「未成年喫煙」が原因で五輪辞退が発表された体操の宮田笙子選手。この問題で一番得をしたのは誰なのだろうか(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

未成年にもかかわらず、喫煙と飲酒をしたことが問題視され、日本体操協会から出場辞退が発表された体操の宮田笙子選手。

我が国における「未成年と喫煙」の歴史を振り返った前編の記事ー喫煙で辞退「宮田笙子」なぜそこまで批判されたか 意外と関係深い、アスリートと喫煙の歴史【前編】ーに続き、今回の記事では意外と縁深い、アスリートと喫煙の関係性を振り返っていきたい。

アスリートとタバコは切っても切り離せない

前編で触れた通り、昭和や平成の初期までは、未成年の喫煙は今よりもはるかに多かった。90年代に「タバコ問題情報センター」が未成年者の喫煙について調査したところ、1978年に比べて1990年の未成年者によるタバコ消費本数は、6倍にもなっていたという。そのため、1991年には『スモークバスター』(ぱすてる書房)という中学生向け禁煙読本までもが発売されており、なんとも世紀末な現実があった。

その一方で今回の主題であるスポーツ界はというと、長らくタバコは当たり前だった。まず、サッカー界のスーパースターで、「フライング・ダッチマン(空飛ぶオランダ人)」という愛称のヨハン・クライフは15歳の頃からヘビースモーカーで、最期は肺がんでこの世を去っている。

サッカーのオリンピック選手でいうと、旧ソ連代表のゴールキーパーで「黒蜘蛛」の愛称で知られたレフ・ヤシンも重度のヘビースモーカーだった。タバコを吸って神経を落ち着かせるためとはいえ、1日で半箱吸っていたというのだから、「意外と喫煙者でも運動できるのか」と思ってしまう(ただ、クライフはよく走るフォワードである……)。

また、アメリカ人のゴルファー、アーノルド・パーマーもワンショットごとに一服するという猛者だった。さすがに忙しくないだろうか?

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ところで、「スポーツ栄養Web」という一般社団法人日本スポーツ栄養協会のサイトに掲載された「アスリート5人に1人以上がニコチン陽性反応、男性・パワー系・団体競技で高い傾向 イタリアの調査」という記事によると、イタリアでドーピング検査の一環で6万人のアスリートの尿検体を分析したところ、「解析対象全体のニコチン陽性率は22.7%であり、アスリートの5人に1人強が喫煙または喫煙以外の方法でニコチンを習慣的に摂取していることがわかった」という。ちなみに、これは2024年の記事である。

アスリートとタバコは無縁かと思いきや、実際はそんなことない。日本の場合はやはり「国技」である相撲と野球の世界はタバコと切っても切り離せない。

例えば朝潮太郎(4代)は名門・高砂部屋に入門したてのときからパカスカ、タバコを吸っていたため親方から控えるように言われたものの、「やめるなら死んだほうがマシ」と言い放ったという。

そして、野球界は1993年に巨人の桑田真澄がロッカールームでの嫌煙権を勝ち取るまで、移動のバスもロッカールームもプレスルームもタバコの煙が充満していたそうだ。しかも、助っ人外国人選手のウォーレン・クロマティがドン引きするほど、試合前にみんな喫煙していたという(『さらばサムライ野球』/講談社/1991年)。

さらに、野球界では「未成年喫煙」も過去に取り沙汰されており、現在大リーグで活躍しているダルビッシュ有は2005年、甲子園終了直後に校内での喫煙写真を目線入りで『FRIDAY』(講談社)が掲載。そして、日本ハムに入団して初めての春季キャンプでは『FLASH』(光文社)にパチンコ店で喫煙している様子を撮られている。

さらに、格闘家に転身した元西武の誠(現・相内誠)は2013年に仮契約の直後、アクアラインで無免許運転で暴走した揚げ句に保護観察処分を受けるが、翌年には未成年にもかかわらず飲食店での未成年喫煙と飲酒で大目玉を喰らった。

また、横浜などに在籍した北方悠誠という選手は、2014年に未成年喫煙が発覚して、プレイしていたフェニックスリーグから横浜に強制送還されている。

このような野球選手たちの事例を見ていると、確かに宮田選手に対する「酒とタバコくらい許してやれよ」という気持ちもわからなくない。なぜ、彼らは許されて、彼女は辞退させられたのか?

