。しかし、チームとしてラ・リーガのスタートが散々なものとなり、個人としても非常に残念な結果になっていたなか、パフォーマンスを著しく向上させるきっかけとなったのである。

【チームのチャンスに何度も絡んだ】

 この対戦までラ・レアルは、中位以下の4チームと戦い、勝ち点12を取れるうちの4しか獲得できず、非常に悪い印象を与えていた。メンバーの多くが各国代表として戦ったインターナショナルブレイク後、ラ・レアルは先発した久保の意欲的なプレーにも助けられて目に見えて調子を取り戻し、レアル・マドリードを圧倒した。

 久保はキックオフから責任を背負うことを受け入れ、チャンスがあるたびにフェルラン・メンディと対峙した。最初の数分間何度も翻弄し、FKを誘発。またサイドからペナルティーエリア内に好パスを送った。

 守備では、レアル・マドリードがボールを持った時にイマノルが準備した4−4−2の右サイドから、プレスにおいて非常に重要な役割を果たし、何度もボールをリカバリーした。そのうちのひとつは、ポストを叩く強烈なシュートを放ったルカ・スチッチへのラストパスにつながった。

 ライブスコアアプリ『Sofascore』による久保のスタッツは、キーパス2本、パス成功率83%(42本中35本成功)、ドリブル成功1回(5回中)、ピッチでのデュエル勝利4回(10回中)、被ファール3回。

 その一方で18回ボールをロストしたが、リスクを冒してボールを失ったものもあれば、ミスによるものもあった。得点もアシストもなく、チームもゴールを奪えずに敗れた。

 しかし、アラベス戦に続いて今季2度目のフル出場を果たし、いいパフォーマンスを発揮したチームにおいて、ベストプレイヤーのひとりとなった。復調の兆しを見せ、今後の試合での改善が期待できる内容となった。

 しかし久保は試合後、主審マルティネス・ムヌエラのレフェリングは明らかにレアル・マドリードを有利にしたと主張し、怒りを露わにしていた。実際、ヴィニシウス・ジュニオールに与えたPKの説明を主審に求めようとする姿が、テレビカメラに収められている。

 さらに試合後の会見で、「あのPKは非常に疑わしいもの。僕が求めるのは説明だけだ。試合前に予想してよりもいいプレーができていただけに、本当に腹が立っている」「僕が言えるのは、ヴィニシウスに対するジョン・アランブルのファウルは笑えるものだったということだ」と付け加えた。

【中盤ダイヤモンドの4−4−2復活はあるか】

 現実問題として、今シーズンのラ・レアルのスタートは最悪だった。レアル・マドリード戦を除き、ホームゲームの内容には深刻な懸念があった。メンバーは夏に大きな変化を遂げ、ふたりのスター選手が去り、未知数の選手が多数加入した。序盤はすべて、ラ・レアルの伝統的な4−3−3で臨んだが、チームはまったく機能しなかった。

 そこでイマノルは一計を案じて、レアル・マドリード戦ではほかの試合と異なる4−4−2の3ラインによるハイプレスを用いた守備を採用した。これまでは特定の瞬間にプレスをかけていたが、この試合では前線から絶え間なくプレスをかけ続け、一定の成果を出すことに成功した。

 しかし、今季のラ・レアルは依然として中盤に大きな問題を抱えている。これまで3人で構成し、ひとりはより深い位置で構え、時にもうひとりが守備的にプレーすることはあったものの、インサイドハーフのふたりはより自由に動いた。しかし、これも唯一無二の存在であるミケル・メリーノ(アーセナル)の退団で不可能となった。

 ベニャト・トゥリエンテスにミケル・メリーノのようなプレーはできず、スチッチも特徴が違う。セルヒオ・ゴメスのプレースタイルはそれと大きくかけ離れ、ブライス・メンデスとアルセン・ザハリャンはそれ以上に異なるタイプの選手だ。

