💡記事のポイントTikTokは7月に「Deals For You Days」というセールを開催し、Amazonプライムデーに対抗。ロレアルなどのブランドが参加し、割引を補助して商品の販売を促進した。TikTokは米国でのeコマース事業を175億ドル規模に拡大する計画を進め、特に美容カテゴリーで成功を狙っている。ソーシャルプラットフォームならではの強みとして、ライブ配信も売上向上に貢献している。TikTokショップの顧客は価格を重視し、割引が購買の主な動機。セール時期に合わせてブランドが参加し、売上の大部分を狙うが、Amazonが依然として強力だとする見方もある。

動画共有アプリTikTokは、米国最大級のセールイベントとして7月に実施されたAmazonプライムデーに対抗。TikTokショップの各ブランドも繁忙期に合わせて準備を進めた。TikTokショップは、7月9日に開始した「Deals For You Days」と名付けたサマーセールの期間中に何千ものアパレル、美容製品、書籍、装飾品などを割引価格で提供した。イベント期間中はロレアル・パリ(L’Oréal Paris)、メイベリン・ニューヨーク(Maybelline New York)、トゥーフェイスド(Too Faced)などのブランドが限定商品を販売した。この発表は、Amazonが毎年恒例のプライムデーのセールを今年は7月16日と17日に開催すると明らかにした数日後に行われた。Amazonは2015年に初めてプライムデーを開催したが、それ以降、買い物客の間で高い人気を博し、ほかの小売業者もプライムデーとほぼ同時期に独自の競合セールを開催するようになった。そして今、TikTokもその流れに乗った。さらにTikTokは、セールを魅力的なものにするために特定のブランドに対して割引の補助を行った。

TikiTokショップの事業規模は175億ドルに

これはすべて、TikTokが米国で重要なeコマースプレーヤーになることを目指し、全米での禁止措置の可能性に備えて自らを強化するための努力の一環である。今年初め、ブルームバーグ(Bloomberg)はTikTokが米国でのTikiTokショップ事業の規模を175億ドル(約2.8兆円)に拡大する計画だと報じた。TikTokは米国におけるソーシャルコマースの成功の秘訣を探る野心的な計画の一環として、9月に米国版のeコマース事業をローンチした。eマーケター(eMarketer)のリテールアナリスト、スカイ・カナベス氏は次のように語る。「昨年、TikTokショップが大成功を収めたときには非常に強力なプロモーションが行われ、すぐに多くの商取引があったことからしても、今回の動きはTikTokにとってかなり賢明だ。その年の主力となるセールイベントに参加する大手eコマース企業として、TikTokが自社をアピールする絶好の機会となる」。TikTokにはバグや偽造品など、まだ若いプラットフォームの成長過程に伴う課題はあるものの、TikTokショップは勢いを増している。eマーケターによると、正式ローンチから7カ月の間に、米国のマーケットプレイス購入者の5分の1以上がTikTokショップで購入したという。6月にはキャンバスビューティ(Canvas Beauty)の創業者ストーミ・スティール氏が主催した1回のライブ配信で、初の100万ドル(約1.6億円)の売上を達成した。7月のTikTokのセール期間中、スティール氏はさらにライブショッピングイベントを主催した。

