俳優・岩谷健司、木村拓哉との共演は緊張の連続。クランクアップの時まで“芝居”を打たれ「やっぱりスターでした」

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CMディレクターで映画監督の山内ケンジさんの演劇ユニット「城山羊(しろやぎ)の会」や岡部たかしさんとの演劇ユニット「切実」などで多くの舞台に出演している岩谷健司(いわや・けんじ)さん。

舞台をメインに活動しながら、映画『岬の兄妹』(片山慎三監督)、『共演NG』(テレビ東京系)、『殺したいほど疲れてる!〜「共演NG」のホントにNGな舞台裏〜』(Paravi)、『Believe−君にかける橋−』(テレビ朝日系)、『地面師たち』(Netflix)など映像作品に多数出演。

全国順次公開中の映画『輝け星くず』(西尾孔志監督)、2024年8月23日(金)には映画『ラストマイル』(塚原あゆ子監督)の公開も控えている。

 

◆ドラマ制作の裏側を…

2020年に放送された『共演NG』(テレビ東京系)は、かつて恋愛関係にあり25年間“共演NG”だった大物俳優(中井貴一&鈴木京香)がなぜか再共演することになったことで巻き起こる騒動を描き、話題を集めたドラマ。岩谷さんは、数々のトラブルに巻き込まれ、頭を抱える日々を送ることになるテレビ局のドラマ部長・戸沢寛治役を演じた。

同年、『共演NG』の中で登場するドラマ『殺したいほど愛してる』で起きていた騒動の裏事情を描いた『殺したいほど疲れてる!〜「共演NG」のホントにNGな舞台裏〜』(Paravi)も放送された。

「あのドラマ制作の裏でみんながどうやっていたのかということがおもしろおかしく描かれていておもしろかったですよね。

でも、台本を渡されたのが結構直前で、『セリフが入るかな?』みたいな感じでやっていたので大変でした。朝がたまで撮影をやっていたんじゃないかな。2日くらいほとんど寝なかった気がするけど、ドラマ制作の裏側というのは、やっていておもしろかったですね」

――『共演NG』で岩谷さんのことを知ったという方も多いのでは?

「それはありますよね。でも、一番よく言われるのは『ゴッドタン』(テレビ東京系)です。その芸人さんがこのシチュエーションだったら落ちるという企画『私の落とし方発表会』で、阿佐ヶ谷姉妹のお姉さんの回で呼ばれて出たんですけど、1回だけのはずが、結局4回ぐらい続いて、それは結構いまだに言われます。ものすごく緊張しましたけど、やって良かったなって(笑)」

――いろんなジャンルをやってらっしゃいますね。

「そうですね。あれはスタジオで一発撮りなんです。そこに劇団ひとりさんとかが実際に見たものにリアクションするじゃないですか。笑ったりとかね。間違えられないんです。しかもリハーサルは、1、2回しかやらないので、結構シビれましたよ。もう逃げ出したいと思いました」

――事前にマネジャーさんからはどのように聞いていたのですか。

「マネジャーさんもよくわかってなくて、『多分何か再現ドラマっぽいものでしょう』みたいなことを言われていたんですよ。『ゴッドタン』に出たことがある人は事務所にいなかったし、バラエティもあまりよく知らなかったですからね。俺も別にいいと思って受けたんだけど、『何か違うじゃん、これ』って(笑)」

2021年には、山内ケンジ監督の映画『夜明けの夫婦』に出演。この映画は、コロナ禍が一段落した日本を舞台に、孫の誕生を望む姑のプレッシャーに晒(さら)されながら2階建ての二世帯住居で暮らす二世帯家族の姿を描いたもの。

――山内ケンジさんの作品には、舞台以外にもコンスタントに出演されていますね。

「そうですね。この作品では、みんなちょっとどこかおかしなキャラで、息子の母親は孫の顔が早く見たいという欲求で精神的に不安定になっていくし、息子は浮気をしている。俺は息子の奥さんにちょっかい出したりしていましたね(笑)。酔った勢いでキスしちゃったりして。ひどいオヤジだよね(笑)」

 