 ミケル・メリーノは広範囲をカバーし、あらゆる場所でデュエルを制し、誰よりもディフェンスし、正確にボールを動かし、すばらしいフィニッシャーでもあった。これらすべてを失ったことでイマノルは、物事を根本から考え直さなければならなかった。

 早急にチームを復調させるため、おそらく彼の頭をよぎっている選択肢のひとつは、ミケル・オヤルサバルの大ケガ後(2022年3月)、ダビド・シルバ(2023年に引退)のあらゆる長所を生かすために採用し、結果ラ・レアルを飛躍させた中盤ダイヤモンドの4−4−2のシステムをもう一度復活させるという案だ。

 当時、イマノルは久保をFWに起用してアレクサンデル・セルロート(現アトレティコ・マドリード)と並べ、シルバをトップ下、ブライス・メンデスとミケル・メリーノをインサイドハーフに配置した。このシステム変更が功を奏し、ラ・レアルは快進撃を続け、ノンストップで勝利を収めた。しかし、相手に対策され、サイドに幅や奥深さが足りなかったことなどから、現在の4−3−3に戻している。

【得点不足解消を久保に頼ってはダメ】

 もしイマノルが今の苦しい現状を打開するために、もう一度中盤ダイヤモンドのシステムに変えるとしたら、MFはマルティン・スビメンディ、セルヒオ・ゴメス、スチッチ、ブライス・メンデスがレギュラー候補となり、トゥリエンテスがその被害を受けることになるだろう。

 シルバの役割を果たすことになるトップ下に関しては、セルヒオ・ゴメスが適任だと思うが、ブライス・メンデスとスチッチも同ポジションで問題なくプレーできる。このシステムの場合、久保はすでにラ・レアル初年度に示したように、2トップの一角でプレーするほうがいいだろう。

 しかし、前線の2枠をシェラルド・ベッカー、サディク、オーリ・オスカールソン、オヤルサバル、久保、アンデル・バレネチェアの6人で争うことになるため、人選は困難を極めるに違いない。

 そのため、私は、ベストなシステムはやはり4−3−3のように思える。だが、それ以前にイマノルは2024年を通じて抱えている攻撃面の問題を解決する必要がある。しかしこの問題に至っては、選手個々がシュートの精度を高め、ゴールを決めることでしか解消できない。

 ラ・レアルの得点不足の問題には、久保の助けが必要となるが、彼に頼りすぎてもいけない。久保は得点力を高めてはいるものの、決してストライカーではないからだ。それはバレネチェアやベッカーも同じである。

 過去にすばらしいゴールを決め、いいシーズンを過ごした経験のあるオヤルサバル、サディク、オスカールソンたちこそが、ゴールを決めてチームを救わなければいけない選手たちだ。チームはゴールの形を見つけて得点数を伸ばし、久保はその手助けをする役割を担う必要がある。トップスコアラーになることを意識したり、ひとりでゴールを狙い続けてはダメだ。

 2024年の久保は全般的に利己的だった。決断を下す際に何度もミスを犯し、動きやスタートが遅い場面が度々あり、自らゴールを決めることも、アシストすることもほとんどできていない。しかし、久保の長所である貪欲さや電光石火の動き、大胆さは今でも少しも失われてはいない。

 ラ・レアルは1対1やスペースを生かした局面で、アグレッシブにプレーできる久保がいるほうがずっといい。しかし、久保がDFとマッチアップする際、たとえ突破するのが難しい状況だったとしても、スローダウンせずに仕掛ければ、ラ・レアルはさらによくなるだろう。

 久保は今まで以上にリスクを冒し、相手と対峙してシュートを狙い、ペナルティーエリアに進入し、チームに何かを起こすために、試合展開を読んで有利な瞬間や状況を見出さなければならない。本来それはイマノルの仕事なのだが、久保はレアル・マドリード戦を通じて、再び新しい道を見つけ始めたようだ。

(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)