キャンバスビューティが1回のライブ配信で100万ドルの売上を達成した際のInstagram投稿

セールスの鍵を握る美容カテゴリー

eマーケターのカナベス氏は、TikTokショップのイベント期間中、もっともパフォーマンスの高いカテゴリーになるのは美容だと予想した。もしそうならTikTokは、自社のブランドポートフォリオにより多くの美容ブランドを引き込もうと総力を挙げて取り組んでいるAmazonとの厳しい競争に直面することになる。Amazonは今年のプライムデーの日程を発表した際、キールズ(Kiehl’s)やクリニーク(Clinique)といったトップ美容ブランド数社を宣伝した。eマーケターのデータによると、Amazonのパーソナルケアと美容製品の売上は、米国におけるこれらのカテゴリーのeコマース全体の売上を上回る伸びを示している。「TikTokにとって美容は、多くの有名ブランドやプレミアムブランドさえもTikTokショップに参加させることができたという分野ではあるが、ほかの多くのカテゴリーのブランドは少し躊躇している」とカナベス氏は言う。「このことは、美容のプラットフォームとしてのTikTokの強みを物語っている。発見から商品のリサーチ、そしてプラットフォームを通じて、ブランドから直接美容製品を購入することができるのだ」。ブランドにとって、TikTokの7月のセールイベントは、このプラットフォームのバイラル性を利用して、割引を狙う買い物客により多くの商品を手に取ってもらう機会であった。そのためにTikTokショップは一部の商品の割引を補助した。TikTokショップがデビューした当初は、割引や送料を負担することでセラーを引きつけたという点を考えると、これはTikTokショップが本来の姿に戻ることを示している。その後TikTokショップは支出を減らすためにこれらのサービスの一部を縮小し、セラーの手数料を引き上げてた。ジ・インフォメーション(The Information)は、TikTokショップが昨年5億ドル(約796.7億円)以上の損失を出しそうだと報じた。

ブランドのセールを割引補助

TikTokショップのすべてのブランドが、7月のセールイベント中に補助金付きの割引を受けられるわけではない。TikTokショップは一部の割引の費用を負担するが、そのようなオファーは招待制である。つまり割引を受けるのは、厳選されたブランドと商品のみとなる。テキサスを拠点とするブランド、BKビューティ(BK Beauty)でソーシャルおよびインフルエンサーマーケティング統括するソフィア・モネッティ氏は、7月のセールイベント期間中、同社では全カタログ74商品を20%オフで提供するとインタビューで語っていた。TikTokがその一部を補助することはないが、BKビューティのベストセラー商品であるファンデーションブラシとコンシーラーブラシの2つの商品には、TikTokが負担する追加クーポンが提供された。クーポンの範囲はさまざまだ。BKビューティのファンデーションブラシはさらに15%割引されるが、コンシーラーブラシは10%しか追加割引されない。その上、TikTokショップは、モネッティ氏が「共同出資クーポン」と呼ぶものを提供している。たとえば、同プラットフォームでは、149ドル(約2万4000円)以上の購入で40ドル(約6400円)引きのクーポンを提供しており、この場合、ブランド側がクーポンにかかる費用の半分を負担し、残りをTikTokショップが負担する。「これは昨年夏にTikTokショップに参入して以来、私が見た中でもっとも多い補助金だ」とモネッティ氏は言った。「当社はベストセラー商品を割引で少し強引に販売することを選択している。さらに自腹を切ることになるが、その代わりブランド認知度が高まり、顧客がより多くの商品を求めて戻ってくるようになる」。同様に、ニュージャージーに拠点を置くコラーゲンブランド、オブヴィ(Obvi)のCEO兼共同創業者であるロナック・シャー氏も、TikTokのセールイベントが必ずしも利益をもたらすとは考えていない。むしろ、同氏はより多くの顧客を自分のブランドに引き付けるために、「非常に大胆な価格設定」を計画している。「このイベントは100%、商品発見と、より多くの商品を人々の手に届けるためのものだ」とシャー氏は言う。「2、3ドル儲かれば上出来だ。損をしない限り満足だ」。

TikTokショップで購入する理由は「価格」

7月のセールイベントは、インフレや高金利の影響で買い物客が特に価格に敏感になっている時期に開催された。TikTokショップのセラーにとっては追い風となる環境だ。eマーケターが実施した調査では、TikTokショップの購入者の半数近くが購入理由の上位に「割引」を挙げており、さらに24%は同プラットフォームの一般的な低価格を挙げている。TikTokショップの人気が高まっているにもかかわらず、Amazonでも販売し、今年のプライムデーにも参加しているシャー氏は、売上の大部分を占めるのはAmazonだろうと予想した。同氏は、7月のセールイベント期間中、売上全体の20%はTikTokショップによるもので、残りはAmazonが占めると予測した。[原文:Amazon Briefing: How brands are preparing for TikTok Shop’s Prime Day-like sales event]Allison Smith(翻訳:Maya Kishida、編集:戸田美子)