◆木村拓哉主演ドラマに緊張

2024年4月から6月まで放送された『Believe−君にかける橋−』に出演。このドラマの主人公は、設計者として大手ゼネコン「帝和建設」に所属している狩山陸(木村拓哉)。建設主任として従事していた「龍神大橋」で完成間近に崩落事故が発生したため、設計ミスが原因として逮捕され1年6カ月の実刑判決を受ける。しかし、その事故には秘密が…という展開。岩谷さんは、小日向文世さん演じる「帝和建設」の磯田社長とともに狩山に事故の全責任を負わせようとする桑原常務役を演じた。

「主演が木村拓哉さんですからね。『俺、ちゃんとしゃべれるのかな?』ってやっぱり緊張しましたよ。あの人は全部ちゃんと入れてきていますからね。完璧なんですよ。主役はちょっとぐらい間違えてくれるほうがこっちは楽な気分になれるんだけど、木村さんは完璧なんだよね。だから緊張しました」

――木村さんとのシーンでNGを出したことは?

「ありました。1回NGを出したら、(木村さんが)近くにあった帽子みたいなのをバーンてやって『ふざけんな!』みたいなことをやるんです。冗談でわざと。俺は一瞬ヒヤッとするじゃないですか。それを見てスタッフがワーッて笑うんですよ。それで木村さんがニコッと笑って『じゃあ、やろうか』って言うんです(笑)。

すごいですよ、あの人は。俺は最後まで敵役だから、俺がクランクアップのときもプロデューサーがお花持ってきて、『岩谷健司さんクランクアップです。木村さんからお花を』みたいなことを言うと木村さんは、『俺は嫌なんだけどな。コイツに渡したくない』みたいな芝居をするわけ。

だから俺も『あー、もらえないんだ』みたいな芝居をすると、急にニコッと笑って『お疲れさまでした!』って花を手にやってくるわけ。そうするとやっぱりドキッとするよね(笑)。そんな感じでツンデレなんですよ、基本テクニックが(笑)。でも、何かそこにハマる。カッコいいし、すごい上手いと思う。スキがないですよね。やっぱりスターだなって」

©ノブ・ピクチャーズ

※映画『輝け星くず』
2024年8月17日(土)〜23日(金)大阪・第七藝術劇場で公開
2024年9月7日(土)〜13日(金)愛知・シネマスコーレで公開
配給:ノブ・ピクチャーズ
監督:西尾孔志
出演:山粼果倫 森優作 岩谷健司 ほか

◆コロナ禍で撮影が半年間中断

現在、映画『輝け星くず』が全国順次公開中。この映画は、社会を脱落した者たちが再び自分の道にチャレンジする姿を描いたもの。

ある日突然、恋人・かや乃(山粼果倫)が逮捕され、光太郎(森優作)は状況が理解できないまま、かや乃の父・慎介(岩谷健司)と一緒に彼女が拘留されている四国へ向かうことになる。しかし、自称パニック障害の慎介は移動手段が限られ、電車にも高速道路にも乗ることができない。そんなふたりが四国を目指してレンタカーで出発するが、その道中で光太郎は慎介がこの世にいないことになっている人物であることを知る…。

「娘に食わせてもらってひどいオヤジなんだけど、実はあることがきっかけで心に深い傷を抱えて…という感じでね」

――ちょっと不思議なロードムービーでもありますね。撮影期間はどのくらいでした?

「全部で2週間ぐらいかな。最初の1週間ぐらい撮影したところでコロナ(ウイルス感染者)が出ちゃって、それで中止になって。半年くらい空いてからまた1週間ぐらい撮影に行ったのかな。だから、全部で2週間ぐらいだったと思います。

最初に撮影したのが冬で、撮影を再開したときにはもう暑くなっていたんですけど、冬の衣装のままだったから暑くて大変でしたよ(笑)」

――森優作さんは、2024年5月に公開された映画『ミッシング』(吉田恵輔監督)でも話題になりましたが、岩谷さんととてもいいコンビ加減でした。

「そうですね。ああいうコメディって難しいんですよ。ちょっとやりすぎてもダメだし、ちょうどリアルな温度で、下のトーンでやってくれるから、俺がちょっと上でいっても変じゃないんですよね。