未成年喫煙が「カネになる」とわかってから…

それは、彼女が「かわいらしい女子体操選手」だからだろう。いつの時代も未成年女子の喫煙はスキャンダルの的となるのだ。

その発端は1983年の「ニャンニャン事件」だろう。当時、萩本欽一のバラエティ番組『欽ちゃんのどこまでやるの!』(テレビ朝日系)に出演し、女の子ユニット“わらべ”の一員として人気を博していた高部知子の、ベッドで裸でタバコをくわえている写真が、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)に掲載されてしまう。ちなみに、「ニャンニャン」とは記事中でセックスを指した隠語であり、わらべがリリースしたシングル「めだかの兄妹」の歌詞から取られている。

当時、清純派アイドルとして、テレビや雑誌に引っ張りだこだった高部はこれを機に、わらべを除名となり、番組も降板。高校も無期停学処分を受ける。しかも、この写真を流出させた男性は自殺を遂げている。誰も幸せにならない。

ただ、『フォーカススクープの裏側』(新潮社)によれば、この写真を掲載したことで雑誌の売り上げは一気に跳ね上がったという。つまり、「未成年喫煙」はニュースバリューとカネになることが判明したのだ。

1985年には『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系)の未成年メンバー6人が喫茶店で喫煙している様子を『週刊文春』(文藝春秋)にスッパ抜かれ、ひとりを除いてメンバーは降板。

1991年には茨城県土浦市と土浦市観光協会が主催した「第4回ミスつちうらコンテスト」で、審査員審査では最高得点だった女性が、会場のロビーで喫煙していたことを問題視され、ミス土浦を逃したことが新聞、テレビ、雑誌で騒がれた。

ただ、これは彼女の未成年喫煙が問題視されたわけではなく、「タバコを吸う女性はミスにふさわしくない」という理由でハシゴを外されたことが波紋を呼んだのだ(後にこの女性は美樹あゆみとしてセクシー女優デビューを果たす)。

そして、2006年には元・モーニング娘。の加護亜依の未成年喫煙が『FRIDAY』に掲載される。正直、写真の画質はかなりガビガビだったため、言い逃れできそうでもあったが、本人が誠実に事務所に事実と述べたため、謹慎処分となる。反省しているかと思いきや、その翌年には『週刊現代』(講談社)に再び未成年喫煙と18歳年上の男性と温泉旅行に行った写真付きの記事が掲載される。ついに、事務所は彼女との契約を解除して懲戒解雇となった。

ちなみに、1999年にはジャニーズJr.の未成年メンバー4人の未成年喫煙写真が『FRIDAY』に掲載され、4人は解雇の憂き目に遭ったものの、正直Jr.ということもあってか、誰も覚えていない。

スキャンダルの対象にされる日本の女性アスリート

やはり、未成年女子の喫煙スキャンダルのほうが「見映え」よく、ニュースバリューはあるのだ。その背景にはミスつちうらの一件のように「清廉潔白な女性はタバコを吸ってはいけない」という、社会通念がいまだに強く根ざしていると考えられる。だからこそ、スポーツ精神にのっとった、容姿端麗で、国を代表している宮田選手は辞退に追い込まれたといえるだろう。

【2024年9月5日11時35分追記】初出時、内容に一部不正確な記載がありましたので、修正致しました。

そもそも、安藤美姫、千葉すず、有森裕子など、かねて日本の女性アスリートはつねにスキャンダルの対象となってきた。それは「ニャンニャン事件」以降、世間は若い女性芸能人に向けるような「清廉潔白さ」を選手たちにも求めるようになったからだ。

「未成年喫煙者」という烙印を押された宮田選手が、今後そのプレッシャーを跳ね除けて復活を遂げる……。そんな未来が訪れるかは、今後の彼女の奮闘次第だろう。だが、世間から忘れ去られるまで、スキャンダルを狙われ続けるだろうし、仮に体操の世界で結果を残しても、過去の喫煙騒動は何度も思い出されるはずだ。

前編はこちら:喫煙で辞退「宮田笙子」なぜあれほど批判されたか 意外と関係深い、アスリートと喫煙の歴史【前編】


宮田選手が在籍する順天堂大学も、声明文を掲載することとなった(画像:順天堂大学公式サイトより)


20日までに、宮田選手は自身のインスタグラムの投稿をすべて削除している(画像:本人のインスタグラムより)

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)