これが、彼が上から来ると、俺が完全にやっちゃっている空気になっちゃうんですよね。わざとらしくなっちゃってリアルにならない。だからバランスですよね。多分彼はいろんな人と組んだときに、邪魔にならないという言い方はおかしいんですけど、相手のそれを消さずにそこに存在していられる。そのフワフワ感というのがいいんですよね。

自分のことじゃなくて相手のことを考えているっていうところがすばらしい俳優だと思う。本当はお互いにそうであることが一番ベストなんですけど、自分を見せることばかり考えている人が結構多いじゃないですか。そうなるとおかしくなってくるので、自分はどうでもいいから相手を良くしようと思うことが大事なんです。

当たり前のことなんですけど、お互いにそう思っていると、お互いに良くなっていくんですよね。だから、彼とはやっていて気持ち良かったですね。思っていた以上にいい映画になっていたなあって思いました」

――撮影でとくに印象に残っていることは?

「いっぱいありますよ。マジックバーのシーンがあるじゃないですか。マジックバーのシーンはお店を借りていたんですけど、撮影がまだ終わらないうちに撤収しなくちゃいけない時間が来ちゃったんですよ。それで、『どうするんだ?』ってなって。

慌ててその場で上のケーブルテレビか何かの会社に行って貸してもらえないか交渉して。そんな感じだからバタバタだったけど、何とか話がついて貸してもらって撮影したんですよ。『大丈夫かな?こんな状態でこの後どうするの?』みたいな感じでしたね」

©ノブ・ピクチャーズ

西尾孔志監督は、「岩谷さんは断らない。『やってみましょう』と言って狭いドラム缶にも入ってくださる。こちら側の不備にも嫌な顔せずスマートにフォローしてくださることもあった。だが、役のことになると、疑問があれば遠慮なく聞いてこられる。そういう役への真摯な姿勢と現場への気遣いに心打たれました」と話す。

「まずは、やってみないとわからないですからね。でも、最後の脱出のシーンとか、もう全然時間がなかったんですよ。監督は、多分撮りたかったことの半分も撮れてなかったんじゃないかな。『もう時間が来ちゃったし、これで何とかしますって言ったけど本当かよ?』って思ったけど何とかなっていましたね(笑)。無事に終わって良かったです」

――このところ、映像の話題作出演が続いていますが、岩谷さんご自身はどのように考えていらっしゃいますか。

「自分からとくには考えていませんでしたね。でも、今やっている『地面師たち』(Netflix)もそうですけど、大根(仁)さんの作品はめちゃめちゃおもしろいですよね。テレビの地上波ではできないエログロがちゃんとあるんですよ。結構その辺がやっぱりすごいなあって思います」

自分の中では、岡部(たかし)とやっている演劇ユニット『切実』みたいなのが中心ではあるんですけど、ドラマはそこから派生しているという感じですね。ありがたいなとは思いますけど」

――今、これをやりたいということはありますか。

「『切実』の公演をやりたいんですよ。でも、今は岡部も忙しくてお互い時間がなくてね。ふじき(みつ彦)っていう作家もいるんですけど、来年朝ドラを書くので忙しくて3人なかなか会えなくなっちゃっていて。現実的に難しいんですけど、小さいところで舞台を借りてちょっとやりたいなとは思っています」

――皆さんそれぞれかなりお忙しいですものね。

「そうなんですよ。こんなに忙しくなると思いませんでした。2回ぐらいしか顔を合わせてないんじゃないかな。前はずーっと一緒で毎日のように会っていたんですけどね。岡部が、もし自分が女だったら、絶対俺に抱かれているみたいなことを言っていたくらいですからね(笑)。こんなに忙しくなるなんて誰も思っていなかったですね」

全国順次公開中の映画『輝け星くず』に加え、2024年8月23日(金)からは映画『ラストマイル』が公開。『地面師たち』も配信中と映像作品が続く。スケジュール調整がかなり難しそうだが「切実」の公演もぜひ実現してほしい。(津島令子)